第4話
『中々筋がいいじゃねぇか』
幼い頃から音楽に囲まれて、自分が奏でるものが他者の色を色とりどりに出来るのがとても嬉しかった時期が。
今思えばわかる、あれは音楽の力ではなく、ただ単に子どもが懸命に頑張る姿に反応していたに過ぎなかった。
段々と苦痛になっていったのはいつからだっただろうか。
『
『うんうん、将来はきっといい音楽家になるわね』
直接かけられる言葉は、記憶としても事実としても変わらなかったように思える。
技術の発展と共に、創作というものについても人が作ったものと、創作用の人工知能が作ったものが分けられているのだと知ったのと同時だったかもしれない。
『うまさと正確さじゃ勝てやしねぇよ。俺が聴いてても確かにうめぇ。でもな、どんなに下手でも魂がこもってる俺の勝ちだ、大体な、見てろ。まだまだ音楽の可能性はこんなもんじゃねぇんだよ』
そして、
極端に好きになってくれる人はいる。だが、誰が作ろうとも人の色はそう代わりはしなかった。
無関心の色が、強すぎるのだ。
次から次へと作られる刺激に慣れてしまった人々は、あれだけ凄いと思った
そして、当たり前だが
どこか虚しくなってしまったのだ。
その人に宿った色と、発せられる言葉の齟齬に耐えられなくなった時。
◇◆
「これ……は……」
透明で、それでいて重厚で、最初はその音の元がリアだとは脳が理解できていなかった。
そして圧倒されるように聞き惚れながら、
[アイ:ヒビキ? 心拍数が急激に向上しています]
「……まじ、かよ」
アイの声にも答えず、
柔らかい、薔薇色の風が吹いていた。
静かな熱狂が渦巻くように。
誰もが、リアを見て、心を揺らされている。
「…………リアの歌声は、至宝なのです」
「ナターシャさん。あぁ、そうだな、ごめん、意味がわかった……そりゃ親父も」
音楽を辞めた息子に何を言うこともなく放蕩する父親だが、これは贔屓になるのもわかった。
感謝してもいいほどだった。お陰でこの風景が見られる。
「……どうしても」
「……?」
「灰色に囚われているあなたに、聴かせたかったと、見せてみたかったと言っていました」
「はは……なんだよそれ」
だが、毒づきながら、
歌が世界を救うなんて。そんな風に何かを冷笑するのは簡単だ。
だけど、どうやら
「まぁ、わかってたことか」
それはそうだ。
◇◆
「この足音はヒビキかしら?」
窓の外はもう夕暮れを告げている。
昼から始めたコンサートも何度目かのアンコールを終えて、控室で会ったリアは、朝よりも縮んでいるようにすら見えた。
それはそうだ、あれだけのエネルギーを出して、そして最後にはあんな風に全体に色を巻いているのだから、消費されるだろうな、そう思って
「御名答。お疲れさまだったな」
「うん……どうだった?」
主語のない問い。
でも当たり前に伝わる、そして、どこまでも不安げな問い。
「初めて見たわ」
「え?」
「歌に色が乗って、踊るみたいに客席にも届いて……最後には渦を巻くみたいにして空に届いて―――――」
まだ目の奥にその感動が残っている。目の見えないリアに情景と、その熱が届くように、言葉を紡ごうとして、でも、やめた。
そして、何よりも端的に、
「お前の歌は、間違いなくあの瞬間、あの場にいた全員を幸せにしてた。お前は歌いたいように、歌うべきだ」
「―――――ありがとう」
そして、華が開いたように、リアは笑った。
「じゃあ、もう一つの約束も果たすか」
「もう一つ?」
「……うまい日本食を食わせるって言ったろ?」
「そうだった!! よし、いこいこ! ナターシャ!! ヒビキと美味しいもの!!」
そうはしゃぐリアは今も薔薇色に包まれていて。
この出会いの後、
その紡ぎ出すメロディは人を幸せにし、様々な人の心を歌姫の声を通して癒やしたという。
~ 薔薇色の空に響く歌 Fin ~
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カクヨムコン短編参加作品
お題:薔薇色
10000文字以内ということで最後少し走ってしまいましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました。この物語を読んでくださった皆様にも良き音がありますように。
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薔薇色の空に響く歌 和尚 @403164
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