第111話 ダムの偵察
どうも、人生派手に転落中のハスコ(15)です。気分は悪くありません。もうどうにでもなぁれ。わははーい。
本日は偵察任務です。お姉ちゃんと二人きり。アリマ先輩は整備と作戦立案で居残りです。休みが欲しいだけの人生でした。宿屋の繁忙期くらいの忙しさです。いや、そこまででもないかな。
「お姉ちゃん、近づきすぎないでよ」
「分かってる」
お姉ちゃんは短く答えましたが、声が少し低い。緊張しているときの声です。
霧を抜け、尾根を越えた瞬間でした。
見えました。
ダム。
「本当にダムだよ。お姉ちゃん」
「みりゃ分かるでしょ」
いや、お姉ちゃんは分かってない。
湖というより、山と山の間を埋めてそそりたつ巨大な壁。水圧に耐えるためのカーブ、斜めに作られた構造体。昔修学旅行で黒部ダムに行った時と同じ光景だこれ。
「いや待って待って。いくらなんでもこれ凄くない? 竜とか言ってるけどこんなの作れるの人間だよ絶対」
「ドワーフやエルフでも出来るんじゃないの?」
ああもう、これだから異世界は。
「これだけ高度なものを作れるのなら、ワンチャン会話できるのでは」
「会話できたとして、水を分けてくれで分けてくれると思う?」
「思わないけど……!!」
「じゃあ、戦うだけよ。多分外交で片がつくなら、アリマはもうやってるわ」
お姉ちゃんが呟きます。
私が顔をしかめていると、画面の反射で表情が分かったのかお姉ちゃんが怒りだしました。
「何よその顔!」
「いやこう、正妻ムーブがきついなぁと」
「ばっか私とアリマはそんなんじゃないし……」
「まだそんなこと言うんだ。大貴族と王族を敵に回して奪ったのに!」
「奪った言うな!」
お姉ちゃん、恋心が複雑骨折し過ぎだよ。
その間にも機体は山を上っていました。頂上へ。ここからなら人工?湖が一望できます。竜工湖が正しいんでしょうけど、何言ってるか全然分かりませんね。
そして。
水面が、ゆっくりと割れました。わぁ大昔のアニメみたいな登場シーンだぁ。
出てきたのは巨大な影。
最初に見えたのは背中。岩のようにごつごつしていて、苔と草が生えています。次に長い首。ワニに似ていますが、目が違う。知性の光。いや、執念の光。
というか、大きい。お姉ちゃんが偵察機器を利用して大きさを口にしています。7m……12m。
「でかいでかいでかい」
「小さいのもいるわよ」
取り巻きで5mくらいのやつが一杯います。うん。確かにチェスピースの完全編制一個騎士団ではもう全然駄目そうです。喩え火とか吹いてこなくても集団で体当たりされたら脅威なんてものじゃありません。しかもあの足。しなやかで大きくてしかも尖ってます。
「ハスコ、今そっちにも大きくした絵を送る」
「竜の顔を大きく見ても……」
「そっちじゃない」
私は目をチベットスナギツネにしたあと、眼鏡を掛けなおしました。見えたものは山。邪教の儀式に使いそうなやつ。死体とか機体の残骸を集めてなにかしてたみたい。首だけ二重に積み上げて、一番上に置いてあるのは卵、かなぁ……。
宗教やってる恐竜かぁ。
「なるほどあかん奴」
「新種みたいだけど名前どうしよう」
「ダムサウルスでいいんじゃない?」
「じゃあそれで」
お姉ちゃんは私の提言を入れてダムサウルスと命名しました。
ダムサウルスはゆっくりと水辺に上がり、巨大な前脚で土を押し固め始めています。尾は丸太をまとめて運び、口で岩を咥え、配置する。まるで職人です。
しかも一体ではありません。
水面のあちこちで波が立ち、次々と同じ姿が現れています。まだ増えるんだ
「……多すぎない?」
「聞いてた数より、ずっと、ね」
お姉ちゃんの右手の紋章が、淡く光りました。危険の色。
その時、低い振動が足元を伝いました。
湖の中央、さらに巨大な個体が浮上します。
他より一回り、いや二回り大きい。背中に生えた木が森みたいです。
「王様もいるみたいだね」
仮称ダムサウルスキングがこちらを見ました。
距離はあるはずなのに、視線が合った気がします。
ぞくり、と背中が冷えました。
「……帰るわよ」
お姉ちゃんが即断しました。
「うん」
異論はありません。
帰りながら思ったのは、アリマ先輩、よくもあんなの探してきたなあというビックリです。感心はしていません。あきれています。
「……脅威だね」
「多分ね」
わぁ四七機で戦力不足かもしれないと思うことになるなんて。
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