変幻G在! ~ゴーレム頼りで異世界サヴァイヴ~

いけだけい

第1話 気が付けば異世界(おそらく)

「……何処だここは?」



辺りを見渡すと見覚えのない森の中だった。


確認しよう。


俺は寄形よせがた 地央じお、26歳。


職場から帰る途中でとある男と口論になり、その末に階段から突き落とされた。


聞けばその男は俺の同僚の女性と付き合っていたらしいのだが……最近は疎遠になっているらしく、それが俺のせいだと言いがかりをつけてきたのだ。


その男を止めようとした同僚女性の言い分によれば、疎遠になったのは男の嫉妬深い性格を疎んじたからであり、俺が狙われたのは偶然職場から彼女と一緒に出てきたからというだけだった。


それだけで人を階段から落とすような男じゃ、そりゃあ疎まれるよな。


そんな男と付き合うことになった理由は……顔かな?


俺も別に悪い方ではないと思うのだが、ホストっぽいその男は明らかに顔が良かったからな。


もちろんそれだけだとは限らないが、少なくともこういう行動に出る性格であるとわかっていれば付き合わなかったんじゃないだろうか?


実際、俺に絡んで来る以前から疎まれるようになっていたわけだし。


まぁ、「良くないところがあっても自分がなんとかしてみせる!」と意気込んで付き合うような人もいるそうだけどな。


何にせよ、その同僚女性は俺の好みからは少し外れており、巻き込まれたこちらとしては迷惑でしかない。


で、階段から突き落とされたところまでは覚えているのだがこんな所に居る理由が……ん?


俺はふと気づく、ここが異世界である可能性に。


ネット小説でそういった作品を多少は読んでおり、似たような始まり方が多かったのでそこに思い至ったのだ。



「まさか……」



俺、死んで転生したのか?


でも体格や服装は帰宅時のままなので、転移したパターンのほうが可能性は高いのかもしれない。


どちらにしても俺が日本からその存在を消したことになるわけだろうし、そうなると親族や職場に色々と面倒を掛けることになるだろう。


一応、ここが日本か日本が存在する世界の何処かという可能性もあるが……だったらこんな所に居ないで何処ぞの病室で寝ているはずである。


とりあえずは日本へ帰る方法を探してみるか。


旅行ならともかく、暮らすのであれば住み慣れた土地のほうがいいので可能であれば帰りたい。


まずは人里を探さないと、水も食糧もないからな。


職場が私服で良かった。


秋口だったので俺はやや厚手の上着とジーンスであり、森の中をスーツで彷徨うよりは遥かに行動しやすいだろう。


こちらのほうが気温は若干高いか?


まぁ許容範囲だが……気温が違うということは日本ではない可能性が高くなるな。


今のところは半々って感じか。



「あ、そういえば……」



俺は帰宅時に持っていた鞄やスマホのことを思い出し、再び周囲を見回した。


ここが異世界ではないということが前提ではあるが、スマホがあれば通信はできなくてもGPSは使えるかもしれない。


ネット回線に繋がらないと地図で現在地を確認することはできないが、どちらへ進んでいるかぐらいはわかるだろう。


後は……鞄の中に最近買って多少の現金や免許証を入れた大きめの財布があり、国内であればある程度はなんとかなるはずだ。


街中にいたので当然ながら遭難時に役立つものは入っていないが、鞄自体も気に入っていた物なのでできれば回収したい。


そう思って探してみるも……近くにあれば既に見つけているはずで、残念ながらそれらを見つけることはできなかった。


鞄はもちろん、スマホのほうもあの男とのやり取りを録音するため手に持っていたからなぁ。


せめて証拠品として警察に渡っていることを祈るとしよう。


そうして代わりに見つけたのは、ビー玉のような黒い玉?だ。


直径1cmほどで真球に近く、落ちていた割りには汚れていないように見える。


何故か目に留まるぐらいには気になるし、万が一宝石だったりすれば財布のない俺には都合のいい取引材料になるかもしれないので調べておくか。


擬態している虫だったりして毒などを持っていると嫌なので、落ちていた木の枝でなるべく離れてつついてみた。



ツンツン


「……」


バシッ


「……」



つつくだけでなく、叩いてみても特に何の反応もなし。


なので俺は危険がないと判断し、その玉を拾い上げてみる。


その瞬間、何かが俺の中を駆け巡った。



「っ!?」



それが何なのかはわからないが……何故かこの玉の存在を自然と強く感じる。


そしてその直後、この玉と似たような存在が遠くから近づいてくるのを感知した。


何だ?


結構遠い……100mや200mじゃないな、その倍ぐらいか?


というか、何故俺はそれがわかったんだ?


森の中は草木が生い茂っているので、決して見通しが良いとは言えない。


そんな中、何かが近づいてくる方向は少しだけ見通しが良くなっており、その存在は遠目に人の形をしているように見えた。


丁度良い、あの人に人里まで案内してもらえないか頼んでみるか。


無理でも人里の方向ぐらいは教えてくれるだろう。


そう思ったのも束の間。


こちらへ向かってくる人型の何かは……近づくにつれて全身を緑色に染めた姿であることがわかり、棒状の物を持って駆け寄ってきていることが判明した。


え、まさか。


俺はファンタジー作品において有名なを思い浮かべるが、あくまでもそういう姿をしているだけであって友好的である可能性もあると思いもうしばらく様子を見る。



ダダダダダ……



100mほど先まで来たは……やはり緑色の肌を持ち、小柄ながらも割と筋肉質な身体をしていた。


少なくとも肌を染めているようには見えず……裂けたように大きい口と長い鼻、そして長い耳を持っている。


その口からは牙も見え、よだれを垂らしながら棒を振り上げていた。


まだ遠めではあるが、安全のために大きな声で話しかけてみる。



「えーっと……こんにちはーっ!ちょっと道に迷ってて……」


「ギャギャァッ!」



ああ……これ、話が通じないタイプのゴブリン?だ。


俺のイメージに該当するものがそれだというだけで、こちらでもそう呼称するとは限らないが。


とりあえず危険だと判断して逃げ出そうとする俺だったが、その時ふと気づいてしまう。


そういえばコイツ……1人だけか?


ゴブリンらしき存在からは先ほど拾った黒い玉と同じようなものを感じており、それは奴からしか感じていない。


となれば俺を襲おうとしているのは奴だけか。


奴は太めの木の枝を持っているが、あれさえどうにかできれば体格差で勝てる可能性はある。


ただでさえ逃げる側というのは体力的にも精神的にもきついだろうし、その上で慣れない森の中を逃げ回るというのは怪我のリスクが増してしまうだろう。


これが熊のような相手ならば逃げの一手だが、少なくとも木の枝を武器として使うことが自分の立場を優位にするという認識の相手であればそこまでの力はないはずだ。


だったら……万全の状態で迎え討ったほうが勝ち目はあるな。



ダダダダダ……バッ!


「ギギャアッ!」


ブンッ!



そう考えた俺が奴を待ち構えると、奴は10mほどの距離を飛んで木の枝を振り下ろしてきた。



「うおっ!」


バッ!


ガゴッ!



俺はその跳躍距離に驚きながらも木の陰に入って躱し、やつの木の枝はその木に当たってそこそこ重めの音を鳴らす。



ガサガサッ


「ギギッ!」


ブンッ!



奴は回り込んできて再び木の枝を振るが、俺も再び木の陰に入ってそれを躱した。



「わっと」


ガコッ!


「ギギッ!」


ブンッ!


「よっと」


ガコンッ!


「グギュウゥ……」


バッ!ザザッ!



俺が1本の木を利用して何度も同じように躱していると、奴は埒が明かないと思ったのか……後方の少し開けた場所へ飛んで俺から距離を取り、大きく息を吸い込んだ。



「スゥゥ……」



っ!?こいつ、仲間を呼ぶ気か!


俺が奴の攻撃を躱せているのは奴が1人だからだ。


最初に飛び込んできた距離や木の枝が当たった音から奴の筋力は予想以上にあり、まともにやり合うのは危険だと感じている。


あの跳躍力は厄介だが、まともな武器があればまだ何とかなるといったぐらいだ。


なので最小限の動きで躱し続け、奴を諦めさせる方針に変更したところだったのに……そんな状況で援軍など呼ばれたらどうしようもなくなるだろう。


なので俺は木の陰から飛び出し、奴の腹に蹴りを入れて声を上げるのを止める。



「ギ……」


「フッ!」


ドンッ!


「ギフォッ!?」



奴は俺の蹴りを受け、吸い込んだ空気を声にならない声で吐き出した。


一応、仲間を呼ぶことは阻止できたのだが……俺の行動を予想していたらしい奴は倒れずに踏み留まり、ニヤリとして木の枝を振り被る。



「ギッギッギ……♪」


「チッ」



奴が仲間を呼ぼうとする前に一旦後退したせいで、それを止めようとした俺は開けた場所へ誘い出された形となっていた。


それにより壁にできそうな木々までの距離が空いている。


こいつがそこまで狙っていたのかはわからないが、どちらにしろ止めなきゃ仲間を呼ばれていただろうからこれは仕方ない。


本当は仲間がいないのに、呼ぶフリをして俺を騙したのであれば……なかなか頭が回る奴だということだろうな。



ジリ……ジリ……


「……」


「……」


ググッ……



ゴブリン?からジワジワと距離を取ろうとするも、奴はこちらへ飛び込もうと足に力を込める。


不味いな。


奴の跳躍力であれば、余裕で木の陰に入る前の俺に届くだろう。


もう1人でも人手があれば何とかなりそうだが……


そう思ったとき、握ったままだった黒い玉が俺の手から飛び出した。



ヒュンッ


「えっ?」


「ギ?」



驚く俺達を余所に、黒い玉は俺の前で宙に留まると……直後にその玉の周囲にある土が浮き上がり、黒い玉へ吸い寄せられるように集まっていった。



ズズズズズ……ズシッ



程なくして、土が吸い上げられるような現象が収まったとき……そこには土で出来た、俺と似た背格好のが顕現していた。

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