第5話

 この如何ともしがたい状況で、母親から突き付けられた最後通牒。

 焦りを紛らわせるため、私はハローワークの求人情報サイトに加えて、塾講師・家庭教師の求人サイトも見漁ることにした。社会人経験も乏しく、特に取り柄のない私にとっては、教員免許は依るべき唯一の存在。それを最大限に活かせるのはこの業種しかないだろう。どの求人サイトも勤務エリアを絞り込めるようになっているが、地元から離れた勤務地でもいいかと思い「全国」と設定。遠方だったら寮付きの職場だといいな、と淡い期待を抱きながら全国の数多の求人情報を見ていく。ええと週3時間勤務では全然足りない、医学部志望の高3生は私では手に負えない、などと画面をスクロールしていくと、ふと1件の求人情報が目に飛び込んできた。



住み込み家庭教師募集(小学2年生)

 ・北海道〇〇郡××町

 ・月給30万円

 ・家賃・食費・光熱水費負担なし

 ・小学校教諭免許(一種)必須 

 ・要面接(オンライン面接可)



 他の求人とは一線を画す内容に目を奪われてしまった。


――これ、かなりの好条件なのでは。

 

 給与額は小学校勤務時の額面総額よりも高い、しかも住み込みなのに家賃も諸経費負担もなし。何よりも、北海道なら知り合いと顔を合わせることもない。どうせ家から追い出されるかもしれないのなら、いっそ遠方の住み込みもアリなのかも。

 今の私にとって願ったり叶ったりの求人内容に気持ちは傾いていた。その一方で、


――こんな好条件、何か裏があるんじゃないかな。ヤバい案件とか。


という不安も抱いていた。冷静に判断すべく一度スマホを置いて目を瞑り、ヤバい可能性を考えていくことにした。もし相手が反社会的勢力だとしたら……現在の私は公務員どころかただの無職、真っ当なお仕事で給与を貰う分には問題ないだろう。もし人身売買や臓器売買に繋がる求人だとしたら……わざわざ「小学校教諭免許(一種)必須」と条件を絞り込まずに、間口を広げて手当たり次第にアレするだろう。もし若い女性を性的にアレコレするために誘い出す求人だとしたら……このツラなら面接で落とされるから大丈夫、心配する必要は無い、大変遺憾ではあるが。


――よし、まずは面接を受けてみることにしよう。こちとら、四の五の言っていられる余裕もないし。

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