第4話 私、必死にやってみるよ……!
スライムをいくつか狩り、レベル3まで上がった頃だろうか。私は多少の余裕を感じ始めていた。HPは10を超え、ちから(STR)も3。人間の子ども並みくらいのパワーはある……かもしれない。
もしかしたら、そろそろスライム以外にも挑んでみようかな、と考え始めた矢先、遠くから人の話し声が聞こえてきた。
(え……まさか……)
ウサギとしてこのダンジョンを歩き回って以来、初めて耳にする“まともな”人の声。モンスターが唸るのとはまったく違う、会話になっている声だ。胸が高鳴る。
でも同時に恐怖も湧いてくる。私はモンスター……ウサギ。ただの動物として無視されるか、討伐対象として殺されるか、どちらかだろう。
私はそっと物陰に隠れ、声の方向を伺う。やがて、複数の足音と人影が見えた。男二人、女一人のパーティらしい。全員が同じような防具を身につけていて、手には剣や杖を携えている。どうやら本職の冒険者のようだ。
リーダー格と思しき男が周囲を警戒している。もう一人の男は盾役なのか、頑丈そうな鎧。女性は杖を持っているから魔法使いだろうか。
「このフロアには、まだコボルト程度しかいないみたいだな」
「油断するなよ。最近は変異種のスライムなんかも確認されてるみたいだし」
「大丈夫よ、私たちならこれくらい余裕でしょ。早く次のフロアへ行ってみましょう」
そんな会話が交わされているのが聞こえる。私の耳はウサギになって感度が高いから、かなり鮮明に拾ってしまう。
彼らがここに来ている目的はわからない。ダンジョンの探索か、宝探しか、あるいは討伐依頼かなにかか……。いずれにせよ、私にとっては危険な存在。下手に近づいたら「モンスター発見!」とばかりにやられてしまうかもしれない。
でも、もしかしたら人間とコミュニケーションできる可能性も……と、一瞬考えてしまう。私は元々、人間だ。言葉はわかる。でも、言葉を発することはできない。今の私の口はただのウサギの口。鳴き声で意思疎通なんてまず無理だろう。
(ああ……どうにかして助けを求めたいけど。無理だよね。絶対「かわいいウサギだな」と思ってくれる保証もないし。むしろモンスター認定されたら終わりだ)
私は震えながら、冒険者たちが通り過ぎるのを待つ。すると、女性の魔法使いらしき人がふとこっちに目を向けた。
どきりとする。もしかして見つかった? 逃げようか、でも動いたら確実に殺されるかもしれない……。
と、その女性はにこっと微笑むような顔をして、「あら、こんなところにウサギがいるわ」と小さくつぶやいた。リーダーらしき男性もそちらを見るが、「ダンジョン内の雑魚モンスターだろ、放っておけ」とそっけない。
確かに私のステータスはまだまだ弱いし、コボルト以下かもしれない。彼らからすれば、手間をかけて倒すメリットも少ないだろう。
女性は少しだけ残念そうな顔をしたが、リーダーの言葉に従ってすぐにきびすを返した。
「うん……そうね。それに、やけに大人しいし、私たちを襲う気はないんじゃない?」
「気になるなら倒しておくか?」
「いいわよ、やらなくて。まだ子ウサギっぽいし……スライムと違って変な液を飛ばしてくるわけでもないでしょ」
そう言って、三人はまた歩みを進める。ほっと安堵する。やはり雑魚扱いだけど、そのおかげで見逃してもらえたようだ。
彼らが通り過ぎてしまうと、急に心細くなる。でも、同時にわずかな希望も見えた。モンスターだからって即座に切りかかってくる人ばかりじゃない。何かコミュニケーション手段があれば……いつか、理解してもらうことだってできるかもしれない。
(でも今は、強くなるしかない。こんな形で生きることを強いられたのなら、私、必死にやってみるよ……!)
そう決意を固めると、私は再びスライム狩りを再開する。冒険者に近づかなければ、余計な争いは起きないはず。怖いけど、彼らと同じフィールドを歩いている以上、いつか遭遇してしまうかもしれない。それまでに少しでも成長しておきたい。
人間に襲われたらひとたまりもない。だからこそ、もっともっとレベルを上げて、いざという時に逃げられるように、あるいは抵抗できるように……。
例え今は雑魚モンスター扱いでも、いずれもっと強くなって、このダンジョンを出られる日が来るかもしれない。私はそんな希望を信じている。
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