第2話
旭川空港を一歩出た私の目に映ったのは、鮮やかな青色の空だった。
照り輝く太陽を見上げながら大きく深呼吸をした私の頬を一陣の風が撫でる。風は微かに土の匂いがした。
「さて、無事に着いたことを雇用主様にご報告しないと」
スマホを取り出し、LINE で旭川空港に到着した旨を連絡する。
そうだ、今のうちにスーツケースから手土産の袋を取り出しておこう。隣市の銘菓である”うなぎパイ”、やっぱり定番のものが一番だろう。
スーツケースの、手土産のあったスペースにはコートを詰め込む。初めての北海道、寒さ対策に用意してきていたのだが、どうやらこの陽気では必要なさそうだ。
すると間もなく雇用主様から返信が来た。どうやらすでに空港駐車場に来ており、すぐに出迎えに向かうとのことだ。
返信しようとした瞬間、男性の声が遠くから聞こえる。視線をスマホから周囲に移すと、遠くから大きく手を振って近づく男性の姿が目に飛び込んできた。
「鈴木先生ー、佐原ですー」
雇用主様こと佐原慎氏が駆け寄ってくる。オンライン面接のときにはわからなかったが、めっちゃ長身、手足も長っ! そんな姿はやはり周囲の人の目を引いていた。
「鈴木先生、遠いところからお疲れ様でした。ご自宅からここまで、どれくらい時間かかりましたか?」
そう口にしながら、佐原氏はライトグレーのジャケットの襟を整える。
私の横に立たれると氏の背の高さが際立つ。私と頭ひとつ分の身長差ということは180cmオーバーだろう。というかスゴイ小顔。シュッとした輪郭やスラっと通った鼻筋に目を奪われるも、初めてお会いした方をジロジロ見続けるのも失礼かと思い、私は視線を移しながら質問に答えた。
「そうですね、浜松駅から新幹線に乗り、品川で乗り換えて羽田空港へ、そこから飛行機という行程で、ざっと5時間というところです」
「旭川空港は羽田・成田からの便に限られるから不便ですよね。本当にご足労おかけしました。あっ、お荷物お持ちしますよ」
と、氏は口にしながら、ホテルのベルスタッフよろしく私の荷物をスマートに持ち運ぼうとする。さすがにそれは申し訳ない、自分で運ぶと私は必死に固辞した。
「では、あちらの駐車場に車を停めておりますので。このまま家に向かってもよろしいですか」
「はい、御宅でお嬢様にまずご挨拶をして、それから今後の教育方針について佐原様と早急に打ち合わせできれば」
「いえいえ、移動疲れもあるでしょうから、ゆっくりでも構いませんよ。まずは家でお休みください、鈴木先生のお部屋のご用意もできておりますので。昨日届いたお荷物も搬入済です」
「そんな、わざわざ。改めまして本日よりお世話になります」
――鈴木陽菜23歳、このたび地元の静岡県を離れ、北海道の佐原氏宅で娘様の住み込み家庭教師をすることになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます