第6話
『鈴木先生ですね、佐原と申します。本日はよろしくお願いいたします。音声が聞き取りづらい場合、遠慮なく仰ってくださいね』
目鼻立ちの整ったスーツ姿の男性がスマホのモニタに映る。
求人サイトを目にした3時間後には履歴書のPDFデータを掲載アドレスに送り、それからトントン拍子でその2日後には面接に漕ぎつけていた。
モニタ越しに佐原氏の話を伺ったところ、御家には小学2年生の不登校の娘様がいること、諸般の事情で小学校への登校は当面難しいこと、そしてお住まいがかなりの僻地にあること、そういった事情から住み込みの家庭教師をお願いしたいとのことだった。特にお住まいにかかる事情は深刻なようで、冬期間は車移動も困難となる雪害も珍しくない地域とのことだ。
『なかなか除雪も入らないところなので、特に冬場は通いの家庭教師は無理だと断られっぱなしでしてね。だったらいっそ住み込みの家庭教師を募集しようかと思ったのですよ。そのほうが娘の学習機会が奪われずに済みますからね。幸いにして、家は改装して間もないですし、部屋も余っていますので。その場合、先生のプライベートな時間には干渉しませんからご安心を。あっ、Wi-Fiもちゃんと繋がっていますから』
佐原氏の話は淀みなく、すっかり聞き入ってしまっていた。心地よい声のトーンが、私の心の中の不安を取り除いていった。
面接内容も、佐原氏から一方的に問いただすのではなく、穏やかな対話形式だったため、ストレスなく思いを口にすることができた。児童の父親との会話というと、怒り口調で詰問されることが多かったため苦手意識があったが、佐原氏との会話は全く嫌な気がしない。不登校の娘様の問題解決にも、このお父様とならうまく協働できそうな気がする。
――このお仕事をぜひ受けたい。
佐原氏との10分余のオンライン面接で、私の気持ちはかなり前向きに傾いていた。
『では、金額につきましては求人サイトに掲載したとおりということで。ちなみに、当方では源泉徴収は行っていませんので、年明けにご自身で確定申告をお願いすることになります。何か質問がなければ、今回の面接は以上とさせていただきますが』
「ぜひとも娘様の教育に関わらせていただきたいと思っております。本日は面接の機会をいただき、ありがとうございました」
その翌日、採用のメールが届いた。
母親は「家から出て行くのなら、アンタの部屋を徹底的にキレイにしていってね。ほら、色々と忙しくなるから、これまでのようにダラダラしていられないよ」と。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
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