第6話 ウサギでも魔法が使えるの?

 負った傷は自然回復と休息でどうにかふさがった。人間の体より回復が早いのか、それともダンジョンの特殊なエネルギーのせいか。何にしても助かった。


 さて、レベル4になった私は、次の目標としてレベル5を目指しつつ、いろんな通路を探索していた。そろそろスライムやコボルト以外のモンスターも見かけるようになってきたが、基本的に複数行動していることが多いので、無理に挑むのは避けている。


 そんな中、私はちょっと妙なことに気づいた。通路を歩いていると、時折、体の奥底がざわつくような感覚がするのだ。熱いような、あるいは冷たいような……説明しがたいが、まるでエネルギーが血管を流れているような不思議な感覚。


(これって……もしかして魔法? ウサギでも魔法が使えるの?)


 私のMPは2。非常に少ないが、ゼロじゃない。魔力があるなら、何かしらの魔法を習得できるはず。でも、どうやって習得するのかはわからない。


 魔法使いは専門の教育を受けたり、スキルを取得したりして魔力をコントロールできると聞いた。私は動物モンスター。人間のように学ぶ機会はない。


(でも、このままじゃ何も始まらないし……試してみる?)


 通路の片隅に隠れ、いろいろとイメージを巡らせてみる。火の玉を放つようなイメージ、氷の矢を放つようなイメージ……どちらもピンと来ない。むしろ、体の奥底のざわつきがかえって不安をあおるだけで、何も起きない。


 何度かやってみたが、成果は得られない。気のせいかな、と思い始めた時、ふと試しに「ステータス画面で魔法系のスキルを確認してみよう」と思った。


 メニューを開き、スキル欄を何度か眺めてみるが、特に追加はない。だけど、隅のほうに「魔力感知」という項目が点滅しているのを見つけた。


(魔力感知? 私が気づかなかっただけで、そんなパッシブスキルがあったの?)


 タップ(するようなイメージ)してみると、“獲得条件未達成”と表示が出る。どうやら、あと一歩で習得できそうだけど、まだ条件を満たしていないらしい。


 私は試しに周囲にある魔力らしきものを探ろうと意識を集中する。すると、ほんの少しだけど、空気の中にまじりあう“粒子”みたいなものを感じた気がした。


(あ……なんか光の粒が見えるような……気のせい?)


 しかし、掴みどころがない。私はもう一度深呼吸をするように鼻をひくひくさせ、空気中に漂う“何か”を感じ取ろうと試みる。やがて、視界の端にちらちらと淡い光が揺らめいているのが見えた。


 その瞬間、ステータス画面のスキル欄がピカッと光り、メッセージが浮かぶ。


――――――――――――――――

スキル:「属性感知(Lv1)」を取得しました。

――――――――――――――――


(属性感知……何だろう? 魔法の属性でもわかるようになるのかな)


 さっそく周囲を見渡すと、光の粒が幾つかの色合いを帯びているのがわかる。青っぽいのや、赤っぽいの、黄緑色っぽいの……それぞれがふわふわ漂っている。


 どれが何の属性かはよくわからないけど、この光の粒をうまく取り込めば魔法を使えるようになるかもしれない。


 試しに赤い粒子に集中し、「火の魔法を使いたい」と強くイメージしてみる。すると、一瞬だけ鼻先が熱くなったような気がしたが、何も起こらない。


(うーん、やっぱり難しい。少なくとも魔法の基礎がわからないと、ウサギが我流でやってもうまくいかないのかも)


 それでも“属性感知”を手に入れたのは大きい気がする。今後、魔法を使う敵や、環境の変化を察知するのに役立ちそうだ。


 こうして少しずつ増えていくスキルを眺めながら、私は自分が“モンスターとしての進化”の入り口に立っているのを感じていた。どんな形で強くなるかはわからない。でも、進化は確かにある。


(いつかは魔法だって使えるようになりたい。そしたら、もっと強いモンスターにも対抗できるし、きっと脱出の糸口になるはず)


 そう思い、私はまた通路を進む。ダンジョンは広大だ。まだ私が見たことのないモンスターや地形、そして冒険者たちがいるだろう。


 ウサギという姿に戸惑いながらも、私の心は少しずつ強くなっている――そう信じながら、前を向いて跳ねるのだった。

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