第107話 剣聖さんの推理

 どうやってドを切り倒してやろうかと想像していたら、物見にだしていた配下の騎士から連絡がありました。ドとの接触から一時間ほどたっての話です。

「ニューマ、ですか」

 私が聞くと、セバスチャンがすぐに地図と定規を持ってきました。

「ここからですと三〇〇kmほど離れておりますぞ」

「ずいぶん遠いですね?」

 先輩が行くのですから、そこに飢饉をどうにかする何かがあるのでしょう。もっともそれが何なのかはさっぱり分かりませんが。あそこにむらがる地竜の肉でも配るのでしょうか。

 まあいい。今はあのトを斬るだけです。そして何食わぬ顔で先輩の前に現れる。これだ、これだ。

「そうと決まれば急ぐのです。騎士団前進」

 ナイト級のチェスピースたちが一斉に動き始めました。

 移動しつつも主だった騎士たちと軍議を行います。ナイトキャリアーに移動を任せて騎士たちは集まって軍議という形です。

「ニューマとは厄介ですな」

 年嵩の騎士がそう言いました。先輩を救出する際、地下で見た騎士です。特に興味ないので罰してはいなかったのですが、それをどう思ったのか、ここ最近はよく働いてくれています。

「何が厄介なのですか?」

「大量の地竜がいるのはもちろんですが、それ以上に正確な地図がありません」

「なるほど」

 当然、道もないそうです。確かにそれは大変そうですね。戦うのは私がいればどうにかなると思うのですが、地図を作りながら、という話になると大変です。

 私は小さく息をつきました。

「物見に出している騎士も途中で追跡を断念したようですし」

「ナイト一体では致し方ありません。あの山を昇るのなら一〇は欲しいところです」

「そう。でもそれは良いことかもしれませんね」

「それは……どういう?」

 私は薄ぼんやりとした地形図にもなっていないニューマの地図を指でなぞりました。

「先輩は一騎のチェスピースで移動しているんです」

「なるほど。それならあまり深いところには立ち入ることが難しそうですな」

「捜索範囲は狭くて良いと考えましょう」

「はっ」

 ところが移動が進み、先行で出していた物見からの報告が増えるにつれ、そんなに簡単ではないということが分かりました。

「飛行体は山の奥へ飛んだようです」

 そういう報告です。

「捜索しているようですか? 例えばいったりきたりしていたり」

「いえ。そういうことはないようです。再び姿を見ることはできていません」

 なるほど。だとすればそう、あのトは少しばかり先輩の行き先を知っていたのでしょう。

 だったら私に接触なんかしなければいのに。

 私の紋章が輝いています。ふむふむ。嫌がらせ。は?

 |が何を言っているんでしょう。斬りますよ。いや斬るんですけど。

 それ以外は?

 また紋章が輝いています。黒くなったりピンクになったり。

「なるほど。大雑把にしか場所が分からないんですね。だから接触してきた」

 怪訝な顔で、年嵩の騎士が口を開きました。

「お嬢様は何をつぶやいておられるのですか」

「独り言です」

 しかし奥の方へ飛んだということはそれでも私よりは詳しく場所を掴んでいると。

 さて、どうしましょうか。これは斬るのは大変そうです。

 そうでもないか。斬れない物は全部丸投げ。これまでそういう方針でやってきました。今後は先輩の期待する私になるとして、合流まで今まで通りにやっていきましょう。

「王女に連絡をしないといけません」

 問題は連絡方法を取り決めていなかったことです。王女は間抜けですね。

 ちなみに私は問題ありません。なぜなら共闘するつもりなんてことの最初からありませんでしたし。あんな凶悪な女とは口先だけの約束で十分です。ええ。

 ですが、今はあの隠密能力が必要です。切り刻んでいなくてよかった。

 問題は連絡法、連絡法です。

 そういえば、あれがあった。

 それで雲を切り刻んでいたら、王女が面倒くさそうに茂みから出てきました。相変わらず先輩がいないと目つきが悪いのですね。

「馴れ馴れしいぞ。雲に王女殿下こちらへなどと書きやがって」

「貴方は五秒後になぜ早く教えなかったかと言います」

「はぁ?」

「先輩の許嫁を名乗る女が出てきました」

「なぜ早く教えなかった。殺したか。ちゃんと殺したんだろうな」

「私は良家の令嬢なんで殺すなんて使いません。まあ斬ったのですが、すぐ合体しました」

「大したことないな」

「今すぐ貴方を殺してもいいのですが」

「良家の令嬢はどこ行った」

「時と場合によります」

「ふん……それで、少しは情報を得られたのか」

「ええ。それで一応口約束ですが協力の約定を結んだ身です。殿下にも情報提供しようかと」

 王女は酷薄そうに鼻で笑いました。

「どうせ僕の紋章効果が必要なんだろ? そうだな。隠密あたりか」

「どうでしょう」

「王女様ごめんなさいと言って頭を下げたら考えてやらなくもない」

「そんなことを言っていいのですか? 大方、決裂しても私の後を追跡すれば良いとか思っているのかもしれませんが、私の騎士団が五方向に分かれて移動を始めたら、困るのは殿下では」

「下道め、卑劣なことを」

「私に謝ります?」

 そう言ったら、毒を塗った短剣が飛んできました。まったく困ったものです。



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