今度こそと思ったら事件が起きた話(後編)
山裾を回ったけれど、どこにもメイメイの姿は見えなかった。
家の前にちょうどパズーさんとペクさんもやってきた。けど表情で見つからなかったとわかった。
リュク、どこ行っちゃったの……?
クーとミミが揃ってピクッとする。そして空を見上げた。
大きな影。と思うと、降り立ったのは黄虎だった。背にはモードさんを乗せている。
「オーナー」
パズーさんとペクさんが声を揃えて駆け寄る。
「どうした、何かあったのか?」
「それが、リュクの姿が見えなくて。牧場の中を隅々まで探したのですが……」
「そうか」
モードさんは顎に手をやる。
「では。俺は領主への伝達と街の方を探してくる。ペクとパズーは反対方向から見てきてくれるか? ティアは牧場の中にいろ。戻ってくるかもしれないし」
モードさんがすぐに指示を出す。
わたしたちは頷いて行動に移した。
わたしはクーやミミに通訳してもらって、みんなにリュクのことを聞いて回った。けれど、ただ見ていないとしか答えはない。
しばらくしてパズーさん、ペクさんが疲れた表情で帰ってきた。
やはりリュクの姿はなく……。
モードさんも黄虎と一緒に帰ってきた。
お義父様たちにそのことを告げ、黄虎に魔物がいないか気を飛ばしてもらったけど、メイメイのような弱い魔物は黄虎の感知に引っかからないそうだ。
領内も見てきてくれたけど、どこにもリュクは見当たらなかった。
暗くなってきたので、今日の捜索は切り上げることにする。
食事の用意をして、モードさんに謝る。
やっと帰ってこられたのに、こんな騒ぎになっていてごめんなさいと。
「なんでティアが謝るんだ? 俺にも責任がある。メイメイは全然飛んで行かなかったから、対策をとっておかなかった。元気を出せ。明日、また町に探しに行こう」
わたしは頷く。ちょっとばかり味気のない食事をとり、お風呂に入る。
出てからお茶を入れて、お城での話を聞いた。
モードさんは聖女行脚について聞かれると思っていたけれど、アドバス王子は婚姻祝いは何がいい?とふざけたことを聞いてきたと、ちょっと口を尖らせる。
「え? 婚姻祝いは何がいいかってわざわざ聞くために?」
「そうだ」
「よっぽどモードさんと直接話したかったんだね」
なにしろわたしと同じモードさん大好き同盟員だもの。
ニコニコしていると、モードさんはわたしを見てため息を落とす。
「それにしても時期というのがあるだろう。帰ってきてすぐに呼び出すなんて気の利かないやつだ」
あははははは。
「しばらく呼び出さないように言っておいた。俺は新婚だからなって」
あら。
熱を帯びた瞳と目が合う。
なんか一気にそういう雰囲気になっちゃった。
これはやっぱり……。
「風呂に入ってくる」
わたしはモードさんの背中を追いかける。そして小さい声で伝えておく。
「モードさん、後で寝室にいくね」
恥ずかしくて顔は見られなかった。モードさんのカップを手にとり、流しに持っていく。クーとミミがわたしの肩に乗ってきた。
『もう眠るの?』
「うん、眠ろっか」
洗い物はわたしとモードさんのカップ。そしてクーとミミのミルク皿だけだからすぐに終わる。
ふたりと一緒に、自分の部屋にあがった。今日は籠ではなく、わたしと一緒に寝るというので、一緒にベッドに入る。
寝ないように気をつけなくちゃ。
明かりを消して、おやすみと言って、ゴロンと横になる。
少しすると、モードさんが階段を上がってくる足音が聞こえた。
数歩、そしてドアが開く。寝室だ。
どきっと胸が高鳴る。
ミミは横向き、クーはお腹を天井にむけて、むにゃむにゃ眠ってる。
わたしはそっと起き上がる。
素足のままゆっくり歩いて、ドアを開けた。
キーッと音がして、ちょっとどきどきしたけれど、クーとミミは起きなかった。ほっと胸を撫で下ろして、努めて静かにドアを閉める。
そしてそうっとそうっと歩いて、寝室のドアを開ける。
「モードさん」
小さい声で呼びかけると同時に、ドアのすぐ前にあった何かにぶつかった。
と思ったらモードさんだった。
両頬を両手で持たれて、爪先立ちになる。モードさんはしっかりとわたしに口づけをしてきた。いきなり激しく食べられそうな勢いで、頭が真っ白に。
モードさんはわたしから手を離して後ろに下がり、ベッドに座った。
「嫌になったか、のあ?」
「そ、そんなわけない……」
一歩二歩と近づき、正面に抱きつくか、隣に座るか迷う。
するとガバッと抱きしめられた。
「まずいな。お前の全てが可愛すぎて、抑えがきかなくなりそうだ」
そ、そんなことを耳元で囁かないで。
甘い口づけが、横にそれて首に移行していく。
う、うわっ。
びくっとすると、モードさんが止まった。
あ。嫌がったと思われた?
わたしは自分からモードさんに口づけた。そしてモードさんがしたように、モードさんの耳元にキスをする。なんか口で攻撃してるみたいな勢いになってしまった。
モードさんがくすりと笑う。
「のあ。くすぐったい」
くすぐったい? 痛くなかったのかな? とモードさんを見たら目があった。わたしの手を取って引き寄せられる。モードさんの胸に抱き込まれた。
浮遊感があったと思ったら、ベッドに寝かされていた。モードさんに上から覗き込まれる。
顔が近づいてきて、深い深いキスが始まった。
求められて探られて、自分の息遣いが恥ずかしくて、顔が離れた時モードさんを見られなかった。
そちらに集中していたので、カランと音がした時は驚いた。
それはわたしだけでなくモードさんもだ。
『こっちで寝ることにしたのか?』
専用の出入り口の板を揺らして入ってきたのは、クーとミミだ。
モードさんは慌ててわたしから離れ、横にゴロンとなる。
「あ、うん。ちょっとだけお話してからね」
『そうか。じゃあオレ様たちも、今日はここで寝りゅぞ!』
あ。
ああ。
クーとミミはシュタッとベッドに上がってきて、枕の真ん中を陣取り寝床にした。そして丸くなりあっという間に眠りに落ちた。
わたしとモードさんは目を合わせて笑ってしまった。
可愛い邪魔が入ってしまった。でもこれはちょっと考えないとだな。
すー、すーと寝息が聞こえる。
ひそひそ声で
「わざとじゃないだろうな?」
というから笑ってしまった。
モードさんが身を起こすから、わたしも身を起こす。
モードさんが近づいてきて、口づけを落とす。
チュッチュッとして3回目で深いのになっていく。
支えあって、お互いを探っていく。体が熱を帯びる。
自分の荒くなりそうな息がものすごく恥ずかしい。
一瞬離れる。
モードさんも体が熱くなってるみたい。
モードさんの視線がちらりとクーとミミを見る。
ふたりはぐっすり眠っているように見える。
ふわっと浮遊感。モードさんがわたしを抱きかかえソファーへと移動した。
わたしを横抱きにして、耳元に囁く。
「これ以上進んだら、何があっても止まれなくなる自信があるんだが、どうする?」
そ、そんなの……。手をソファーについたつもりがもっと温かいモニョっとしたものを触っていた。
「メェエエエエエエェェエエエーーーーー」
メェエー??
「え、リュク?」
「メェーー」
今度は名前を呼ばれたお返事だろう。
「も、モードさん、リュクがいた」
「そうみたいだな」
憮然とした声。
な、なんでリュクがこんなところに!?
牧場の中を探しまわったけれど、家の中はさすがに調べなかった。
だってぴーちゃんたちだって、今まで家の中に入ってきた子はいない。
わたしたちは久しぶりに家に帰ってきた。
時折、家に風を入れ、1階の掃除を軽くしてくれてはいたみたいだ。
今日わたしはしっかり掃除をした。窓を開けっぱなしにして風を入れ、使うだろう寝室も掃除した。お布団も風を入れてお日様に当てた。全部のドアも開けっぱなしにしていた。つまり、リュクはわたしたちが探し回っている間も、恐らく寝室にずっといたということね。
リュクが見つかったことはよかったけれど……。
とりあえず、リュクを厩舎に連れて行った。
夜も遅いから、パズーさんたちには明日の朝、話そう。
わたしとモードさんは顔を合わせた。
すっかりしっとり雰囲気はどこかにいってしまった。
「寝室はわたしとモードさんだけの部屋って、クーたちに言うね」
そう告げると、モードさんは笑った。
「そうだな、それがいいな」
モードさんは腕組みをしたまま頷いた。
その後、わたしはモードさんにペタッと張り付いてよく眠れたけれど、小さなクーとミミと距離を取りつつ眠ることに慣れてないからか、モードさんはよく眠れなかったみたいで赤い目をしていた。
次の日、クーやミミに通訳してもらいリュクに尋ねると、オーナーが帰ってきたことにより、牧場内はシャキッとしたというか多少活気があったみたいなんだよね。それでいつもよりうるさかったと。
リュクはのんびり静かにお昼寝するのが大好き。
日の当たるところを探してさまよい、家の中の寝室でベストな場所を見つけた。
寝室は、窓も大きくて日当たりいいからね〜。
それで日の当たるところを追いかけて部屋の中でまどろんでいたらしい。
夜にはすっかりスイッチが入って、しっかり眠っていた。
気持ちよく眠っていたので、お腹が空いたことも気づかなかったようだ。
わたしは家の中に入ってくるとしても1階までと規則を作った。
それから他のメイメイたちにも、もし牧場から出たくなったら街の外まで送っていくから、自分だけで出たりしないでねと約束をした。みんな牧場を気に入ってくれているようで、今のところ出ていこうと思っている子はいないみたいだ。それはコッコたちも同じだった。
クーとミミにも、眠る場所はわたしの部屋だけにすることのお約束をした。
これでもう邪魔は入らないはず。
二度あることは三度あるという。これを身をもって体験することになったけれど、この時はそうは思わず、よし、今夜こそ!とよくわからない決意をしていた。
そう、けどほんっと、二度あることって三度あったりするんだね。
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