第57話 最も分かりにくい世界の守り

 どうも、ハスコ(15)です。ベッドの中からすみませんが寝ようとしている最中なんで勘弁してつかぁさい。これ、どこの方言だろう。日本のことどんどん忘れて行ってるみたいで嫌な感じ。

 さておきですね。今回は剣聖さんに批判的なこと言ったら首飛ばされました。飛んだ首がくるくる回ってる間に私の体は三六分割ですよ。いやもう、知識としてはこれがただの殺気飛ばしだと分かっていてもですね、身体はついてこないんです。完全に死んだと勘違いするわけですよ。

 今回はかなり危なくて、運び込まれた医務室では昔読んだ医療マンガみたいな展開になってました。裸マントの流れの医者とかいなかったらマジ死んでいました。この世界の医者、服が汚れるとかで裸マントの人が多すぎて、ひゅっとなります。患者の血液や体液からの感染症とかもう全然考えていない。あとひわいだと思います。女医さんとか女性看護師がいないのも、服のせいですよねぇ。絶対。


 さておきですね。話をもどして。

 貴族怖い。というより、剣聖さんマジで怖い。いや、私もうっかり口を滑らせましたが解像度が低いとか意味通じてないはずなのに剣聖さんは攻撃と認識するんですね。まあでも、死んだ甲斐はあったかなあ。あの人、多分猫(正体は虎)が同居人にじゃれついてるみたいな感じです。先輩も多分、そんな感じで剣聖さんの相手をしているんじゃないかな……。あと、レベルも上がりました。この調子だと上位紋章に行きそうな気配すらしますね。この平和な世界で上位紋章に何の意味があるかはさておき。


 まあ、つまりですね。なんだ、剣聖さん恋愛以前か。そかそか。ふーセーフ。です。

 私は恋愛で取り合いとか性格的に無理そうなんで、とても好ましい結果です。

 あの先輩、こっちの世界じゃ妙に人気がなさそうなんで、私にもチャンスありそう。先輩いいと思うんだけどなあ。物静かで優しいし。あと右手の甲が先輩のこと大好きだって言ってる。お姉ちゃんはなんでこの感覚ないのかなあ。血のつながった姉妹なのに。不思議。

 でも口に出したら、お姉ちゃん傷つきそう。意外に繊細なんです。あの人。


 それはそれとして先輩、学校辞めるつもりじゃないかな。先輩の家、あんまり裕福そうじゃないし、田舎に帰るのかなと。

 一緒に私も辞めるとして、どう先輩と結婚するかですよね。プレゼン資料作ってみようかな。先輩なら最後まで話は聞いてくれるだろうという謎の信頼感がありますね。


 うむ。寝れぬ。


 今は日の入りした直後、二〇時ころです。そして、現代人は夜更かしです。そう、私も転生前までは〇時からが本番という気持ちでした。本質的には今もそうです。

 が、この世界。照明代が高い。一時間当たり九〇〇〇円くらいです。このためだけに光名の魔法を覚える人が多いのも分かるってものです。光明の魔法はおよそ五〇万円くらいで覚えられるし、需要高くて教える魔法塾の先生も手慣れて説明も分かりやすいって話だし、ぜひとも覚えたいものですが、使うとどんどん体力が減っていくらしく、一時間の明かりは一時間の全力疾走とあまり変わらないという人もいます。

 そして覚えたら、絶対お姉ちゃんが便利に私の魔法を使う未来しか見えません。それでどうしたかというと、魔法は興味ないとかいうふりして、実家でお金出すという話を蹴って今に至ります。毎日あの姉にこき使われると思うと、うかつに手を出せないのです。いやもう、ほんとに。


 揺れ。


 おお。地震だ。この世界に生まれてからはじめてかも。

 こっちにもプレートあったんだなあ。と寝ていたら、姉が半狂乱で突撃してきました。あ。地震はじめてかぁ。お姉ちゃんも可愛いところあるなあ。甘やかしてあげるね。

 手を広げておいでおいでしたら、丸まった服を投げつけられました。ひどす。


「ひどいよお姉ちゃん」

「なにぼんやりしてるのよ。急いで着替えて」

「これ鎧じゃん」

「私の訓練用の予備。革鎧だけど、ないよりマシでしょ、つけ方は紋章が教えてくれるでしょ」

「そりゃあ、分かるけど。どうしたの? そんなに慌てて」

「アリマが、一瞬死んだわ」

「なんでそんなこと分かるの?」

 お姉ちゃんは少しだけ悩んだ後、口を開きました。

「こんなこというと繊細なあんたは傷つくだろうから黙っていたけど、アリマはについてはなんとなく分かるのよ」

「それなのに好きじゃないの?」

「種類が違うと何度言えば……」

「えー」

「良いから急げ。アリマを助けるわよ」

「お姉ちゃんが身内以外を助けに行こうなんて……」

「誰もあいつを助けないなら、私たちがやるのよ」

 それはご先祖様が盾を持って駆けだす前に言っていた言葉だったそうです。私はお姉ちゃんと血の繋がりを感じて嬉しくなって頷きました。

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