第203話 上納金
「ケッ!せいせいしたぜ!」
逃げ帰ってゆく、三機の飛空艇に向かって、エルフ娘が捨て
三機のうち一機は、砂に突き刺さっていた。
でも、残りの二機で
そして、そのまま、二機でぶら下げて、逃げて行った。
「でも、ちょうどよかったよね」
アネットの言うとおりだった。
『地下都市』は、これまでの入口を封鎖した。
これからは、採掘の時しか、『地下都市』を利用しないからだ。
この状況で、出入り口を残しておくのは、むしろ危険なことだ。
誰が、何が、入り込んでくるのか、わからないから。
見張りを立てるなんて、無駄だし。
それで、封鎖することにしたんだ。
これで、『地下都市』には、関係者以外は入れなくなった。
入るには、【転移陣】を使うしかないのだから。
コレを期に、他の『大街』とは、関係を断つらしい。
欲に目がくらんで、攻め込んできた連中と、仲良くできるわけもないし。
「最後に、きっぱり言ってやったから、気分がいいの」
ヒスイが、いかにも、せいせいしたように言った。
もちろん、『言ってやった』のは、エルフ娘だけど。
「帝国と仲良しになったことも、ちゃんと伝わったはずなのです」
飛空艇団の団長ラムと、クラリスが、親しいことも気づいたろう。
だとすれば、帝国は、たんなる交易相手ではないこともわかるはず。
「ええ…。あのオアシスに手を出してきたら、帝国は、黙っていませんわ」
飛空艇団長の黒ドレスも、頼もしいことを言っている。
「では、わたくしも、そろそろ、帝国に帰還いたしますわ。
みなさま、今後とも、クラリスちゃんを、よろしくお願いいたします」
黒ドレスは、深々と頭を下げると、帝国に戻っていった。
「じゃあ、オレたちも、戻るか」
エルフ娘を送りがてら、ぼくらも、【古代遺跡のオアシス】に向かうことにした。
オアシスに転移するなり、冒険者たちが、駆け寄ってきた。
そして、どすん…と大きな木箱を、床に置いた。
木箱には、大きな石ころが、山積みされている。
「待ってたぜ、兄ちゃんたち!
これは、あんたがたの取り分だ。
まあ、一回目の上納金ってところだな」
冒険者のひとりが、ニカっとして、言った。
ほかの冒険者も、ニコニコしている。
ぼくは、眉をひそめた。
「上納金?」
この石ころが?
「鉱石なのです」
「宝石の原石もあるの」
ルリたちが、木箱を囲んで、大きな石をツンツンしていた。
ただの石ころではなかったらしい。
__でも
そもそも、なんで、上納金なんだろう?
「今回のお礼と、あと、オアシスの賃貸料ね。
転移魔法の対価にも、この広大なオアシスにも、
ちょっと、見合ってないかもしれないけど…」
エルフ母が、苦笑しながら、説明してくれた。
もちろん、エルフ娘も隣にいる。
並んでいると、まるで美人姉妹のようだ。
『いらんぞ』って言おうとしたら、アネットたちに釘を刺された。
「シュウくん。受け取ったほうがいいよ」
「そうですね。受け取らないと、かえって困らせてしまいます」
まあ、そういうものなのだろう。
ぼくの感覚では、あまりピンと来ないけど。
たしかに、この一週間、引っ越しの手伝いをした。
砂漠を飛び回り、転移魔法陣を設置した。
たいへんといえば、たいへんだった。
__でも、ぶっちゃけ
貰った飛空艇の
ちいさな村や街も、見てみたかったし。
もちろん。人助けの気持ちも、なかったわけじゃない。
でも、それは、たまたま、気が向いただけだ。
胸を張って、言えることじゃない。
そんなことを考えていたら、エルフ母が、小声で言った。
「うふふ…。なんなら、ウチのカミラで、支払ってもいいのよ…」
たちまち。娘が、涙目になって、食って掛かった。
「ひでえよ、母ちゃん!
オレに、こいつの奴隷になれって言うのかよ!」
もしかして、本当に、売られると思ったんだろうか。
__やっぱり
エルフの女の子って、この手の話には、
ソフィアを、基準してはいけないと思うけど。
まあ、ちょうどいいので、聞こえないふりをしていた。
エルフ娘は、『身内』扱いになった。
だから、あちこち、出入り自由だ。
【母船クーマ】に遊びに行けば、暗黒大陸のエルフが何人もいるだろう。
ドワーフの妹エルフとも、仲良くなったらしい。
元ヒューマンのぼくなんかより、そっちのほうがいいに決まっているのだから。
*
【卵ハウス】に帰還して、リビングに入ったら、外に大蜘蛛たちが見えた。
ビアンカやヴァイス、そして、カラスまでいる。
なにやら、【世界樹】の湖のほとりに、若木を植えてるようだ。
湖とは、もちろん、元クレーターのことだ。
今は、すっかり、湖っぽくなっている。
「『大蜘蛛の領域』から、【世界樹】を連れきたのですね」
ソフィアが、ぽつりと言った。
__そういえば
『大蜘蛛の領域』には、ちいさな池があった。
その池の中央には、小島があり、そこには、若木が生えていた。
「アレは、【世界樹】だったのか…」
だから、あの池の周囲には、薬草がたくさんあったんだ。
霊薬用の薬草もあって、隣の大陸に渡る時に、採取しておいた。
そのお陰で、公国の皇女の折れた足を、きれいに治してやれたんだ。
「ビアンカちゃんも、ヴァイスちゃんも、頑張って手伝ってるんだね」
なんとも微笑ましそうに、アネットが言った。
「じゃあ、オレたちも行くか?」
誰にともなく尋ねると、ソフィアが、静かに首を振った。
「いえ。行かないほうがいいでしょう。
あれは、せめてもの『罪滅ぼし』。
だから、彼らに、任せてあげたほうが、いいと思います」
__『罪滅ぼし』?
どういうことだ?
でも、首をかしげているのは、ぼくとアネットだけだった。
ソフィアも、ルリも、ヒスイも。
みんな、じっと、ビアンカたちを見守っている。
マフユですら、若木から離れた場所で、見守っているようだ。
「シュウくん…」
アネットが、こくりとうなずいた。
「そうだな」
今、話す必要があるなら、とっくに話しているだろう。
__だったら
ムリに、聞き出す必要はない。
近頃は、大蜘蛛たちも、【聖域】にいる時間のほうが長いらしい。
むしろ、引っ越してくれればいいのにと、ぼくは思っている。
__でも
そうなると、【世界樹】は、ひとりぼっちになってしまうのか…。
『罪滅ぼし』は、さっぱり、わからないけど、連れてきた理由は、わかった気がした。
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