第4話 お嫁さんになる
ニーアベルはトゲのある薔薇を持って歩き出す。
隠れ家に戻るつもりのようだ。
「あぁでも、二日後には実験に使っちゃうかも〜」
「最低」
「酷すぎる」
「ニーアベルは友達が少ない」
不機嫌そうに振り返ろうとした時、魔女ニーアベルの持つ薔薇が光った。
眩しさのあまり、ニーアベルは薔薇を手放す。
私は大地の感触を感じてまぶたを開く。
痛みが消えていた。貫かれた傷が治ってる。私の身体は、私のモノだった。
破れた服をなぞっていく。
一番気に入っていたのに、残念だ。
顔を上げると魔女ニーアベルは見たことない顔をしていた。その驚いている表情も可愛らしい。
次の瞬間、私も目を見開く。
そばに半透明の女性が立っていた。
「せ……」
『ごほん。あらあら、ニーアベル。私の娘……もしかしたら孫かもしれないわね。契約を破棄したくて、心臓を狙ったわね?』
「セセバノ!?」
「おばあ……ちゃん……?」
ニーアベルは私を一瞥する。
『そんなに人間を食べたくなったの? 私と友達になってくれたらその契約は解かれると言うのに、本当に頑固ですね』
「セセバノ……! ずる賢い魔女め」
魔女ニーアベルは唇を噛み締める。
……おばあちゃんも?
『可哀想なひとりぼっちのニーアベル』
「ひとりじゃないしっ、可哀想とか言わないでよね!?」
ニーアベルが怒ってる……! 可愛いっ。
どうにか半透明の女性を消そうと、魔女ニーアベルが殴りかかった。しかし、すり抜けてしまって悔しがっている。
可愛い……。
半透明のおばあちゃんは「ふふ」と笑いながら、キョロキョロとする。
『そうねぇ。ここからは私の子孫へ。…………偉いわ。ちゃんと私の言いつけを守って、ペンダントを身につけていたのね』
「おばあちゃんも、ニーアベルの友達になりたかったの……?」
『ねぇえ、できれば友達になってあげて。嫌なら、私のところに送ってちょうだい。そのペンダントを割ればニーアベルを殺せるわ』
おばあちゃん、ニーアベルを殺すなんてとんでもないわ。私は彼女と友達になって、お嫁さんになるんだから。
たとえおばあちゃんだとしても、それは譲れない。
ニーアベルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「バカじゃないの。殺されかけた相手の友達になろうだなんて考えるわけ――」
「ニーアベル。お友達になりましょう? 私はもっと深い仲にもなりたいわ」
魔女ニーアベルは引き攣った表情をした。
そして、一歩二歩と下がっていく。
いつも自信に満ち溢れていて、余裕なのに。今日はたくさんの表情を見せてくれる。取り乱しているニーアベルは最高に可愛い。
「ニーアベル、お友達になりましょう?」
「お、お断りよ! あと、セセバノ生きてるじゃない! なぁ〜にが、私のところに送ってちょうだい、よ!! 私だけ逝くじゃない!?」
「おばあちゃんのこと気にかけてくれてるの? ありがとう! きっと喜ぶわ! 私やっぱり貴方のお嫁さんになる!」
「違っがう! ちょっと!」
私はニーアベルの手を引く。
「あれ!? どうして魔術が使えないのよ!?」
私が彼女の魔術を身に受けて、中から喰らい尽くすこと。それが強い魔女であるニーアベルの魔術を、私の魂で縛り付けるために必要な手順。
術が解かれる前に私が死ねば、魔女ニーアベルは一生魔術を使えなくなる。
師匠が何を言っているのか分からなかったけれど、私は成功したみたい。
不発に終わる魔術に、ニーアベルは焦って冷や汗を流す。
私は優しいから、種明かしをしてあげる。
「私は恋の魔女なの」
「はぁ!?」
「術が解かれないまま私が死んだら、貴方の魔術は私が持っていっちゃうからね」
私は足を止めて、繋いだ手を両手で包み込む。
「だから、私を守って。私を愛して? 私の愛を受け入れて。そうすればニーアベルは、また魔女として傍若無人な振る舞いをできるわ」
ニーアベルはぽかんとしていた。今の状況が理解できないみたいに。でも彼女は頭がいいから、そのうち私の愛を受け入れてくれると思うの。
私は微笑みを浮かべて、彼女の手を引く。
「おばあちゃんに会いに行きましょう♪」
私は魔女になったことを後悔なんてしない。ニーアベルと幸せな家庭を作って、一緒の棺桶に入るの。
これは理想だけど、それが出来たらとっても幸せ。
おばあちゃん。
希望に満ちた未来が見えます。おばあちゃんの友達をとってごめんね。でも私は魔女だから。
「お、おーい……」
「完全に我らは忘れられてるな」
「ニーアベル、友達できた……?」
「妻ができたようだね」
「相変わらず友達はゼロか。ミイラになってくれれば我は友となろう」
「かわいそう……シシシッ」
「ちょっと聞こえてるわよ!? 助けなさいよ!」
魔女キナに引っ張られるニーアベルに、異形たちは笑顔で手を振った。
___
二人の魔女の物語は続くのでしょう。
良かったら、『星』を入れていってください。お願いします!
魔女ニーアベルの友達が少ない理由 水の月 そらまめ @mizunotuki_soramame
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