鬼使い嬉野貴緒と貴婦人の赤鬼

健野屋健人(たけのやたけと)

貴婦人・紅《くれない》の烈鬼《れっき》

ここはお洒落な抹茶カフェとは違うくて、商店街の元お茶屋さんが始めた、極めて地味な抹茶カフェだ。


嬉野貴緒は貧しい大学院生。

バイトは欠かせない。

今、開店前の抹茶カフェで、準備中だ。


そして、今、テーブルを磨いているのが、かなり地味な女子大生のめぐみちゃんだ。

可愛らしいカフェの制服を着ているのも関わらず、華がない。

嬉野貴緒が通う大学の女子大生は、眩しいぐらい輝いているの言うのに。


「めぐみちゃん、そんなに磨かなくても大丈夫だよ」

「輝きたいんです」

「そう」


その時、嬉野貴緒は隕鉄で出来た指輪が気になった。

この指輪は鬼を召喚できる指輪だ。


「来る?!」

嬉野貴緒が呟くと、丸い円が出現し、その中から赤鬼が出現した。


「ぎゃああああああああああああ!!!!!鬼ーーーーおへそを隠さないと」

一般人のめぐみちゃんは、普段の地味さを忘却の彼方へ飛ばすほど、絶叫した。

「おへそは雷だよ。お嬢さん」

「あ、はい」

赤鬼の助言にめぐみちゃんは素直に返事をした。


赤鬼と言っても容姿は、まさに貴婦人だった。

「わたくしをくれない烈鬼れっきと知って、召喚したって事ですの?」

「召喚はしてないです」

鬼使い嬉野貴緒は、困惑した。


「わたくしを呼んでいない?このわたくが呼ばれていない?」

嬉野貴緒が頷くと、

「そんな訳ないじゃない!わたくしをくれない烈鬼れっきなのよ!」


くれないと言うだけあって烈鬼れっきは、真っ赤だった。


その影響か、カフェ内が薔薇色に輝きだした。

かなり地味で風流な抹茶カファだと言うのに。


困惑の表情を浮かべる嬉野貴緒に

「どうしたものか?」

くれない烈鬼れっきは、問うた。


「どうしたものか・・・と言われてもですね」

鬼使いの嬉野貴緒は言ったが、どうやら周囲に異変が起きていた。


めぐみちゃんが、

「こうなっちゃたら嬉野先輩!一緒に踊ろう!」

と嬉野貴緒の手を握った。


とっても内気で真面目な女子大生だったはずなのに。

「めぐみちゃん!ここは店内だよ!」

「そんな事はどうだっていいじゃないですか!世界はこんなに薔薇色なんですよ!」


めぐみちゃんの言う通り、世界は薔薇色だった。

「でも開店の準備が!」

「今、するべきことは、この薔薇色の世界を楽しむ事じゃなくて?」


嬉野貴緒は店を見渡した。

まだドアは閉まっており、シャッターが降りていた。


「まあ、いいか」

嬉野貴緒はめぐみちゃんの腰に手を回し、一緒に踊りだした。



くれない烈鬼れっきは、

「おほほほほほ!そう!それで良いのよ!じゃあわたくしはこれで!」

と叫ぶと、嬉野貴緒とめぐみちゃんのダンスを見届けてから、ふっと姿を消した。


すると、もちろん、薔薇色の世界は消え、現実が戻ってきた。


「嬉野先輩・・・冷静に考えると、世界が薔薇色に成ったからって、人生が薔薇色になるとは限りませんよね」


現実に戻っためぐみちゃんは、冷たく告げると、嬉野貴緒から身体を離すと、厨房へと歩いて行った。


抹茶カフェのドアの向こうでは、朝の通勤の人々の喧騒の音がした。


鬼使い嬉野貴男は、1人呟いた。

「現実か・・」




         完

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鬼使い嬉野貴緒と貴婦人の赤鬼 健野屋健人(たけのやたけと) @ituki-siso

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