第110話 ダムバスター計画
私は一歩前に出た。
「正確に言うと、人造ではないが人造に近い巨大湖だ。作ったのはドワーフやエルフなどとまた違う、要は人間型の生き物とはまた違う生物だよ」
「……は?」
声が揃った。いい反応だ。
「半水棲の竜だ。脚の付き方は直立しているが、見た目は巨大なワニに近い。だが中身はほぼビーバーだと思ってくれていい」
「ビーバー!?」
「そういやこっちにはいなかったか。あー。人間以外で建築物を作る生き物としてはアリや蜂、シロアリ、珊瑚虫なんかもあるが、そのうちの一つ、大きなネズミみたいな見た目だな。そういうのが私の故郷にはいたんだよ。それでビーバーもそうだがこのビーバーもどきもダムを造って延々と水をせき止めてしまう性質がある。木を集め、土を盛り、岩を組む。執念深くね。結果として、山ひとつ分の水を溜め込んでいる。おそらく月からでも視認できる規模だ」
「まてまて、なんで人造?湖作るんだよ。竜が」
「快適な住処を作りたいんだろう。結果として今大繁殖している。渇水と飢饉を置いといても、そのうちこの竜種はさほど遠くもない時期に巣渡りとして、大移動を始めるだろう。そうなればいくつかの街や村が吹き飛ぶ可能性が高い。今回はそれを防ぐための予防も兼ねる」
皆が顔を見合わせた。
「つまり俺達は竜の作ったダムを壊す?」
「壊す。正確には決壊させる。制御して、だ」
マクアディが腕を組む。
「え、ちょっと待てよ。下流で水害起きない?」
「起きる可能性はある」
「あるのかよ!」
「だから制御する。段階的に穴を開ける。放水量を調整し、既存の河道へ誘導する。時間差を作る」
アイステラが眼鏡を押し上げた。
「ここの流域だけ助けるってこと? 他は?」
「ここで大騒ぎをしていれば、すぐにも次の段階へ移行できる。次はもっと広域になるはずだ」
「はず」
「相手あっての話だからね。だがまあ、かなり高い確率だろう」
ガルガンチュアが低く唸る。
「竜は強いのか」
「強いね。同時にすごい数がいる。他の種族を食い尽くす勢いだ。だから減らさないといけないが、ダムを破壊して水が流出すれば、卵の孵化率が一気に下がるはずだ。それで数百年は時間が稼げると思っている」
ハスコ嬢が手をあげた。
「さすがというか、なんというか、ですけど。どうして先輩はそんなことを知っているんですか?」
「古い本を読んでいて気づいたんだけど、このあたりの川の水量が百年単位で見ると顕著に減少していてね。原因を探していたんだよ」
私は周囲を見回した。
「他にもなにかないかい? 納得いくまで説明する。質問は全部受けるよ。時間は惜しいが、理解なき行動はもっと高くつく」
皆の視線が少しだけ真面目になった。よし。続きを話そう。
それからしばらく質疑が続いた。
水量の計算式。決壊位置の候補。下流域の避難経路。竜の行動範囲。
そして何より大事な陣形。大規模戦闘では何よりも大事になる。
質問は鋭かったが、的外れではなかった。皆、ちゃんと考えている。嬉しい誤算だ。
「……なるほどな」
マクアディがふわふわの髪を揺らした。
「やるなら今しかないってことは分かったよ」
「理解が進んで何よりだ。渇水が深刻化する今なら、まだ収量が劇的な減少することを阻止できる。ついでに卵が孵る前に水位を下げて竜種の数も調整できる」
沈黙が落ちる。
やがて、誰からともなく頷きが広がった。パンタグリュエルが己の腕を叩いた。
「よし。やろう」
短い言葉だったが、十分だった。
私は軽く手を叩いた。
「決まりだ。作戦開始まで二時間。各機体の整備と調整は僕がやる」
ミレーヌが腕を組んだ。
「二時間を一人で?」
「それくらいはね」
「学校の授業じゃ一機の軽整備で八人で三十二時間とあったけど?」
「ああ。その教科書はね、私を基準に書いてないんだ」
そう言ったら、盛大にため息を吐かれた。
「信じているけど無茶はしないで」
「大丈夫だよ。これくらい」
もっとも、クラスメイトたちは右に唖然、左に呆然と言う感じだった。
アイステラが左右を見た。
「ねえ。ここのチェスピース、四十七あるよね」
「あるね」
「騎士団の定数が二十四でしょ。その二倍もあるんだけど」
「必要数を計算した結果だよ」
「計算って……」
「この数を揃えるために、騎士科からは落第や中途退学者が出ないようにしておいた」
しん、と空気が止まった。皆の顔が険しい。
「……は?」
「聞いてないんだけど」
「ちょっと待て、俺たちの勉強を手伝ってたのって?」
「友人が減るのを阻止したついでだよ」
「どんだけついでを重ねてるんだよ」
怪しい目で見られた。心外だな。
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