第109話 合流のアリマ

 沢山の民が立ち行かなくなり、悲劇があまねく大陸を覆う。

 にもかかわらず、他人の言うことを聞かない奴らが多すぎる。


 私はフォンテーヌ姉妹に輸送されながら、そんなことを思った。彼女たちは貴重な常識人だ。どうしてこう。イオリ嬢や王女殿下は自由勝手なのか。猫か。猫だからか。幼すぎる恋愛感情によるものだとは思わなくもないのだが、こう。それ以前に優先順位の理解が全然できていないように思える。

 猫は好きなのだがこう。世界的食料危機と比較すると、優先順位は言うまでもない。いや、猫は好きなのだが。

 そして話をして理解させられる気もしない。長い時間かければできはするかもしれないが、必要なのは今すぐ、そして長くても数週間の間だ。

 まあ平和になったら猫との付き合い方を考えよう。今は食料危機が表面化する前に対応を打つ。話はそれからだ。

 自分の心を考える。この気持ちは脳にわずかに残った勇者の紋章の残滓だろうか。それとも……未練か。

 未練だろう。と思う。何度でも思う。だから私は成仏もできずにあの世を彷徨っている。


「合流地点です」

 妹のほう、ハスコがそんなことを言った。身を乗り出す。五〇かそこらの機体が並んでいる。私の作った機体だ。王女用に作った物以外は全部いるな。めでたい限りだ。

「わぁ。これ、全部先輩が作ったんですか」

「こつこつとね。半年もかかってしまった」

「あの、五〇機で半年ならちょっともうあり得ない効率なんですけど」

「幻獣はそれ以上に湧いていたからなあ」

 機体が外部の音を拾う。懐かしいクラスメイトたちの声。

「あ。ミレーヌだー。おーい」

「ミレーヌ、おそーい」

「うっさい。こっちはアリマ拾ってくるのに大変だったのよ!」

 ミレーヌがそう言い返すと、機体から抜け出て休んでいた連中がわっと喜んだ。

「アリマ!」

 その嬉しそうな声を聞いて、私は、自分にも友人がいたんだなあと思った。こんな気持ちは三〇〇年ぶりだろうか。

「外に出て挨拶してくるよ」

 操縦槽の中でそう言うと、ミレーヌが恥ずかしそうに顔を背けた。

「いちいち許可取らないでよ」

「お姉ちゃんのところに最終的に戻ってくるなら大丈夫ですよ。うちうるさ、あいた!」

「ミレーヌ。妹には優しくすべきだ」

「うっさい、さっさと行け!」

 それで追い出されるように操縦槽を出た。あっという間に級友たちに囲まれる。

「無事でよかったよ」

 赤毛のふわふわ髪をしたマクアディが笑顔を見せた。こう見えて騎士でもあるが炎の魔法の優等生でもある。

「お互いそうだね」

 そう返事すると、そのふわふわ髪を手で踏みつけて他の友人たちが寄ってきた。

「アリマー。剣聖さんにさらわれたって本当?」

「本当だよ」

 わぁ、と男女ともに盛り上がる。何が盛り上がるんだと思ったら、どうも恋愛沙汰という解釈になったらしい。この国では男女ともに色恋の話を好む。

「ど、どこまでいったの」

「すぐにフォンテーヌ姉妹に助けてもらったよ」

「姉妹? あ、妹さんが文官科にいるんだっけ」

「そうだね。まあ自己紹介は本人がやった方がいいだろう。それで皆固まって何を話しているんだい?」

「本命はつまりミレーヌということでしょうか」

 眼鏡のアイステラが、そう言った。

 ふむー。私がおかしい感じになっているな。まあ年頃というやつか。とはいえ、うちの猫たちと違ってこの子たちは手伝いに来てるから偉い。やはり優先順位づけの問題かもしれない。

「ミレーヌと私は幼馴染だ」

 どこに面白い要素があったのか。皆がわいた。私は手を打った。

「そう言う話は後でいいだろう。今はとにかく渇水対策だ」

「言われてここまできたけど、どうするのさ」

 マクアディが言った。ガルガンチュアが頷いている。

「知られていないがここには大きな湖、というかダムがあるんだよ。そこから水を拝借する」

 私が言うと、皆は自分の機体を見た。

「単なる餞別じゃなかったのか」

「贈りはするが、その前にちょっと働いていけ」

「わぁ、アリマっぽい」

「本物だからね」

 そう言うと、さらに盛り上がった。まったく軽い連中だ。嫌いではないが。

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