『お金がすべて!』or『お金が全てじゃない!』電子世界で美男美女ARキャラに助けられながら、株式トレードして人類を救って、ついでに投資のスキルまで学べちゃう!
紅蒼-白
第1話 序章
「さあ、選べ!買い(ロング)か、売り(ショート)か!!」
恐ろしい姿をした電子の巨獣が放つその言葉には、単なる選択以上の意味があるのだと寄成(よりなり)は直感的に感じた。その声は周囲の空間を震わせる圧力を持ち、言葉の一つ一つが胸を刺すように響いた。
巨獣の姿は圧倒的だった。無数の電子回路が絡み合う
巨大な四肢は地面に深い亀裂を生じさせ、動くたびに重低音が響き渡る。頭部は異様に肥大し、その表面には細かい光点が点在していた。それらはまるで無数の瞳のように輝き、どこにいても監視されている錯覚を覚えさせる。不気味な圧迫感が全身を包み込み、逃げ場のない視線を突きつけてきた。
空間全体がその存在感に制圧されている。
寄成の視界には巨獣の瞳が映る。その目は冷たく鋭く、無数のデータが流れ込み、まるで電子が渦巻いているようだ。その眼差しに捕らえられるだけで、彼は身動きが取れなくなり、全身が硬直する。
「答えよ。」
その声が再び響く。寄成の思考は混乱し、どう答えればいいのか全く分からない。何を選べば正しいのか、何が間違いなのか、全てが霧の中に包まれているようだった。それでも、答えなければ命を奪われるのではないかという恐怖が、彼をじわじわと追い詰めていく。
「選べって言ったって…」
途方に暮れて辺りを見回す。その先に並ぶ電子的な光を放つビル群は、ついさっきまでいたはずの街並みを否応なく思い出させた。
__________
一羽のカラスが東京・兜町の上に重く広がる灰色の空を切り裂いて飛び去っていく。
明け方の東京・兜町は、まだ静けさに包まれていた。昼間の喧騒が嘘のように収まり、冷たいビル風が狭い路地を吹き抜けていく。金融の中心地に建ち並ぶ高層ビル群は、夜明けに向けて無機質な威圧感を放ち、その影が街を覆っている。
そんな中、一人の青年が悲壮感を漂わせながら静かに佇んでいた。
黒髪は整えられており、長過ぎず、無造作でもない。少し艶を帯びたその髪は、朝の薄明りを受けてわずかに輝き、風になびく様子がどこか儚げだ。細身で引き締まった体型がシンプルな服装によって際立っている。
顔立ちは端正で、普段は優しい目つきであろうそれが、今は鋭く研がれ、ある一点を凝視している。
その目元には、思い悩んだような苦渋の表情が浮かんでいる。周囲の冷たい空気が、彼の心の中にある葛藤をより一層際立たせているようだ。無言で立ち尽くすその背中からは、どこか孤独な雰囲気が漂い、彼の存在がこの広い都市の中でひときわ小さく感じられる。
青年はあるビルの前に立ち尽くし、灰色に染まる空を見上げていた。
「どうして…どうしてこんなことになったんだよ…」
父親が投資詐欺に巻き込まれ、自ら命を絶ったという知らせを受けたのは一週間前のことだった。
尊敬していた父──家族のために誰よりも汗を流し、決して人を裏切らないと信じていたその背中が、ある日突然消えてしまった。
__________
・茫然自失の葬儀
葬儀は親戚や知人が次々と訪れ、粛々と進んだ。
「喪主、相場寄成(あいばよりなり)様からのご挨拶を賜ります」
司会の言葉に反応して寄成は形式的に頭を下げ、謝辞を述べたが、その声には魂がこもっていなかった。ただ目の前の祭壇をぼんやりと眺め、父の遺影に映る穏やかな微笑みに自分を責め続けた。
「俺がもっと早く気づいていれば…」
「どうして、何もできなかったんだ…」
弔問客の言葉も、彼の耳には届かなかった。
父の残した借金と、家族に突き付けられた絶望。それらが背負いきれないほどの重圧となり、寄成の胸を押しつぶしていた。
数日後、気付けば、彼は兜町の中心地にある東京証券取引所の前に立っていた。どうやってここに来たのか覚えていない。ただ足が勝手に動き、この場所に導かれたようだった。
「ここが、すべての始まりだったのか…」
証券取引所のガラス張りの建物は、まるで冷たく、無情な壁のように彼を遮っていた。株価の情報が流れる電光掲示板が無機質に明滅している。
涙がじわりと湧き上がり、彼の視界を曇らせた。
「父さん…」
胸の奥から湧き上がる感情が押さえきれなくなり、寄成はついにその場に崩れ落ちた。
「確かに、父さんが騙されたのは自業自得だ。けど…こんな世界、間違ってる!」
拳を握りしめ、彼は叫んだ。
「騙した詐欺集団も悪い!でも一番悪いのは、お金そのものだ!!お金なんて…お金なんてこの世からなくなってしまええええええっ!!!!」
その言葉が兜町の夜に響いた瞬間、寄成を包む空気が変わっていく…
__________
周囲の街灯が一斉に明滅し、空気が静かに振動を始めた。寄成の体を奇妙な光が包み込む。
「な、なんだ…?」
数字、棒グラフ、プログラムコードが輝く粒子となって舞い降りる。無数の折れ線グラフが空中に描かれ、彼を中心に旋回し始めた。光の洪水が視界を埋め尽くし、寄成の意識は深い闇へと引き込まれていった。
「な、なんだこれ…!? う、うわーっ!!」
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