最底辺からのダンジョンマスター ~失われた迷宮で始まる異世界再建記

なちゅん

プロローグ

「お前は今日からこのダンジョンの主だ」


唐突に告げられた言葉に、俺は言葉を失った。

黒いフードに包まれた老人の顔は、まるで俺が当たり前の運命に辿り着いたかのように淡々としている。


「は? 何言ってんだ、じいさん」

俺は笑い飛ばそうとしたが、声が震えた。いや、それよりも体が震えていた。周りを見渡せば、俺が今立っている場所は、見知らぬ巨大な石造りの空間だ。どこか湿っぽい空気が肌を撫でる。


「ここは…どこだよ?」


「ここは《忘れられた迷宮》。そして、お前が新たなマスターとなる場所だ」

老人は魔法陣の中心で杖を掲げながら続ける。


「ただし、この迷宮は今や崩壊寸前だ。長らく管理者を失い、魔物は減少し、侵略者たちの餌食になっている。このままでは完全に消滅するだろう」


「いやいや、待てよ。俺がダンジョンマスター? そんな話、聞いてねぇんだけど!」


俺は両手を振り上げて拒絶の意思を示す。ゲームでよく見るような「ダンジョンマスター」という肩書きは知っているが、それが現実で通じるなんて思えない。それに、こんな場所で何ができるというんだ。


「俺はただ、普通のフリーターだぞ! 金もないし、力もない。俺に何を期待してんだよ!」


すると、老人は深くため息をつき、静かに杖を地面に叩きつけた。

その瞬間、俺の足元に刻まれた魔法陣が青白く光を放ち始める。


「ならば証明してみせよ、お前にこの役目を果たす資格があるかどうかを」

老人の声が重なり、耳を劈くような轟音が空間に響き渡る。


「待て、待ってくれ! そんな急に…!」


言葉を飲み込む間もなく、俺の体は魔法陣に引き込まれた。視界が一瞬、真っ白に染まり――次に目を開けた時、俺はダンジョンの中心部に立っていた。


荒れ果てた空間。

崩れかけた石壁。

その隅で息も絶え絶えのゴブリンが俺を見上げている。


「……これが、俺のダンジョン?」


そして、脳内に響く声が告げた。


《ダンジョンマスター登録を確認しました。最初の指令を発行します――ダンジョンを再建せよ》


俺の、新しい人生が始まった。

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