第24話 妖精

城門を入ってすぐ、冒険者ギルドが見つかった。


日が沈むには、もう少し間がある。


さっそく、冒険者ギルドへ向かった。



雛竜は、フードでぐっすり眠っている。


まだ、赤ちゃんなのに、無理をさせてしまったろうか。


ぼくも、すこし、おとなげがなかったかもしれない。



でも、雛竜は、楽しそうだった。


思えば、遊んでやったのは、今回が初めてだった気がする。


これからは、もっと遊んでやろう。






「これで、登録は完了です。


カードを再発行する際には、銀貨一枚が必要です。


紛失や破損しないよう、ご注意くださいね」


美少女受付嬢が、にこやかに言った。



「わかった」


カードは、あっさり手に入った。


ランクは、『F』。 最低ランクだ。



そのまま、掲示板に行って、薬草採取の依頼を探した。



『最低ランクの冒険者になり、薬草を探す』


これは、異世界転移の定番だ。はずせない。



薬草採取の依頼は、ちゃんとあった。


常設になっているので、採れなくても、ペナルティはないようだ。



ぼくは、安心して、森へ向った。



城門を通る時、大勢の騎士や魔道士が見えた。


なんとなく、物々しい雰囲気だ。



__何か事件でもあったのかな?



巻き込まれてはたいへんだ。


ぼくは、そそくさと城門を通った。







「困った!」



ぼくは、森の入口付近で、途方に暮れていた。


薬草が見分けられないんだ。


掲示板で絵を見た時は、簡単だと思ったんだ。


意外と奥が深いのだろうか?



思えば、日本にいた頃から、植物への関心は薄かった。


たいがいは、『草』とか『花』とか呼んで済ませていた。


『ひまわり』とか、『チューリップ』くらいなら識別できたけど。


21世紀日本の男子高校生なんて、そんなものだと思う。



適当に、引っこ抜くわけにもいかない。


しかたがないので、いったん休憩。


少し遅いけど、おやつの時間にしよう。



【自給自足用タブ】を開いて、チョコチップを取り出した。


ドワーフ製の小鉢に、入れてある。


それと、熱いコーヒー。


鍋で沸かしてから【収納】しておいた。


こういう時は、糖類とカフェインだよな。



「ひっ!」



なぜか、いつの間にか、虫に囲まれていた。


油断した。


ここの森は、クレーター付近の森みたいに、鬱蒼うっそうとしてない。


だから、つい、虫の脅威を忘れていた。



__ん? 虫じゃないって?



なんか、ちっこいのが、ぷんぷん怒ってる。


よく見ると、透明な羽のある小人だった。


フェアリーってヤツかな?



みんなで、小鉢をのぞき込んでいる。


チョコチップの入った小鉢だ。



__たべたいの?



みんなで、うんうんうなずいてる。


ちょっと、かわいい。



__よしよし。あげよう。



チョコチップだって、『999キロ』作った。


ドワーフたちに分けてきたけど、まだまだある。


消費しないとな。



深皿を、ニ枚ばかり取り出した。


もちろん、ドワーフ製だ。



そこに、ジャーっと、チョコを積み上げた。


チョコチップのちいさな山が、ふたつ出来た。



妖精たちが、集まってくる。


なんだか、甘いものに群がるありのようだな。



__え、なに?



蟻といっしょにするなって?


ああ、それは、失礼。



30分くらい経ったろうか。


ようやく、最後のひとりも、どこかへ行ってしまった。


そろそろ、店じまいにしよう。


あたりも薄暗くなってきたし。



結局、薬草は、一本も採れなかった。


妖精に、チョコを配りに来たようなものだ。



まあ、それはそれでいいか。


かわいかったからな。



そろそろ、帰ろうと腰をあげた時だった。



「ひっ!」



周囲を、虫に、包囲されていた。



__え?



なんで、また勘違いするんだって?


ごめんごめん。


君たちだったんだ。



お礼に、いろいろもってきたから、受け取れって?



__ああ……。ありがとう。



その気持ちだけでもうれしいよ。



また、妖精たちが集まってきた。


そして、ぼくの前に、いろいろ積み上げていった。


草やら花やら木の実やら。たくさんある。



__うーん。



これ、食べられるのかな?


でも、せっかく持ってきてくれたんだ。


無駄にはできない。


ちゃんとしまっておかないと。



ぼくは、新たに【妖精からの貰い物タブ】を追加。


そこに、かたっぱしから放り込んだ。


もちろん、【時間停止】だ。


枯れたり、しおれたりしたら、申し訳ないから。



__ずいぶん、いろいろあるな。



【収納】すると、名前がわかる。


逆に言えば、【名前】と【種類】程度しかわからない。


たとえば、『ケハエール・薬草』なんてのがあった。


こうして、名前を見ていると、薬草も面白そうだ。


自分では、一本も、採れなかったけど。



今日は、もう遅いから、明日、ギルドへ行ってみよう。


そして、面白そうな薬草を、買取りに出してみよう。



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