推し殺人事件

滝口アルファ

第1話

可もなく不可もない、

人生を過ごしていた

犬養いぬかいさやかのもとに、

女神は突然現れた。


さやかの自宅アパートの隣室に、

森原もりはら瑠璃子るりこが引っ越してきたのだ。

瑠璃子はぞくっとするほどの美人で、

さやかは一目惚れした。


犬養さやかは、

25歳の地方銀行に勤務する、

銀行員である。

瑠璃子が引っ越してきた日も、

家でごろごろぐたぐたしていた。

しかし、

瑠璃子が引っ越してきてから、

人生が輝き始めた。

さやかにとって瑠璃子は、

生まれて初めての推しだった。


さやかは、

その後も、

瑠璃子とかず離れずの距離感を大事にした。

アパートの廊下などで会っても、

内心は飛び上がるほど嬉しいにも関わらず、

挨拶を交わす程度の付き合いを続けていた。

それが、

推し・瑠璃子に対する、

さやかの愛情だった。


ある日、

さやかが、

瑠璃子のSNSをチェックしていると、

見慣れない女が現れた。

瑠璃子のSNSに、

その女が現れる頻度は、

増していく一方だった。

さやかの中に、

忌まわしい直感が走った。


(この女は瑠璃子に恋愛感情を抱いてる!)


その女の正体はすぐに分かった。

瑠璃子はネイリストだったが、

その女は、

瑠璃子の勤務する、

ネイルサロン「エクセレント」の

経営者兼社長の浜口エリカだった。

エリカのSNSによると、

エリカは35歳。

誰もが知ってる有名大学を首席で卒業。

見た目は、

それほど美人というほどでは無かったが、

いかにも出来る女という感じだった。


さやかの心は、

激しく揺れ動いた。


(瑠璃子に恋人がいるのは仕方ない。

だってあんなに美人だもの。

男たちは放っておかないだろう。

だけど、

その相手が私と同じ女性だなんて。

しかも10歳も年上のオバサンだなんて。

羨ましい。

いや、

憎たらしい)


さやかは、

自分の中の嫉妬の炎が

激しく燃えさかるのを感じたが、

すぐに、

冷静になって、

考えた。


(あの女社長が、

いくら瑠璃子に好意を抱こうと、

あの瑠璃子が、

私の愛する推しの瑠璃子が、

あんなオバサンを、

相手にするわけがない)


さやかは、

そう思い至ると、

ホッとした。


(私の直感は、

いつも外れるから、

今回もきっと、

勘違いに違いないわ)


さやかは、

平常心に戻ったが、

その日は、

早めに眠ることにした。









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