第2話「スパッツと古傷」

 六月八日


 今日は寝起きから体の調子が悪い。

 過去の事故によるストレス障害と、気候変化は背中の古傷が疼くので厄介だ。


 そんな鬱屈な気持ちに支配されていたが、教室移動中に僕の想い人みったんとすれ違い全て吹き飛ぶ。

 石田ミナリは学園カースト上位に君臨するショートの陽キャラ系女子だ。文武両道、人当たりよく穏やか、学園の模範生徒でもある。チアリーディングと副生徒会長を兼任して忙しい毎日を過ごしているのだ。

 僕とは月とスッポン。釣り合わない。だから生徒会で問題視している加藤メイの鼻っ柱を折れないかと持ちかけられたのだ。

 

 放課後になり体育館裏に待つ餓狼。挑戦十二回目。


「また来たのかよ藤堂」

「ああ、よろしく頼むよ」


 最近加藤は挑戦状なくても、いつもたむろってる場所へ行けば勝負に応じてくれる。僕程度なら準備運動なしで瞬殺だから暇つぶしにもならないそうだ。実際そうなので反論できないけど……。

 鍛えているつもりでも加藤には遠く及ばない。


 鍛え上げられた肉体の年季が違うからだ。実家が道場なので本格的ではないが武道も嗜んでいる。だから無駄な動きもなく各関節は軽やかに可動。

 無駄なお肉が一切ない太もも、不意に限界まで振り上げると、「いつまで凝視しているんだよ!」下着を目撃できず気落ちしているところへ垂直にかかと落としが炸裂。


「ぐあああ、頭割れる!」

「視線がエロいんだよ!」

「理不尽」


 スパッツと素晴らしいボディーを目に焼き付けたが、その代償に頭痛くてのたうち回ったのだった。


 六月十四日


 季節は梅雨。小雨降る帰宅途中、雨宿りしている天敵加藤に出会う。

 傘を忘れたのか大分濡れていた。


「おいおい、わざわざ私を探しに来て悪いが、今日は喧嘩やらねえぞ。コンディションが悪すぎる。変態」 

「あのね……僕も年中盛っているわけじゃないよ。穏やかに過ごしたい時もある」


 加藤が纏っているセーラー服が透けていて半透明ながら健康的な褐色の肌が張り付いている。黒のブラがくっきり浮かんでいるが本人は気にしてない様子。

 筋肉凝視したら怒るくせに沸点のポイントが訳わからん。


「加藤、良かったら僕の傘使いなよ」

「ああん? 余計な気遣いするな。私より弱いくせに」

「だけどさ、女の子だからこれ以上は濡れないほうがいい。僕は家が近いから気にしなくていいよ」 

「ちっ、てめーに借り作るのは癪だが今日だけは提案に乗ってやる」

「もう小雨だしそろそろ止むよ——」


 だが、土砂降りになりびしょ濡れと化す。ズキズキと雨に湿気が合わさって古傷が痛む。


「おい藤堂……その背中の大きな傷はどうした?」

「ああ、ガキのころ大怪我した跡。ピンチだった唯一無二の大親友を助けて代わりに七階から落ちたんだよ」


 馬鹿だよなあ。たかがガキ同士の喧嘩に巻き込まれて命の危機に晒すなんて。学校の責任問題が明るみに出ることを恐れた教頭の説得(親に鼻薬を嗅がせ)により、理不尽にも罪は僕が被った。そのせいで街にいられなくなり転校する羽目になる。


「……………………そ、そうか」

「どうかしたか?」

「何でもない」

「?」


 加藤の様子がおかしかった。俺の傷が醜すぎて引いてしまったか……申し訳ない。


 六月二十四日


 放課後、みったんに遭遇する。相も変わらず清楚だ。爽やかな笑顔に心が洗われる。


 我が女神は今日も美し————⁉ な、なんだろうか、今一瞬背後から悪寒が走った。キョロキョロするも異変はない。

 気のせいかな?


 いつもの体育館裏。加藤は腕を組み、鬼気迫る臨戦態勢、餓狼モードで待ち構えていた。

 十四回目。久々の挑戦だ。


 なぜか? 最近忙しい加藤のスケジュールが合わないのと、梅雨のせいで中々戦いのコンディションが整わなかったにほかならない。


「やってやるからとっとと掛かってきな」

「うん……わかった」


 僕を顰めっ面で睨む加藤。不機嫌で何処かやっつけ気味だ。

 

「なあ藤堂?」

「どうした?」 

「女の好みって黒髪か?」 

「唐突に何?」


 加藤は真剣だった。


「いいから答えろ!」 

「そうだね。清楚な黒髪が好みだよ」

「はん、そうかよ」


 一体何だったんだ……。

 僕を瞬殺したあと、聴こえなかったけど、加藤は弱虫タカめ、お前を倒すとブツブツ呟いていた。


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僕の初恋を叶える為、孤高の学園最強不良少女へ勝利まで無謀な戦いを挑んでいたら、日に日に好みの美少女へイメチェンして初志貫徹が無理そうなので困る カクヨムコン10【短編】 神達万丞(かんだちばんしょう) @fortress4

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