第7話 やっぱりもっと強くならなきゃ
とある広間で数匹のコボルトをやりすごし、スライムを数体狩ってレベル5に到達した私は、新たな展望を探して奥へ向かおうと考えていた。
ダンジョンはフロア構造になっているらしいが、私がいるのはまだ浅い階層のはず。深層にはもっと強力なモンスターやレアアイテムが眠っていると噂されている。冒険者たちはそれを求めて奥へ進むのだろう。
私も、いつかはその深層を目指したい。力をつけて、強いモンスターを倒して、もっと上の進化を遂げる。それが叶えば、ここから脱出するだけでなく、“自分の意志を伝える手段”が得られるかもしれない。
(人型のモンスターに進化する……なんて話も、どこかで聞いたような気がするけど、本当にそんなことができるのかな)
もしくは、もっと凶悪な上位種のウサギ――たとえば“首刈りウサギ”なんて物騒な名前だけは耳にしたことがある。童話やゲームの中だけの存在かと思っていたが、この現代ダンジョンではそういう進化形態もあり得るのだろうか。
いずれにせよ、ただ逃げ回っていた頃とは違い、自分から変化を求めて前に進もうとしている今の私がいる。それだけでも大きな進歩だ。
広間を出て少し歩くと、冒険者向けに設置された簡易の案内板のようなものを見つけた。英語や記号で書かれたフロア案内らしく、方向を示す矢印が描かれている。
そこに近づくと、人間の文字が読める私はなんとかその意味を理解する。どうやら、この先の通路を進めば次のフロアへの階段があるらしい。
(行ってみるしかないよね。どんな強敵が出るか分からないけど、ここで留まってても仕方ないし……)
私は決心し、通路を進む。道中でスライムやコボルトと小競り合いをしながらも、どうにか倒して経験値を得る。レベル5になったばかりだけど、じわじわと経験値が蓄積されているのを感じる。
しばらく進むと、やがて大きな石造りの階段が現れた。これが次のフロアに続く階段らしい。冒険者にとっては当たり前の風景かもしれないが、ウサギの私にはやけに大きく見える。
(なんだか、RPGの世界に入り込んでるみたい。でもこれは紛れもない現実で、私は事故に遭った挙げ句ウサギになってるわけだけど)
階段をぴょんぴょん跳ねながら上っていく。注意深く周囲を伺い、モンスターが待ち伏せしていないかを確かめる。だが、意外と静かだ。
上り切ると、そこはまた長い通路が伸びていた。壁には苔が生えていて、前のフロアより湿度が高い気がする。雰囲気が少し違う。
足元には水たまりが点々としていて、ところどころにスライムらしき痕跡がある。しかし、目立ったモンスターは今のところ見当たらない。
(気を抜かずに行こう……)
私は慎重に進んでいく。と、何かが音もなく上方から忍び寄ってくる気配を感じ、思わず後ろに飛び退いた。ウサギの勘というか、本能的な回避行動。
すると、天井からネバネバした粘液が落ちてきて、私がいた場所を覆った。もしそのまま歩いていたら、頭上から粘液をかぶって捕まっていたかもしれない。
「……っ!?」
驚いて見上げると、そこには薄茶色の巨大なスライムが張りついていた。いわゆる“アシッドスライム”というやつだろうか。身体から強酸性の液体を垂らして獲物を溶かすと聞いたことがある。
こいつは普通のスライムより危険だ。しかも大きい。私が跳躍蹴りをしても、全身酸で迎撃される可能性がある。
(どうする? 戦う? 正直、勝てる気がしない。でも、ここを通る以上、避けては通れない……)
尻込みしかけたが、アシッドスライムはこちらを狙って粘液を次々に滴らせてくる。逃げ場は左右の通路しかないが、そこへ移動すればまた真上から飛びかかられるリスクもある。
私は思いきって、正面から突破を試みることにした。酸を浴びないように左右にジグザグに跳ねながら走り、スライムの足下を一気に抜けようとする。
だが、アシッドスライムは壁から床へぶよんと降りてきて、私の進路をふさぐように拡がる。逃げ場が狭まっていく。ヤバい……!
(このままじゃ捕まっちゃう……何か手がないかな!?)
そうだ、「小動物の悲鳴」! あれで怯ませれば、その隙に走り抜けられるかもしれない。私は喉を震わせ、「きゃああああ!」と絶叫する。
しかし、アシッドスライムはぷるんと震えたものの、さほど動揺する様子はない。コボルトや普通のスライムには有効だったが、知能が低いのか、もしくは耐性があるのか……?
(だめか!)
焦った私の頭に、一つのアイデアが浮かぶ。そうだ、「属性感知」でこのスライムの属性を探れば、弱点がわかるかもしれない。
私は必死に集中し、アシッドスライムの周囲の粒子を視界に捉える。茶色っぽい、あるいは土っぽい属性の粒子が多く集まっているように見える。
土属性に近いモンスターなら、何が弱点になる? もし火属性か水属性か……いや、わからない。ウサギの私にそれを突く手段は……?
混乱しているうちに、スライムがまたこちらを飲み込もうと身体を膨らませる。背後は壁、横にも通路はない。もう、突破するしか……!
私は思いきり助走をつけ、スライムの頭上を飛び越えるようにジャンプする。ウサギの脚力なら、もしかしたら超えられるかも。酸を浴びるリスクはあるけど、ここで立ち止まれば確実にやられる。
ぎりぎり頭上を掠めるように飛んだ瞬間、スライムの表面がうごめき、粘液が飛び散る。
(熱っ……!)
背中にビシッとした熱さが走る。やられた。すぐに酸で溶かされるほどではなかったが、少なからずダメージを受けてしまった。
それでもなんとか着地に成功し、私は転がるように前へ走り抜ける。スライムが振り向く前に、一気に通路の先まで駆け抜ける。
幸い、スライムは動きが遅い。私を追いかけてくることはなさそうだ。小さく息をつきながら、背中を確認する。毛がところどころ焦げて皮膚がひりひりするけど、致命傷ではない。
(危なかった……。ああいう大型スライムは、今の私じゃ倒せない。やっぱりもっと強くならなきゃ)
こうして私は、死に物狂いで深層への道を一歩踏み出す。それは同時に、より強大な敵や厳しい環境が待ち受けているということでもある。
だけど、立ち止まってはいられない。いつか私が“最強”へと進化し、あるいは人間に戻れる可能性を探るために。
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