0002 十六歳になった私の扱い
家の社交パーティの場でひそめているつもりなのか、わざと聞かせているのかわからない親戚たち、招かれた客たちが囁く通り。私はひとり、広間の隅で突っ立っている。
肝心のニアリスは、といえばパーティのメインであるダンスの相手漁りに夢中。彼女には、すでに親同士が決めた
彼の肩にはニアリスの大きい核石に負けない大きさ、硬度の核石が輝いていて、許嫁の
意味がわからん。少なくとも私にはわからない。今年、私は十六歳になる。家の方針で決められていた通り、私は学園に入学することが決まっている。きっと、そこでも。
私は延々後ろ指差されて、笑われて生きていくのだろう。両親も私に婚姻の価値がないから学校に通わせてどこかいいところのご子息に気に入られたら占めたもの。そう言っていたもの。兄たちが通う学校に私を放り込むことを決めた家族会議に際して堂々と。
ニアリスは、核石が立派だから学業免除されるのが父の判断で決まっているから。
私は少しでも人脈が広がるようにと兄たち、各々が高い技術をおさめる為に通う中央都市でファルメフォンの貿易と外交の中心でもあるセ・クラードン中枢国へいき、学校があるウェルホンス地区に同時期建造された寮に入る。まあ、実質のお払い箱、ってね。
兄たちは男子寮に住まい、両親には様子見くらいはするよ、と言っていたがどうせすぐニアリスの美しい核石が恋しいなあ、だのとこれ見よがしに私へぼやくのだろうが。
ひとり。孤独。こんなに似合いの言葉があるだけ私もましね。出立は、もう明日。
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「いってまいります」
それだけ。ただ一言を
貸し馬車屋の
紅い、紅蓮の炎のような髪。これも私が家で疎まれ、
ただ核石だけは、触れられたくない話題。であるのに、それを重々承知している筈の兄たちも姉も遠慮、配慮、気配りなどないかのよう話題は核石一色でそれが苦だった。
ああ。どうして、私の核石はこんなにも小さいんだろう。そう、嘆いたところで私なんかが、魔女の容貌を持つ私が悲劇のお姫様になどなれるわけはないってくらい、ね?
そのくらいはわかっているわ、私。身のほどはわきまえている。……わきまえるように身に沁みついてしまった。だってね、ニアリスの核石はとっても大きくて透明度は色のせいかいまいちだけど。透明度など措くまでに大きい。宝石だったら家宝に値するわ。
女性の握り拳くらい優にある。引き替え私は私の小指の爪一枚分だけだ。だから、仕方がない。この扱いの格差は、どうしようもないのよ。もう、どうでもよくなったわ。
この先、入学する学園でもろくな扱いはされないでしょう。まともな婚約者など見つからないでしょう。すべては私が生まれ持ったこの核石のせいで。……大好きな石の、このせいで。ひとが、それ相応で自分の顔に愛着があるように核石にだって愛着はある。
私は私の核石が好きだ。大好きだ。だってニアリスのモノのように、あの女の性根を表したように濁っていない。澄み切った、透明度が高すぎて無色に見える紅い石――。
でも、まわりはみーんな私の核石を認めず、私の存在意義さえ認めない。それがどんなに辛いことか、当人でないあいつらにはわかりっこない。大きな石を引っさげただけのクセに偉ぶって……バカバカしい。けれど、ああ、けど結局は大きさがすべてなのだ。
いかに女性の核石に求められる条件に透明度があろうとこんなに小さくてはお話にならない。いつだったか、何度か忘れるほどに、ニアリスが自慢していた。自分の石を。
はあ、憂鬱だ。どうして男性は自身の核石を見せつける服を着るのか。どうして女性は自らの核石を際立たせる
恥じているわけではないが、これが原因で傷つくくらいなら隠したって許されるんじゃないか。でも、隠したところで「なぜ?」と問われて答に
観念して、私は中枢にあるセルカディカ学園学生寮まで馬車に揺られて旅をした。
この旅が運命の分かれ道になると知らず。
世界に私のよう核石の事情で傷つき、救いを求めているひとが他にもいる、など知る由もなかったから。けど、だからこそ、私はそこで、はじめての都会で、知った――。
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