僕の初恋を叶える為、孤高の学園最強不良少女へ勝利まで無謀な戦いを挑んでいたら、日に日に好みの美少女へイメチェンして初志貫徹が無理そうなので困る カクヨムコン10【短編】

神達万丞(かんだちばんしょう)

第1話「学園最強不良少女『餓狼』と存在感バグのモブ男子高校生」


 五月七日


 初夏、ゴールデンウイークも過ぎ木漏れ日と風が心地よい放課後、体育館裏での出来事。


「加藤メイお前を倒す」

「は?」

「餓狼の時代はここで終焉だ」

「ほう……面白いことをほざくじゃんか」


 大言壮語で威嚇するもビビっていた。相手は学園最強の不良少女『加藤明(カトウメイ)』。餓狼の名で恐れられてる未だ負けなしの武闘派女子。孤高を愛し群れることを嫌う、不良たちのカリスマアイドル的存在。

 対して僕、藤堂高虎はそこら辺に転がっている男子高校生。姓名は立派だがモブキャラだ。存在感薄い空気なので、クラスでも毎回名前と顔の不一致でバグる。


 その僕は何故か、果し状を叩きつけて暴力のカリスマへ喧嘩をふっかけていた。もちろんそれには理由がある。


 やっとの思いで告白した女の子が、付き合う条件として出したんだ。


 『ならさ加藤メイを倒したら付き合ってもいいよ』と。


 無論成功したらジャイアントキリングだ。学園の図式が変わる。それほど不可能に近い。

 でもあの子、石田三成(いしだみなり)ことみったんの側にいたい僕は勇気を振り絞って戦いを挑む。


「てめーなめていると殺すぞ」

「望むところだ。僕の男気を見せてやる」


 狼の如く切れ長の目、獲物を狩る鋭い眼光。ナックルグローブをつけた暴力のカリスマは腕を組み長い金髪が風でなびく。

 ——数分後、もちろんボコボコにされました。はい。体育会系でない普通のモブなので勝てるわけがない。


 高身長の加藤は僕を見下しながら、「おい、カス。これに懲りたらもう二度と近寄るな。弱すぎてヘドが出る」これには体だけじゃなく雑魚メンタルにも響きました。


 でもまだ始まったばかり。僕は諦めない。必ず倒してあの子の笑顔を手に入れる。


 五月十五日

 三回目。 


「…………はぁ……」

「……………………」


 三度、古風にも挑戦状を下駄箱へ叩き込んだ僕は、再び同じ場所で最強の敵と対峙する。 


 金髪、高身長、近寄りがたい雰囲気がある加藤。美少女より先に恐怖が支配して生まれたての子鹿の如く足がすくむ。

 しかし僕も挑戦三回目、勝つべく体を鍛え始める。毎日腹筋十回とスクワット十回。


「性懲りもなくまた来たか……。クズが」

「ごめん。どうしてもお前を倒さなきゃいけないんだ」

「私の知ったことか。挑んだ以上は全力で叩き潰すぞ」

「負けな——」


 言い切る前に重いボディーブローが決まり、ワンパンでダウンする僕。ポンポン痛くてコンクリートの上をのたうち回る。 

 触れることも許されないのか……。

 

 五月二十八日


 七回目の挑戦。

 

 最近何処かのモブがあの動く災害に戦いを挑んでいるって噂になっているぞと、数少ない友人が心配した。モブ=僕と結びつけるのは早計だとアドバイスしたいが今回は合っている。

 あまり目立つと餓狼を慕っている不良達に狙われるぞ、追加で釘を刺された。


 そんなことは理解しているつもりだ。危険を承知でこんな自殺行為に身を投じている。 

 僕では足元にも及ばない。でもみったんと約束したから。加藤倒したら付き合ってくれると。だから今日も僕は拳を前に突き出す——なのだが、


「………………チッ。またてめーか」

「てめーじゃない。僕は藤堂——あああ、圧が強い」


 今日も通常通り恐怖の対象は校舎裏で仁王立ちしていた。

 その飢えた眼差しは野獣のごとく。敵を倒すことしか思考にないんだろうなぁ。

 体型はスレンダーだけどよく絞り込んである。セーラー服が短いのか、硬そうな腹筋が見え隠れしていた。


「毎回毎回、私も飽きてきた。普通の奴なら完膚なきまで叩きのめせば尻尾を振るかキャンキャンと逃げていくもんだ。それなのにてめーは何度も何度も鬱陶しい」

「どうしてもお前に勝たなければいけないんだ」

「大した信念だが生憎私も負けるわけにはいかないんだ。だから今日もひねり潰す」

「望むところだ。かかってこい」


 何度も無駄な戦いを仕掛け気づいたことがある。加藤は大小関わらず喧嘩は拒まない。挑んできたら迎え撃つのが流儀らしい。だから勝ち続け学園どころかこの街で今日の地位を確立できた。


 ならば加藤には悪いけど、僕の心が折れるまで付き合ってもらうだけさ。こっちは初恋がかかっているんだ絶対に諦めるもんかよ。

 

「いくぞ」

「こい!」


 開始と同時に鋭い拳が飛んできたが避けきれず食らう。

 その鋭さまるで抜刀術。速くて重い一撃。

 瞬殺。

 あれを躱せるわけがない。でも今までと違い攻撃がくることは察知できたので一歩前進だ。

 戦っていればいずれ好機が到来するに違いない。ならばそれを目指して戦うのみ。


「本当に執拗いなてめー」

「褒めてくれてありがとう」

「褒めてねぇ! でお前は何の目的で戦ってるんだ? ただ私に殴られたいだけとか他の奴みたく言うなよ」

「くだらない理由だよ。好きな人と交際するために戦いを挑んでいる。僕がこれだけ好きだと気づいてほしいんだ」


 大の字になり地面に寝ながら雲を追い掛ける僕。雲を掴むよう握るも虚空だった。

 

「アホらしいわ」

「そうだよな」

「でも執念は伝わってくる」

「褒めてくれるのか?」


 だから褒めてねぇと空を仰ぐ。餓狼は何処か寂しそうだった。

 

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