社畜リーマンは純文アイドルの夢を見るか【最可愛女子感想企画】

未来屋 環

第1話 5:28-6:20

 起きればすぐに忘れてしまうであろう支離滅裂な夢に別れを告げ、ぱちりと目が覚めた。

 枕元のスマホを手に取ると、5:28――目覚ましが鳴る2分前だ。

 私はアラームを切って身体を起こした。


 ――リーマンの朝は早い。

 就業時間中はやたら出席者の多い会議や問合せ対応に時間を取られ、自分の作業ができるのは朝と夜が中心だ。

 通勤ラッシュでの無駄な体力消耗を避けるため、私は早めに会社に向かうことにしている。


 リビングに入り、TVと共にPCの電源を入れた。

 油断していると仕事一色になりがちな私の日常を彩ってくれるもの――それはカクヨムに投稿される数々のWeb小説だ。

 アマチュア作家たちが投稿した力作はどれも読み応えがあり、無料で読ませてもらっていいのかと恐縮してしまう程だが、ありがたく恩恵おんけいにあずかっている。


 身支度みじたくを整えながら私はカクヨムにアクセスし、小説に目を走らせた。

 きらりと光る文章表現を見付けると、ふふふと自動的に口角が上がる。

 読み終えると、作者へのお礼の意味も込めて感想を書く――これが私のルーティンだ。

 私はブックマークしておいた自主企画の投稿作品をひとつずつクリックしていった。


 ***


■『あの煙突と富士山をもう一度』大田康湖さん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093089203882867

 推し文章表現

「あや子の子ども時代から変わらぬ光景だが、湯気抜きの高い窓からは、団地がなくなったため広がった夜空に星がのぞいている。」

うしなわれたものと得られたものを綺麗に対比されているように感じました。


 地域住民に長い間愛されてきた昔ながらの銭湯が店仕舞いをする様子を描く――ノスタルジー感溢れる設定ながらも登場するアイテムがドローン! 新旧の対比が素晴らしいなと思いました。

 かつて見たを最新技術で残す、そんな科学の発展をさりげなく描いているところも個人的にはぐっときました。

 喪われていくものもあれば得られるものもある、どちらもあって時代は進んでいくんですよね。

 ゆず湯で季節感もあり、私も浸かりたくなっちゃいました!(´ω`*)

 大田さん、素敵な作品をありがとうございました。



■『深海と深森の愛』紙の妖精さんさん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093082717322851

 推し文章表現

すみれの森の中に、嶺零れいれの海の光が溶け込み、愛のエネルギーが深く交じり合う」

→美しい表現が多くて迷いましたが、中でもこちらが好きですv

 愛し合うことをこんな風に表現できるなんて、すごいです!


 特別な力を持つがゆえに孤独を感じていたふたりの少女が出逢い、そして心を寄せ合う――ふたりの距離が近付いていく様子を幻想的に描かれていて素晴らしかったです。

 菫と嶺零、それぞれの心象風景が別のものでたとえられているところもおしゃれ!

 タイトルもこれしかないという美しいはまり具合。

 御伽噺のような綺麗な世界にどっぷりとひたらせて頂きました。

 個人的には『嶺零』というネーミングがツボでした、綺麗……!

 紙の妖精さんさん、素敵な作品をありがとうございました。


 そして、たまちゃんを推して頂き、ありがとうございます!

 ファンサとして、リクエストテーマ『天文学』で1,000字掌編書かせて頂きました。

→『アストロノミカル・ミーティング』

 https://kakuyomu.jp/works/16818093091616226269



■『NO MUSIC NO LIFE』@zawa-ryuさん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093089308071651

 推し文章表現

「あとは俺のギターが連れてってやる。俺たち二人しか行けない場所へな」

→いや……かっこよすぎでしょ……!!


 直球のタイトル、いいですね……!

 音楽・ロック好きなのでもうタイトルだけでワクワク、読み始めて佳音に共感!

 生まれて数ヶ月でハードロック聴きながら歌ってるって羨ましすぎです……(私は音楽に目覚めたのが中学生以降なので)まさにロックの申し子、ロックのサラブレッド。

 音楽に対する情熱とふたりの愛が呼応しながら燃え上がっていく様子に、読んでいるこちらもどんどん熱くなってきちゃいました。

 ライブハウスの小さいハコの熱気がビシビシ伝わってくる描写、見事です!

 NOISE→SIONという名前変換もかっこいいですし、なによりラストの一文そこで締めるんだ! というところも好きです(´ω`*)

 @zawa-ryuさん、素敵な作品をありがとうございました。



■『千の詫び』福山典雅さん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093089338615148

 推し文章表現

「震える身体の奥に残るものを、ただ愛おしんでわたしは泣いた。抱きしめた手紙がわたしの知らない重さになった。」

→せつなさの極致。

 手紙は何故重くなったのか……こんな表現が出てくることが素晴らしいです。


 もう感情をずっと揺さぶられ続けた作品です……!

 時代設定とその世界で生きる千尋の性格がぴったりマッチしていて、ぐんぐんと引き込まれました。

 時代時代で求められるもの、望ましい感情の発露の仕方は違うのかも知れないけれど、恋の前ではどの女性も皆同じ。

 田所さんいいひとじゃないですか……と思わせてからの、良助さん!

 自身を律することにけている千尋だからこそ、惹かれてしまう。

 このあとどうなってしまうのかハラハラ読ませて頂きつつ、くくり方もとても綺麗で見事でした。

 いつかこんな恋物語を書いてみたいものです……(遠い目)

 福山さん、素敵な作品をありがとうございました。


 そして、たまちゃんを推して頂き、ありがとうございます!

 ファンサとして、リクエストテーマ『恋愛(踏み出す瞬間)』で1,000字掌編書かせて頂きました。

→『それはたおやかな花のように』

 https://kakuyomu.jp/works/16818093093709513973



■『歩きスマホに注意を促した話(ショートショート)』島本 葉さん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093089368565650

 推し文章表現

「あわわ、と慌てて消す。」

→むっちゃ可愛くてキュンとしました。


 歩きスマホ、危ないよねぇ……って、そっち……!?

 何を書いてもネタバレになるのであまりここには書けないのですが、読みながら情景が目に浮かぶ文章力が見事でした(´ω`*)

 個人的に好きなのは懐中電灯のくだり。可愛い。

 あわあわしている様子がまた、いいですね……!

 島本さん、素敵な作品をありがとうございました。


 ***


 ――おっと、ニュースで2回目の天気予報が始まった。

 そろそろ家を出なければ、乗りたい電車に間に合わない。


 後ろ髪を引かれながら私はPCの電源を落とす。

 年末のセールで購入したアウターを羽織り、ワイヤレスイヤホンを耳に突っ込んだ。

 小説は読みたいが、『歩きスマホに注意を促した話(ショートショート)』でもわかる通り歩きスマホは危険だ。

 歩行中は好きな音楽を聴きながら歩こう。

 『NO MUSIC NO LIFE』を読んだあとだ、久々にハードロックでも聴くか……VAN HALENなんていいだろう。


 さて、今日の仕事は何時に終わるだろうか。

 毎日忙しいが、『千の詫び』の時代に比べれば女性は生きやすくなったと思えば、頑張らねばとそう思う。

 『あの煙突と富士山をもう一度』を読んだお蔭でゆず湯に入りたくなった。

 お風呂で読むのは『深海と深森の愛』のような、どっぷりと世界観に浸れる作品がいい。


「いってきます」


 誰が応えるわけでもないが、私は小声でつぶやきドアを閉めた。

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