バイバイ、また明日ね。

文久三年生

バイバイ、また明日ね。

 同じクラスに、友達はいない。教室ではいつも一人。

 一日の大半は自分の席に座って、スマホ弄ったりぼーっとしたりして過ごしている。

 丸一日、クラスの誰とも話さなかったなんてことはよくある。

 人付き合いが多いと、疲れてしまうのだからしょうがない。

 学校に来てる理由は、みんな行ってるから。行くのが当たり前だから。行かないと、親が泣くから。が、ほぼほぼの上位を占めている。

 ホームルームが終わって、部活もない俺は一人教室から出て、廊下を歩いて、階段を降りて三階から一階の下駄箱へと行き、学校指定のサンダルからローファーに履き替える。

 ちょっと胸が、ドキドキしてきた。

 自転車通学のため、三号館の校舎を出て左に曲がり、三号館と二号館の間にある渡り廊下をくぐって、一号館の脇にある自転車置き場へと足を進める……。やばい、胸がはちきれそうだ。

颯太そうたくーんっ」

 ──きた! 渡り廊下をくぐり終えて少しした所で、ややハスキーなかわいい声が、俺の名前を呼んだ。胸のドキドキがパンと弾けた俺は振り返り、声がしたほうを見上げる。渡り廊下の開いた窓から、一年の時同じクラスだった真壁まかべさんが、俺に向かって大きく手を振ってくれている。

「颯太くんバイバーイっ、また明日ねー」

 弾ける笑顔が、太陽のように眩しい。

 じゃあね、また明日。

 俺はその眩しい笑顔に向かって、ちょっとだけ手を振る。照れくさいから、声にも出せてないけど、俺がこの学校に来てるほぼほぼの最大理由は、あなたです。あなたがこうやっていつも俺に手を振ってくれているから、俺は毎日この学校に来てしまう。ありがとう、真壁さん。

 ぴょこぴょこ飛び跳ねながら、まだ大きく手を振ってくれている彼女に向かって、俺はまたちょっとだけ手を振ってから、彼女に背を向けた。

 いつもよりちょっとだけ長く振ってしまったせいか、また明日学校に来たいと思う気持ちが、ちょっとだけ強くなった気がした。

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