冬に咲く薔薇

セントホワイト

冬に咲く薔薇

 これは私が友人に聞いた話であり、眉唾な話と思って頂きたい。

 結論から言えば、非常に奇妙な話だがほとんど雪が降らない地域に住む彼の住む街で

 雪が降ったある日、奇妙な薔薇が咲いたのだという。

 彼の趣味は最近始めた園芸で、最近の話題はもっぱらその話ばかりだ。

 昨年頃は可愛らしい奥さんの話ばかりで、独身男性である私にマウント攻撃を仕掛けるので辟易していたくらいだ。


「見たことのない……薔薇?」

「ああ。そうなんだ」


 彼が携帯のカメラに納めた写真は白い雪の中に一輪だけ咲いた赤黒い薔薇。

 その花弁、花びらの形はまさしく薔薇ではあったが色合いは天国に咲くという曼珠沙華よりも酷く赤黒く、見る者に不吉を齎すと言われても信じてしまいそうなほどに不気味だった。


「最近だとカメラをかざすだけで調べられるんだろ?」

「……出なかった。検索しても分からなかったんだ」

「おいおい。それって新種、ってことか?」


 写真で見る薔薇は今や高機能で高性能な頭脳を持つ携帯ですらお手上げならば、園芸の知識のない自分にはまるで分からない。

 だが見ているだけで気分が悪くなるそれの話をこれ以上したくなくて、話題を本当はしたくない奥さんの話へと変えてみる。


「そういえば奥さんは元気なのか?」

「……アイツとは別れたよ」

「はっ? なんで?」

「……まあ、ちょっとしたことで言い争ってさ。そのまま喧嘩別れだ」

「喧嘩って……子どもじゃないんだから仲直りすればいいだろ?」

「そうもいかない理由があるんだ。それに、アイツはもう会わないよ。


 彼はぼうっと画面に写る赤黒い薔薇を見ながら呟くのが印象的だったのを憶えている。

 それから彼とは昔のバカ話を肴に酒を飲み夜遅くまで過ごし、あの不気味な薔薇が咲く家へと彼は帰っていった。

 あれから数ヶ月後、彼は病に倒れて苦しみ呆気なく命を落とした。

 そして、ほどなくして赤黒い薔薇も枯れ落ちたのだった。


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