第75話 荷出しのお仕事

一時間後。



ぼくたちは、とある商会の倉庫に来ていた。


結局、美人のお姉さんに勧められた仕事を、引き受けたんだ。



倉庫の荷物を、馬車まで運ぶカンタンな荷出しの仕事だった。


ぜんいん、収納持ちのぼくらには、まさに、うってつけだ。




ちなみに、ぜんいん収納持ちってのは、【偽装】じゃない。




ソフィアは、【収納魔法】がもともと使える。


ルリとヒスイは、ぼくの【眷属】だから、【卵ハウスの倉庫】が使える。



つまり、使えないのは、アネットだけだ。


でも、今では、アネットも【卵ハウスの倉庫】が使えるんだ。



これは、【偽装アイテム】のオマケ機能。


【眷属化】だ。



これによって、ぼくの【加護】も共有できるようになった。


アネットの安全性も、暴上がり?


ぼくも、ソフィアも、心底ほっとしたよ。



ソフィアも、今では、【卵ハウスの倉庫】を利用している。


【収納魔法】は、魔力消費も少なくないからね。



みんなで、女神に、感謝したよ。





馬車10台分の荷物を、あっという間に収納。


五人で一斉に【収納】したんだから、当たり前。



馬車まで運ぼうとした時だった。



「ち、ちょっと待ってくれ!」


担当のお兄さんに、引き止められた。



「まさか、ほんとうに全部、収納できるとは思わなかったんだ。


商会長と相談してくる。


少し、そのままで待っていてくれ!」



待っていると、商会長がやってきた。


商人というより傭兵のようなだった。



「リーダーは……、あなたかしら?」



ざっとぼくたちを見渡して、ソフィアに尋ねた。


口調は、意外と紳士的。


いや、むしろ、淑女らしいって言うべきなのか?



「ちがいます。私は、17歳のエルフの小娘にすぎません」



とうてい、小娘と思えないほど、堂々と言い放った。


よほど、『エルフ17歳』という設定が、気に入っているらしい。



「ま、まあ。そ、そうだったのね。


ご、ごめんなさい。それじゃあ……」



ソフィアの態度に気圧されたのか。


傭兵のようなおっさんが、どぎまぎしていた。


たぶん、気のいいおっさんなのだろう。



「リーダーは、オレだ」



オネエのおっさんが、アネットに声をかけようとしたので、自分から言った。



「あらあら、ごめんなさい。ぼうやがリーダーだったのね」


「ぼうやではない。シュウだ。


あんたのことは、おっさ……、商会長と呼べばいいか?」



おっさんと言おうとしたら、般若のお面のような顔になった。


それで言い換えた。


難しいよね、ジェンダー関連って。



「うふふ……。ものわかりのいい子は、きらいじゃないわよ。


それでね。シュウちゃんに相談があるのよ」



話は、簡単だった。



そのまま、目的地まで、いっしょに来てほしい。



これだけだ。



もちろん、その分の報酬も、ちゃんと上乗せされる。


食事も用意すると言ったけど、これは断った。



アネットが、ひそひそ事情を説明してくれた。


「馬車10台分の費用と、数十人分の人件費が、浮くんだよ。


商人なら、食いつかないはずはないよ」



「うふふ……。お嬢ちゃん。それだけじゃないのよ。


目的地まで、かなり早く到着できるし、護衛も最低限でいい。


費用もさることながら、とにかく身軽なのは楽でいいわ。


10台以上の馬車と大人数で移動するってね。


ほんとうに、神経をすり減らす大仕事なのよ」


オネエ商会長が、うんざりした顔で言った。



ぼくたちに、断る理由はない。


馬車で旅行するだけで、報酬が増えるんだから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る