第4話 予想外の事態

「な……何だよ……コレ?」


「俺達、ダンジョンボスの部屋に入ったんだよな?」


「一体、どうなっているんだよ?」


「私に訊かないでよ」


 皆、目の前の惨状を把握出来ず、困惑している。俺も同じだ。討伐する筈だったダンジョンボス【破聖のディアボロス】が何者かに倒され、死骸と化していることに。


 しかもただの死骸ではない。胸に風穴を空けられ、体内のコアの役割を担う【大魔石】が強引に取り出されていた。


(……俺達よりも先に誰かが辿り着いて、ダンジョンボスを倒したのか? 一体誰が?)


 俺がそう考え込んでいると、護衛の騎士がダンジョンボスの死骸を調べ始めた。


「……姫様! このダンジョンボスは死んでからほんの数分しか経っておりません! 討伐した者はまだ、この部屋のどこかに隠れています!」


 どうやら、床に付着した体液がまだ新しいことから、討伐者がこの部屋のどこかに潜伏しているようだと、彼はフィーネス姫に伝えた。


「……! 皆さん、今すぐこの部屋を捜索してください! ダンジョンボスを討伐した何者かが、どこかに潜伏しているに違いな――」

(ギィィィーーーー、バタァァァーーーン!)

「「「「「「!?」」」」」」


 フィーネス姫が全員に討伐者の捜索命令を下そうとした途端、部屋中に扉が閉まるような音が響いた。その音を耳にした全員が扉に視線を向けると、そこには………























 そこには、青い体色、白い眼光、口も鼻も耳もない顔、そして頭に二本の角らしき突起物が生えた、まるで特撮ヒーローものの怪人が、扉を閉ざしていた。


 おそらく、あれがダンジョンボスを倒した張本人だと俺は確信した。その理由は、左手に手のひらサイズの紫色の宝石が握られていることだ。おそらくあれが、最上級の「転移魔法」を発動させる鍵となる【大魔石】に違いない。


 しかし、なぜ部屋から出ずに扉を閉めたのだろうか?【大魔石】が目的なら、部屋から出た後に扉を閉め、逃亡を図るのが最善の手段のはずなのに?


――まるで、俺たちをここから逃がさないようにするため、とでも言うように。


「……そこの貴方、何者ですか! ここは我々、王国軍以外は入ることが不可能な、特別な結界領域を張った迷宮ダンジョンですよ! それをどうやって侵入したのですか!」


「…………」


「ダンジョンボス、【破聖のディアボロス】を討伐してくれたのは感謝いたします。ですが、その魔石が目的なら話は別です! その魔石をこちらに渡してくだされば、莫大な報酬を差し上げます」


「…………」


「……聞いていますか!?」


「…………」


 フィーネス姫は、得体の知れない“怪人”が握り持つ【大魔石】を渡すよう交渉を試みるが、怪人は返事することなく、ただ無言で俺たちをじっと見つめていた。


しかし数秒後、“怪人”は俺たちが予想もしなかった行動に出た。


「………(ピキピキ)」


「「「「「「………?」」」」」」


「………(ガバァァァッ! バグンッ! ゴックン!)」


「「「「「「なっ!?」」」」」」


 顔の下半分にヒビ割れが発生したかと思いきや、そのヒビがギザギザ状の口へと変貌する。“怪人”は耳付近まで裂けた口を大きく開けると、【大魔石】を口の中に放り込み、ゴクリと丸呑みにしてしまったのだ。


「……その行為は、交渉決裂のサインでよろしいのですね?」


「………」


「勇者様方、武器を構えてください。奴から【大魔石】を力ずくでも奪い取ってください」


「「「「「「………(コクン)」」」」」」


 【大魔石】を飲み込んだ“怪人”に対し、フィーネス姫は交渉決裂だと判断し、俺たちに戦闘態勢をとるよう命じた。同級生たちはこくりと頷き、一斉に武器を構え始める。


それを見た“怪人”は、武器を構えた俺たちに向かって、ゆっくりと歩み始めた。


「総員!攻撃を開始し――」


(シュンッ!)


「……へっ?」


(ボゴッ!)


「がはっ!!」


「ッ!?姫様!!」


「「「「「「!?」」」」」」


 フィーネス姫が攻撃の合図を出そうとした刹那、相当な距離があったにもかかわらず、瞬きする間もなく“怪人”は彼女の目の前へと肉薄していた。呆気に取られた姫は、その腹部を拳で打たれ、意識を失って床に倒れ伏す。


「……貴様ぁぁぁっ!!よくも姫様をぉぉぉっ!!(ブンッ!)」


(フッ!)


「なっ!?どこに行っ――」


(バッキャァァァーーーッ!!)


「ガッ!?」


 護衛の騎士は、フィーネス姫を気絶させた“怪人”に怒りを露わにし、背中に背負う大剣を振り下ろすが、一瞬で背後に回られる。騎士は気づく間もなく、“怪人”の腕の一撃を右顔面に叩きつけられ、その勢いで壁に激突。そのまま瓦礫の山に埋もれてしまった。


「はっ!?」


「……う、嘘!?」


「あの人、王国軍で1、2を争う実力者なんだぞ! それをいとも簡単に……!?」


 王国軍で最強の一角である護衛の騎士が、“怪人”にあっさり倒されてしまった事態に、同級生たちは怖気づき、パニックになりかける。だが、ただ一人だけ、怪人に立ち向かおうとした者がいた。


「おいおいおい、お前ら何ビビってんだよ!相手はたった一匹だけだぞ、俺たちが総攻撃を仕掛ければ、簡単に仕留められるぜ!」


 それまで沈黙していた高田修一が、自信満々な表情で、同級生たちに「楽勝だ」と告げる。


「よく考えてみろ!俺たちは女神様の加護で、反則チートレベルの能力スキルを持ってるんだぜ!それに、制御できるよう特訓までしたんだ!あんな奴、本気を出せば一捻りでぶっ倒せる!」


 修一に一喝された皆は、「確かにな」「そうだね」「やっちまおう!」と、一致団結したかのように恐怖心を薄れさせ、戦闘態勢を取り始めた。


「大智!お前もぼさっとしてねーで、早く強化バフの準備に取り掛かれ!」


 修一に言われた俺は、自身のスキルで全員の能力値を限界まで強化させる準備を始めた。


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