第3話 明日無き地獄の修練

「では、午後からの授業を始める。

 今日は新学期が始まってからの初の実技訓練となるが、気を緩めず、真面目にやれ。

 ここでしっかり実技を学べない奴は、実際の戦場で死ぬ羽目になる。各自、そのことを今一度心に留め、励むように。

 では、まずは二つのグループ分かれ、訓練を行なってもらう。Aチームは武器を携帯した状態での歩行訓練だ。

 言っておくが、楽な訓練ではないぞ? 一矢乱れぬ状態で行う武装行軍は、我が国を守護する自衛隊員たちも疲弊するほどの物だ。

 Bチームは2人一組を作れ! 5分の時間制限で相懸かり稽古を行う。

 実戦想定のつもりでやれ、そうでなければ訓練の意味がないからな!

 30分後、15分の休憩を挟んでAとBを入れ替え! 時間いっぱいまでこれを繰り返す! 以上、散開!」


「「「「はい!!」」」」


 織神先生……刀夏姉の号令により、即座にみんながバラけていく。

 昼食が終わり、午後の授業へと入った秋刃たち。

 一同は制服からスポーツウェアの様な服を身に纏い、外にある広場に集められた。

 そこにいるのは、秋刃が所属しているクラスの15人だけではなく、他にある2クラスからも生徒たちが集まっており、総勢45人の生徒たちが集結していた。

 無論……その中に男子生徒は秋刃ただ一人である。

 そんな中、集められた生徒たちは二手に分かれていき、片方は隊列を組み、持っている木刀を構えた状態で、一糸乱れぬ動きで外周部分を歩いて行く。

 普通に歩いている様にしか見えないため、側から見れば楽な訓練だと思われがちだが、これがものすごくきついのだ。

 そして、もう一方は自然と二人一組を作り、手にした木刀を持って各々のタイミングで合図を出し、打ち合いを始めている。

 そんな光景を目の当たりにした秋刃は、その場に立ち尽くすしかなかった。


(すげぇな……軍隊みたい……)


 いや、まさしく軍隊ではあるのだろう。

 昼食の時に聞いたのだが、この巫術高専の生徒たちの卒業後の進路はほぼ一律にある特殊部隊に配属になるとの事だった。

 その名は【対霊災特務機動隊】。

 世間一般には公開されていない政府公認の部隊であり、通称は『霊機隊』て呼ばれているそうだ。

 霊鬼による被害は年々増加傾向にあるとのことで、それに対応するべく設立されたという。

 しかし、霊鬼を知覚・視認できるのは霊感の強い人、あるいは巫女としての才能がある者に限られているため、当初はその設立も怪しかったとの事。

 それは巫術高専も同じであり、年端もいかない少女たちを居るかも分からない化け物退治のための戦闘員として育てて良いものなのかという意見が出ていたそうだ。

 だが、昨今では出没する霊鬼の戦闘力が高くなってきていることから、現役で活動できる戦巫女の人数も限られており、今後も被害が増えていくことを懸念した政府は、防衛庁管轄の特務部隊という位置付けで、霊機隊の発足を決定したらしい。

 なので、霊機隊も立派な軍隊の一つであるため、その隊員育成のための教育機関である巫術高専もまた軍属であると言える。

 そして、そこに所属する学生もまた、軍人としと扱われるのだ。

 ふとそんな風に思い返していると、ゆっくりとした足取りで刀夏がやってきた。


「織神。こちらへ来い」


「あ、はい!」


 なんとも素っ気ないやり取りだが、これも生徒と教師という立場であるが故なのだろう。

 ましてや刀夏は歴とした霊機隊の一員でもあるため、お仕事モードに入っているうちは、かなり軍人らしい雰囲気を纏っている。

 そんなお姉様の後ろをついていくこと数分後……みんなが集められた外の広場から離れて、二人は学校の敷地内を歩いていき、やがて大きな建物の中へと入っていく。


「えっと……刀夏姉」


「織神先生だ」


「あ、すみません……織神先生」


「なんだ?」


 ものすごく睨まれた。

 もう、蛇に睨まれた蛙状態だよ。

 そんなに睨まなくてもいいんじゃないかな? 今ここにいるの2人だけなんだし……。

 まぁ、メリハリはつけなきゃダメだけどさ……。


「ここは一体……?」


「後で施設の詳細データを確認しておけよ? 今日は初日だから説明するが、明日以降は自分で来れる様にしておけ。

 ここは室内訓練を行うための施設だ。ここでは最新鋭の設備を搭載していて、リアルなホログラフィック技術を使った投影装置を用いて、1人でも実戦さながらの訓練ができる」


「へぇ〜! 凄いなぁ! っていうかものすごく金かかってるなぁ〜!」


 ここでお金の話が出てくるあたり、田舎者だと言われそうだが、相手は刀夏なので、そんな事は言われない。


「関心するのはいいが、今日はここで、お前の適性を見るぞ」


「適性?」


 先に進む刀夏の後に続いて、秋刃も施設内へと入る。

 中へ入ると、そこは地元の県立体育館並みの広さを持っており、普通に屋内球技ができるレベル。そして、内装も校舎と同じくらいには近代化した様な見た目になっており、時折現れるホログラフィックによる時刻表示や案内表示が見える。

 これがただの屋内訓練場だと言うのだから、ものすごいカルチャーショックを感じる。

 この世に生を受けて16年ではあるものの、それまでにここまで近代化した物を拝むことができるとは……。


「す、すげぇ……。ここが屋内訓練場……一体何がどうなってるのか分かんないや……。

 それで、俺は一体、何をすればいいんですか?」


 ここに入って行う訓練は、当然ながら刀夏が考えてきているだろうと思い、秋刃は改めて刀夏に向き直る。


「お前が今後、進むべき道を決めなくてはならない……。

 残念だが、これはもう私にもどうしようも出来ん事だ。お前には、何故だか分からんが巫女としての才能がある。

 その理由は、説明しなくてもわかるな?」


「っ……霊力を扱えること、ですか?」


「そうだ。霊力を扱う事ができるのは巫女のみ。

 生と死の淵に立たされ、何らかの出来事があって、お前にも霊力を扱う技術が発現したわけだが……。

 織神、霊力を操作することはできるか?」


「操作? えっと、普通に体に流すくらいなら……」


 そう言うと、秋刃は目を閉じて一度だけ深呼吸をする。

 すると、ふわっと青白色の燐光が秋刃の体を包み込む様に現れ、まるで炎の様にゆらゆらと動いて見える。

 そう、これが霊力。

 あの日、正体不明の何者かに襲われ、生死の境を彷徨っていた後に身につけた不可思議な力の存在。

 病院のベットで横たわっていた時に感じた違和感……自分の体の中に、わずかながら燻っている火種のような存在があると認識した。

 まさかそれが霊力の源であるとは知らず、一体何んなのか不思議に思っていたが、今日高専に通う事になってはっきりとわかった。

 この高専に通う生徒の全員が、同じ様に青白い燐光を体に纏わせていた。

 その圧力というか、出力みたいな物は人それぞれ、大小様々であったが素人の秋刃の目から見ても霊力と言う存在を確認する事ができた。


「ふむ。まぁ、初心者としてはいい状態だな。だが、それではまだ不十分だ」


「と、言うと?」


 すると今度は刀夏が霊力を操り出した。

 秋刃と同じ様に青白い燐光を発揮したかと思ったが、それは秋刃のものと比べてもかなり弱々しい光に見えた。


「これは我々巫女が扱う霊力を運用する技術で『霊装』というものだ。

 巫女として生きると決めた者ならば、まずはこの技術を身につけなければ話にならん」


 そう言う刀夏の霊力の膜……『霊装』の光は秋刃の物と比べると弱々しく、ほんのり体の表面を覆っている程度のもの。

 秋刃の場合は今もなお体の表面が炎の様にゆらゆらと揺らめいているから、おそらく出力的には秋刃の方が上と言える。


「えっと、俺のじゃダメなんですか?」


「出力にムラがありすぎる。そんな調子で霊力を出し続ければ、いずれ枯渇してしまう。

 霊力とは、言い換えれば巫女自身の精神力と身体の生命エネルギーそのものだ。

 後先考えずに使いすぎると、精神力の枯渇マインドダウンを起こして、まともに戦えなくなる。さらに深刻な状態になると、生命の危機に瀕してしまうわけだからな」


「な、なるほど……」


「まずは、霊力の流れを掴む事を覚えろ。それからお前の進路先を考える。

 『戦巫女』ではなく、『梓巫女』や治療を専門とする『祈巫女』の選択肢もあるからな」


 刀夏の立場がどれくらいの地位にあるのかは分からないが、それでも選択の余地を与えてくれているのは、刀夏なりの優しさなのだと気づいた。

 ならば、それにはちゃんと向き合わないといけない。

 今の自分の現状を踏まえた上で、どれを目指していくべきなのか……何になるのかを決めなくてはならない。

 状況は刻一刻と変化していく物……だから、今の自分にできる事に、全力を尽くすのみだ。


「織神先生」


「なんだ?」


「この霊力の出力を調節する修行、これを完璧に使いこなせれば、俺は巫女として大成できますか?」


「……どうだろうな。才能があろうがなかろうが、霊鬼との戦いは命懸けだ。

 過去にも多くの巫女を輩出してきたこの学校でも、その何割かの卒業生は霊鬼との戦いで命を落とした」


「っ……!」


「戦巫女としての能力を見出し、今後の霊鬼討伐に対して期待されていたが、一度の戦いで心を折られ、前線に出られなくなってしまった者などもいる……こればかりは才能だけではどうにもならん。

 最終的には、その者に確固たる『覚悟』があるかどうかだ」


「覚悟……」


 戦う覚悟。生き残るために、どれだけの準備をして、どれだけの技術を身につけ、どれだけそれを実践できるか……。

 そして、それを実行できるだけの意思を持てるのか。


「刀夏姉……」


「……織神先生だ」


「俺、正直……どうすればいいのか、分からない」


「…………」


「刀夏姉は、はじめから覚悟していたのか? 昔、実家から離れた時から、巫女として生きるって決めてたのか?

 水桜も……そうなのか? 師範もそれを知っていて、二人を送り出していたのか?」


 何も知らなかったのは、おそらく自分だけだ。

 水桜も言っていたが、おそらくは自分のことを思って何も伝えなかったのだろう。

 でも、今は自分も二人と同じ場所に立ち、二人が覚悟を望んで突き進もうとしている道の入り口に立っているんだ。

 だったら、自分はどうすればいい……。


「……お前の質問に答えるとしたら、答えはYESだ」


「っ……!」


「上泉から聞いていると思うが、あいつの実家は元々多くの戦巫女を輩出してきた一族だ。

 先祖代々、悪鬼と呼ばれていた存在をその力と技によって屠り、人々を守り続けてきた破邪の護り手。

 それが上泉家という家であり、爺さんはそこの126代目の当主という事になる」


「……それは、聞いてるよ。じ、じゃあ、刀夏姉はなんで?

 元からそんな力を持っていたっていうのか?」


「あぁ……。まぁ、ここまできたからな……もう隠し事はできないか」


 まだ言っていないことがある。

 それはここ数日ではっきりしていた。上泉家だけではない……それはおそらく、自分自身の───。


「お前ももう勘付いているかもしれんが、我々織神家もまた、上泉家と同じ立場にあった一族だ」


「っ!?」


 刀夏は話してくれた。

 自分の生まれ……より詳しくいうならば、織神という家の事を。


「織神家の歴史も上泉家と同様に古いものになる。

 遡れば平安時代にまで行き着くらしいからな」


「へ、平安時代っ?!!」


 現在が西暦2020年代。

 平安時代というのは西暦794年に時の天皇が『平安京』へと遷都したのが始まりであり、そこから平氏が滅んだ1185年、そして鎌倉幕府が設立した1192年と時代が移り変わっていったので、少なく見積もったとしても……。


「平安って言ったら……今から1200年前っ?!! そ、それって本当なのかっ?!」


「あぁ。まぁ、証拠となる様な文献のほとんどは消失しているがな。

 残っている物があるとすれば、実家の方に何代か前の織神の関係者が残したとされる手記がある程度だったかな?」


 自分の家のルーツを知る。

 そんなテレビ番組が昔あった様な気がするが、それもせいぜい遡っても江戸時代後期ぐらいまでの人は登場していたが、さらにそれよりも古いとは……。


「平安って、あの平安だよな? それで巫女の血ってことは……陰陽師と何か関係があったりするのか?」


「まぁな。そこは上泉家と同じだ。昔は鬼狩り……つまり、妖怪などを葬ってきたという血筋らしい。

 今となっては眉唾物の話だが、現に私にはその力が備わっていたからな。

 お前にまで備わっていたのは、血筋のなせる技なのか、あるいは何らかの例外があったのか……今後もお前の身体検査は続けていく。これはお前を守るためでもあるからな」


「もしかして、俺、実験動物みたいな感じになるの?」


 恐る恐る尋ねてみた。

 高専に来る前から、薄々考えていた事。

 もしも女性しかなれないはずの巫女としての能力を発現した男性がいたのならば、それがどういう仕組みで発現したのか? それが血筋由来のものなのか? あるいは外的要因なのか? 研究したいと名乗り出る者が絶対に出てくるはずだと……。

 しかしそれを刀夏の権限で止めてくれているとしたら……。


「……はぁー。もちろん、お前の事を調べさせろと言ってきた奴らは多い。

 無論、お前を実験動物にさせる気など毛頭ない。そこは私の権限で黙らせた」


「だ、黙らせた……」


「だが、奴らの言い分を完全に押し留めることもできなかった……。

 男であるはずのお前が、なぜか巫女としての能力を使える……そんな事実を無視できるほど、神仏霊庁しんぶつれいちょうや霊機隊も間抜けではないからな」


「神仏、霊庁?」


「一般公開されていない日本の省庁機関の一つだ。

 霊機隊が隠世側の『自衛隊』というならば、神仏霊庁は『防衛省』や『防衛庁』といったところだ」


「こ、国家機関にも目をつけられてるの? おれ?」


「彼らの中にも、子供一人を実験台にさせる事に抵抗を覚えている者達は多いからな。

 私の権限以外にも、使える物は使った……だから、少しは安心していい」


「全然安心できないんですけど……」


 とりあえず、いま直ぐにでも実験台にされる心配は無くなったわけだが……だからと言って、何もしなくていいわけでもない。

 刀夏の権限や関係各所の力を使って、現状は高専生の一人として所属する事になった秋刃。

 ならば当然、高専生としての役目も果たさなくてはならなくなる。


「秋刃。お前には本当にすまないと思っているが、もはや後戻りはできない」


「っ……」


「お前に残された道は一つだけ……。

 巫女としての力をここで培い、『巫女』として今後の人生を生きる事だ」


「っ……そう、なるよな……」


「だが、まだ選べる道はある」


「え……」


「さっきも言ったが、巫女にも色々ある。武器を持ち、最前線で霊鬼と戦う『戦巫女』や『梓巫女』と現場に出たとしても、後方からの巫術による支援や回復に務める『祈巫女』だ。

 巫女になるという道は決められているが、まだ選択の余地はある……祈巫女の中には、前線には出ずに完全に治療目的で配属される部署もある。

 それならば、危険からは最も遠い場所となる……だからこそ、ここだけはお前が決めてくれ……秋刃」


「刀夏姉……」


 やっぱり、刀夏も自分のことを一番に考えてくれていたのだと、今はっきりわかった。

 自分の道を自分で決める……当たり前のことの様に聞こえるが、実際にそれをやり続けるのは難しい事だ。

 世の中にはどうにもならない事はたくさんある。自分が思ってもいない現実に直面することの方が多いと言っていい。現状がそうだ。

 だが、それでも決断しなければならないのだ。

 自分の意思で、自分の今後を……。


「…………ありがとう、刀夏姉」


「秋刃……」


「俺は、正直どこまで出来るのかは、わからない。

 何が出来るのかも、全然わかってないけど……」


 秋刃は深呼吸を行い、真っ直ぐに刀夏の目を見た。


「刀夏姉が思ってくれた事には、すごく感謝してるよ。

 いつも俺のことを守ってくれて、ありがとう!

 だから、俺は決めたぜっ!

 刀夏姉にも、誰にでも胸を張って誇れる様な、立派な巫女になるっ!!」


 これで、一応の道筋は決めた。覚悟をした。

 不敵な笑みを浮かべながらそう言う俺、かっこいい……。

 なんて思っていると、刀夏は呆れたような表情をしながら鼻で笑った。


「お前、そんな堂々と恥ずかしい事を言うな。こっちまで恥ずかしくなる」


「なっ?! べ、別にいいじゃないか! 覚悟を決めろって言ったのは、刀夏姉だろっ?!」


「それはそうだが……男なのに巫女になるっていうのはなぁ……」


「そ、それは言葉の綾じゃないかっ!?」


 その後数分間は馬鹿にした様な表情で揶揄ってくる刀夏に対して終始、顔を赤らめながら反抗する秋刃であった。



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「さて、ひとしきり笑わせてもらったが……今後の実技訓練の授業は、お前は他の者達とは別メニューをしてもらう」


「え? 別メニュー?」


 散々揶揄われた後、話を戻すために再び教師モードへと雰囲気が変わる刀夏。


「まず、お前には基礎の基礎を叩き込む。

 巫女としての能力行使、その基本は『霊装』だ。

 それを実戦で使い物になるまでひたすら反復で行使する」


 『霊装』とは、霊機隊が正式採用している【現代式対霊戦闘術】の一つ。

 巫女の持つ霊力を戦闘用に運用するための使い方の総称であり、自身の意思に応じて全身や特定の箇所に霊力を授け、身体能力や防御力などを飛躍的に上昇させることができる。

 体全体に霊力を流すことで、常人を遥かに超える肉体強度を持ち、人智を超えた怪物である霊鬼に対抗することができるわけだが、それをコントロールしなくてはならない。


「ぐっ……おおおぉぉ……っ」


「どうしたっ、出力が落ちているぞ! もっと丹田に力を込めろっ!!」


「やっ、てますっ、よおぉぉっ……!!」


 霊装を纏うには霊力が必要となるが、ならばその霊力はどこから出てくるのか。

 その答えは『丹田』である。

 丹田とは、体の中心部……すなわち、おへそか指三本分ほど下にあると言われる目に見えないエネルギーの中心点とされる場所である。

 霊力は巫女自身の精神力に加え、丹田から放出される生命エネルギーを合わせた物。

 それらを効率よく運用して、出力自体をコントロールできるようになれば、霊鬼との戦いにおいて有利に事を運ぶことができる。

 と言うことで、まず初めに行う訓練は、全身に霊力を纏う『霊装』状態で、長時間それを維持する訓練。

 ただただ霊力を全身に纏わせる……それだけの行為だが、それがなかなかに大変だ。

 精神力と生命エネルギー、双方を消費し続けるため、最終的にはガス欠になってしまう恐れがあるが、今回はガス欠まで持っていく訓練だ。

 こうする事によって、今の自分の限界値を知ることができると言うことらしい……加えて、この訓練を常にし続けることで、自身が生み出せる霊力の量も増加させることができるのだと言う。


「はぁっ……はぁっ……くっそぉ……っ!」


「もっとだっ! 丹田を意識しろ。流れてくる霊力の動きも肌で感じ取れ!

 これは理屈ではなく、体に覚え込ませろ!」


「は、はい……っ!」


 霊力が途切れては張り直し、途切れては張り直しを続けること、約1時間が経過した。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……ヤバい……! も、もう無理……っ!」


「1時間弱……まぁ、初日してはやる方だが、やはり無駄が多すぎるな。

 霊装の展開は、いわば車の運転と同じだ。アクセルを踏み続ければ燃費は悪くなる。

 大事なのは出力を上げるタイミングと霊力の流し方だ」


「そ、そんな事……言われても……!」


「なんだ? もうへばったのか? あれだけ息巻いておいて、これではなぁ」


「ぐっ……! 初日でもぶっ倒れてないだけ凄いんじゃないのかよっ!!」


 訓練開始前に刀夏の言っていたことが正しいのであれば、霊力の過剰放出は生命に関わる。

 故に、初日からアクセル全開で霊力を放出し続けるのは、ある意味自殺行為に等しいのだが、秋刃は思いの外ねばっていた。

 約1時間ほど霊装展開による霊力放出を行っていた……確かに身体中に倦怠感を感じ、冷や汗が全身から出てきている。

 体の中心部分から熱が引いていく様な感覚が訪れるが、刀夏の叱咤激励をもらうたびに体の奥底から熱が再び湧き上がってくる。

 これの繰り返しなため、初日の訓練にも関わらず、秋刃はいまだ倒れていない。

 これは凄いことのはずなのだが、担当教官はその意に返さない。


「ふん、この程度で勝ち誇るな。たかだか一つ二つの限界値を乗り越えた程度、お前が乗り越えなくてはならない限界の壁は、まだ数百、いや数千個はあると思えっ!」


「はっ?!」


 『限界』の意味を果たしてないよね、それ?

 あまりにも無茶苦茶すぎる暴論だが、まぁ、事実としては正しくはある。

 いきなり高専への編入が決まってしまったために、なんの事前知識もない状態でここにあるわけだから、少しでも他のみんなに追いつくためにも、多少の無理を行使するしかないわけだが……。


「はぁっ……はぁっ……マジで、もう無理……!」


「はぁ……全く情けない」


 限界を迎え、その場にへたり込んでしまう秋刃。

 限界……と言うからには、刀夏的なニュアンスだと気絶するまで訓練……と言うのが妥当なのだろうが、どんなに意地を張って霊力を放出したところで、秋刃の体が無意識に保護するように理性を発揮する。

 

(うえぇ……目眩がするぅ〜……やばい、マジで……)


 霊力の源は精神力と生命エネルギー。

 枯渇は生命の死を意味する。放出しすぎたものは、すぐにでも溜めなくてはならない。

 そんな風に思っていると、秋刃の周りに何枚かのお札がばら撒かれているのに気づいた。


「ん……なんだ、これ?」


「【治癒の祷】」


「うぉっ?!」


 刀夏の言葉と共に配置されたお札が一斉に発光しだした。

 やがて光は秋刃の体を包み込み、優しく暖かな何かに包まれている様な感覚を得る。


「これは……!」


「これが“巫術”だ。我々巫女が使うことのできる呪術の一種。

 霊力を用いた……まぁ、言い換えるならば“魔法の類”だろうな」


「魔法……なんか、凄そう……! っていうか、なんか、体が楽になってきた様な……?」


「これは回復用の巫術……【治癒の祷】という術だ。

 自身の霊力を使って対象の霊力の回復や自然治癒力を高める事で傷を癒す。

 これは高専の授業でも取得必須の術だからな、使える様になっておけ。

  まぁ、発動する前に呪符を用いた陣形を作らなくてはならないのがネックではあるが、基本的には誰にでも使える術だ」


「は、はあ」


 巫術。

 巫女が使う術……初めて見せてもらったが、本当に魔法の様であった。

 いつか自分も扱うことができるのだろうか……。


「さて、もうそろそろ霊力も回復してきただろう。続きをやるぞ」


「えっ?!」


 休憩時間わずか5分。

 いや、5分もなかっただろうな。

 確かに霊力が回復した様な感覚はあるが、それにしたって万全な状態ではない。


「ちょっ、えっ?! もうやるのっ?!」


「当たり前だ。お前を鍛える時間は少ない上に、他の生徒と比べても霊力や巫術に関する知識・技術・実践能力、何もかもがお前には足りんのだ。

 故にここから先は限界値ギリギリまで鍛え上げる」


「へ、へえぇぇぇ……!?」


 目が笑っていない。

 これは、マジの顔だ。

 刀夏は本気で、こんな無茶苦茶な訓練を続けるつもりだ。


「ま、マジで……?」


「これよりお前には改造を施す。立派な巫女になるのだろう?

 ならば、なってもらおうじゃないか、秋刃」


「…………はい」


 その後、時間いっぱいまでこの修練は続けられた。

 後に残ったのは、燃え滓の様になって地面に倒れ伏している秋刃の姿だけだった。

 授業終了のチャイムが鳴り、本日の修練は終了した……しかし、しばらくの間、秋刃はその場を動くことができず、その後担任の紅葉が施設の施錠をするための最終確認に来るまで倒れていたのだった。



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「あー……マジで疲れた……」


 紅葉によって救出された後、とりあえず霊力は回復できたため、秋刃は紅葉に挨拶をして修練場を後にした。

 校舎に帰る途中、グラウンドに出ていたクラスメイトや他のクラスの生徒達を見かけたが、ほぼ全員グロッキー状態で発見された。

 手にしている木刀を杖の代わりにしてなんとか立ち上がるも、プルプルと震えながら一歩ずつ前に進んでいる。

 秋刃は完全に別メニューだったため、皆がどの様な訓練をやり続けていたのかは分からないが、相当ハードだったのだろうと言うのはひしひしと伝わってくる。


「……この修練が終わったら、俺もアレをやるのか……」


 霊力が尽きるまで放出し続けるだけでもしんどいと思っていたのに、秋刃よりも先に進んでいる彼女達は、それを用いた上での実戦想定の訓練を行っているのだ……。

 ここまで来ると、ただの高専ではなくほとんど軍事学校や士官学校レベルの授業の様にも見える。


「とりあえず帰るか」


 明日も似た様なスケジュールで授業は進む。

 そんな事を想像すると、早くもリタイアする事を考えてしまうが、秋刃の場合は逃げられない事情がある。

 それは、秋刃が男であるという事実。

 男でありながら巫女としての能力が扱える、おそらく世界初の症例だ。

 そんな貴重なサンプル、研究したいと思うマッドサイエンティスト達にとっては喉から手が出るほど欲しい逸品となるのは目に見えている。

 なので、そうならないためにも刀夏がこの高専への編入を行ったのだから。


「あー……」


 巫女の力が目覚めなかったとしたら、今頃自分は都内の普通の学校に通い、今では友人も作って、和気あいあいと放課後のイベントを楽しんでいたのだろうと想像する。

 放課後になれば、仲良くなった友人達と街へ足を運んで、気になったアイテムや雑貨などを買いに行ったり、どこかのお店で買い食いをしたり、カラオケやアミューズメントパークなどにいって遊んだりもしていたかもしれない。

 

「みんな元気にしてるかなぁ……」


 ふと数ヶ月前は共に過ごしてきた友人たちの事を思い出す。

 友人たちとはよく遊び、よく学び、よく喧嘩などをした物だ。

 その過程として秋刃の実家……つまり、上泉家の屋敷に泊まりにきたりもして、楽しい思い出などを作った物だ。

 そこまで思い出して、「あ、そういえば……」と、秋刃はふと気づいたことがあった。


「俺が寝泊まりする場所って……?」


 つい最近までは刀夏が住んでいる東京都内のマンションの部屋で寝泊まりさせてもらっていたが、今は高専に編入してしまったため、そう簡単には外に出ることはできない。

 もし外に出るとしたら、それは緊急任務が入った時か、校外での課外授業の時か、外出及び外泊届けなどを出さない限り不可能となっている。

 つまり、このままでは高専敷地内で野宿をしなくてはならなくなる。


「えぇ……野宿は流石に嫌だな……でも、刀夏姉も帰っちゃったし……どうしよう」


 物置小屋の様なところでもいいから、とにかく雨風が凌げる様な場所で寝泊まりさせて欲しいものだが……。

 そう考えていると、秋刃の考えを読み取っていたかのように、風祭先生がやってくるのが見えた。


「あっ、織神くん! もう授業は終わったんですね!」


「あ、風祭先生」


「お疲れ様です。初めての実技訓練の授業はどうでしたか?」


「いや〜その、なんと言いますか……」


 地獄でした。

 と言うのは簡単だが、風祭先生伝手に刀夏の耳に入ってしまうと、今後の訓練がより厳しくなりそうなので、あえてここは穏便にいこう。


「すっごく疲れましたけど、なんとか乗り越えれました」


「っ! 凄いですっ、織神くん! 大体の生徒さん達の初日はかなり疲れてて、這い上がることもできない子達もいるのに……!

 流石は、あの織神先生の弟さんだけはありますねっ!」


「いやぁ〜……どうなんでしょうね?」


「いえいえっ、ほとんどの生徒さんはこの高専に上がってきても体力が続く人は少ないですからね!

 それを初日でキープできているだけでも凄い事なんですよっ!」


 まるで自分のことの様に喜んでいる風祭 紅葉先生の姿を見るととてもほっこりする。

 秋刃よりも低い身長の歳上女性でありながら、にこやかに笑う顔は歳下なのでは?と思わせるほどに幼く見える童顔。

 身振り手振りを交えた会話も、実家の上泉の屋敷の近所でよく会っていた歳下の女の子のような感じがして、とても可愛らしく思う。

 本当にこの人は教師なのだろうかと疑ってしまうほどだ。


「っと、話が逸れてしまいました。織神くんに渡したい物があったんです!」


 そう言うと、紅葉は自身の服のポケットから何やらカードの様な物を取り出して、秋刃に渡してきた。


「カード? なんですか、これ?」


「それは学生寮の部屋の鍵になります」


「鍵っ?! 学生寮の鍵って、カードなんですか?」


 流石は最先端都市『東京』だ。

 同じ関東圏である群馬の中でも田舎の方にある地域では考えられないことが起こっている。

 基本的に『鍵』と言われて想像するのは差し込むタイプの物だが、今ではカードが鍵の役割を担うらしい。


「学生寮の部屋の鍵は電子錠になっているので、この鍵をドアノブの上にあるセンサー部分にかざせば、鍵が自動的に開くという仕組みになっています。

 設定時間を設ければ、自動的に鍵が閉まるようにもできるんですよっ!」


「っ……すっげぇ! 流石は大都会『東京』……! 最先端すぎて訳がわかんないです……!」


 流石に大都市と田舎では地力の差が激しい様だ。

 改めてカードを見る。

 見た目は普通のカードだ。下手すればクレジットカードと間違えてしまいそうなシンプルなデザインのカードだが、そこには部屋の番号の記載もされているため、一目見れば部屋の鍵と理解できる。


「1025番……これが俺の部屋か。あっ、でも俺、荷物もほとんど持ってきてないんですけど、どうすれば……?」


「あぁ、それなら───」


 その後話を聞いていると、どうやら刀夏が実家に連絡してくれていて、すでに秋刃の私物や着替えの類を送ってくれていたらしい。

 紅葉と共に荷物が保管されている場所に移動して、届けられた荷物を確認する。

 中学校の時に使っていた肩掛けの旅行カバンやスーツケースが届いており、全て自分のものであった。送り主はおそらく上泉家の祖父さんで間違いない。

 さらには二通の手紙が入っており、宛名は自分と水桜の名前が書いてあった。

 

「爺ちゃん……」


 最後にあったのも卒業式に行く前だったし、それからは一度も会っていない。

 たぶん、寂しがっているだろうな……。


「織神くん、大丈夫ですか?」


「あ、はい。問題ないです。ちゃんと荷物を送ってくれたみたいです」


「そうですか! では、学生寮まで案内しますね! こちらです」


 紅葉の後を追うように、秋刃は荷物を抱えて保管場所から出た。

 紅葉の案内を聞きながら、校舎の場所や校内での注意事項を教わり、いつの間にか学生寮の入り口に到着。

 高専に入るまでは、学生寮なんて築50年は超えているであろう古いボロアパートのような外観をしているものだと思っていたのだが、実際に目の前まで来てみて、その想像は容易に打ち砕かれた。


「え……寮って、ここですか?」


「はい。ここが一年生寮になります。織神くんの部屋番号は1025番なので、一階の部屋ですね」


 秋刃の目の前に立つ施設……学生寮ということなのだが、どう見てもモダン建築の工法によって作られた五階建ての美術館のような建物だった。

 近代的な外観をした白色の壁だが、決して周囲の景観を壊している訳でもなく、むしろ自然と一体感のある雰囲気すら感じる。

 こんな一流企業が所有してそうな建物が単なる学生寮?


「…………」


「あ、あれ? 織神くん? 大丈夫ですか?」


「……いえ、なんていうか……ここに来てから、ずっとカルチャーショックを受けてまして」


「あぁ、まぁそうですよね。一応うちの学校は政府公認の施設なので、その点では他の学校と比べても優遇されているところかもしれませんね」


 陽気に説明してくれる紅葉の案内で寮内に入る。

 入り口には当然警備室があり、そこで入寮の手続きを行なった。

 寮の職員達も全員女性。まぁ、当然といえば当然なのだが、ここまでくると職員の一人くらいは男性がいて欲しいと思わなくもない。

 寮監長、警備員などは高専の職員ではなく、自衛隊関係者だと言うが、それでも女性自衛官がになっているのは、この高専が基本的に女性しかいない巫女養成学校であるから。

 秋刃一人が編入したからといって、男性隊員達がくる訳ではない。


「では、私はここまでですので、あとは織神くん一人で行ってもらいますね?

 その、大丈夫です? 一応、わかりやすいように案内板は設置してありますので、それを確認してくださいね」


「はい、ありがとうございます。初日からサポートをしてくれて、本当に助かりました」


「いえいえ! これも先生として当然の事をしたまでですから!

 それじゃあ、今日はお疲れ様でした。早めに休んで、明日も頑張りましょうね!」


 ほんわかとしたオーラで笑顔を振りまく紅葉。

 こう言う癒し系教師というのは、非常に需要が高いのではないかと思うが、ここには女子しかいないので、恋愛にまで発展する関係性が育まれないのは実に惜しいなと思う。

 紅葉と分かれ、大荷物を持ってカードキーに書かれている番号の部屋まで移動する。


「あぁー、疲れた。風呂入って寝たい……」


 今日は本当に刺激的な1日であった。

 クラスメイトは全員女子で巫女さん。中学に上がると同時に疎遠となっていた家族同然に過ごしていた幼馴染との突然の再会。

 そして、実の姉からの直々の訓練の手解き……。

 たった1日で経験する新生活のイベントにして、少し飛ばしすぎだろうと思えるような1日だった。

 せっかく用意してもらった部屋。

 こんな豪華な施設を使った寮なのだ、きっと部屋の中身だって凄いものになっているだろう。


「お、ここか」


 秋刃の視線の先には『1025』と表示されている扉があった。

 こうして見ると、寮内の内装のデザインはビジネスホテルかそれ以上の高級ホテルの様な見た目だ。これは大いに期待できる。

 秋刃は渡されたカードキーをレバーハンドルの少し上にあるタッチパネル式になっている部分へとかざす。


ピピッ!


「お、開いた!」


 初めて見たカード式の鍵で初めて開錠した事に感動しつつも、秋刃はレバーハンドルの握って扉を開ける。


「おおっ……!」


 中に入ると、そこはまさに高級ビジネスホテルの様な内装だった。

 部屋全体はモダンな暖色カラーで優しい雰囲気に包まれており、電飾に関してもほとんどが間接照明のため直接的に電光が当たることがなく、ストレスを感じさせない明るさ。

 眼下に見えるベッドは物凄くフカフカしてそうで、さらにサイズもセミダブルレベルの大きさ。

 壁に取り付けられている大型の液晶テレビに加え、ベッドのすぐ横には学習机まで完備している。

 これはもはや学校の寮と言われても疑ってしまうレベルのものだ。


「す、すげぇ……! 流石は政府公認の教育機関……! 金の掛け方が異常だなっ」


 この環境でおよそ6年間に渡り学んで行くこととなる。

 ここから、自分の未来へと歩み始めるんだ。


「さてと、荷物を片付けるか────」


「あれ? 誰かいるの?」


「ん……?」


 ふと聞こえてきたのは少女の声。

 この部屋には自分しかいないはず……そう思っていたため、秋刃も背後にある者の気配を感知することができなかった。

 声のする方へと視線を移す。さっき入ってきたばかりの入り口……玄関と自分のいる場所の中間地点にあたる通路の脇にあったドアが、いつの間にか解放されていた。

 中から多量の湯気が黙々と立ち込め、部屋の天井へと登っていく。

 そしてさらにその奥からは、艶やかな長い黒髪から滴り落ちる水気とまだ十分に拭き取っていない水浸しの美顔が姿を現した。


「え……?」


「は……?」


 二人が声を漏らしたのは、ほぼ同時だった。

 濡れそぼった黒髪と美顔、そしてギリギリ隠れているのか、いないのか分からない程度に顕になったたわわな乳丘。

 どうやら、開けられたドアの先は風呂場のようだ。そして、その中に、まさかまさかの美少女が登場。

 しかも、よりにもよって……。


「あ、ああ、あ、アキィ……っ?!」


「み、みみ、み、水桜ぉっ?!」


 黒髪ロング、そして、年不相応なほどにたわわなプロポーションを持った美少女。

 家族であり、幼馴染という特殊な立ち位置にいる秋刃のよく知る人物が、美しい裸体の一部を見せている。

 膠着する両者、止まる時間感覚……しかし、それも一瞬の出来事だった。

 おそらく風呂に入っていたであろう水桜の肌は少し赤みがかったような色をしていたが、それがさらに真っ赤に変色していき、顔に至っては今にも沸騰しそうなくらいに真っ赤になっていた。


「い、いい──────」


「ご、ごめっ、わざとじゃ────」


「いやあああぁぁぁぁ──────っ!!!!」


 その日の夕方、学生寮全館に響き渡るほどの悲鳴が木霊した。

 そして、織神 秋刃の高専生としての第一日目よ終了を告げる合図だった。




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境界戦場の戦巫女 剣舞士 @hiro9429

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