第19話第三勢力

「れいっち、やっほ~……月見里ちゃんも」


 昼休み早々に不穏な空気。胃がキリキリと痛くなる感覚。でも心なしかこの状況の中で余裕を感じている自分がいる。あぁ、修羅場にもなんだか慣れてきたな。

 四時間目が終了して早々に星導が俺の元へとやってきた。もちろんのことギャルモードで。

 俺の元へと歩み寄りながらも星導は隣の月見里に鋭い視線を飛ばす。月見里もそれに対抗して近づくなオーラを出し始めた。クラスの空気もどこか重々しいものになっていく。


「……おはよう星導さん。何の用かしら?」


「あはは、私は月見里ちゃんじゃなくてれいっちに用事があって来たんだ。とりあえず邪魔しないでくれる?」


 開戦の一撃は深く沈み込む重過ぎる言葉だった。その言葉を皮切りに空気はみるみる沈んでいく。


「それはごめんなさい。でも千堂くん今私と話しているの。邪魔しているのはそっちよ」


「え~?別に後先なんて関係無くない?私の方が緊急性のある用事だからさ、ね?」


「どうせくだらないことなんでしょう?いいから後にしたら?」


「……あの、お二人さん?教室で喧嘩はよくないと思いますぜ?」


「「黙ってて」」


 …よし、どうやら俺はこの場において無力かつ不必要のようだ。ならばすることは一つ。

 俺は二人が口論しているうちに教室を抜け出す。抜き足差し足忍び足だ。

 全く、面倒なことになってしまったものだ。二人も面倒な女をひっかけてしまうとは、俺も隅に置いておけない男だ。これからは苦労しそうだな……


「あれ、黎斗」


 とりあえず避難しようと曲がり角を曲がったところで俺の背後から声がかかった。振り向くと、たったったと足音を立てながら彼はやって来た。


「……げ、諒」


 懐かしき旧友の姿に俺はどこか厄介ごとの気配を感じていた。


▼▽


「貴方ねぇ、千堂くんは……はっ、千堂くん!?」


 時間にして十数分。激しくも陰湿な女子の口論を続けていた月見里は話題の中心だった黎斗がいなくなっていることに気が付いた。続いて星導も気づき、二人で黎斗の姿を探す。

 

「いた!……あれは」


 中庭にいる黎斗の姿を先に見つけたのは星導だった。月見里も続いて窓際へとやってくる。

 ベンチに座る黎斗の隣には金髪碧眼の女。星導のような染めたものではなく、天然のもの。二人の瞳から光が消える。


「「…チッ」」


 気づけば二人はそろって走り出していた。階段を一つ飛ばしで降り、快足を飛ばし、瞬時に中庭へ。

 揃ってゴールを切った二人は楽しげに話す黎斗へと殺意の籠った目線を向けた。


「「千堂くん?」」


「なっ、お前らいつの間に……」


「その隣の女は一体誰なのかしら?私とこの女じゃ飽き足らず、まだ女をひっかけようっていうの?」


「千堂くん、私達置いて浮気とかどういうつもり?さすがに見過ごせないなぁ~?」


 動揺した黎斗を二人は責め立てる。どう弁解したものかと冷や汗を流す黎斗の隣で美しい金髪の女はふふっと軽く笑った。その笑顔は飄々としていて、どこかこの状況を楽しんでいるようにも思えた。

 そんな彼女の笑顔を見て、月見里は標的を変えた。


「千堂くんが喋らないなら貴方自身に喋ってもらおうかしら?」


「……ふふっ、ねぇ黎斗聞いた?"女"だってさ。ははっ」


「……あー、もう面倒だし言っていいか?いいよな?」


 鈴を転がすように笑う彼女の横で黎斗はため息を一つついた。


「……こいつは忍野おしのりょう。俺の幼馴染で……男だ」


「「……は!?」」


 忍野諒。彼女、否。彼は正真正銘の男であった。

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