次の転生先は未来の日本!?

赤城ハル

第1話

 死んで異世界転生。

 なら、その異世界で亡くなったら、どこに逝くのか?

 異世界には魔法があり、ドラゴンや魔王がいた。

 なら、天国もあるだろう。

 徳のある神官や巫女は神の声が聞こえるという。

 けれど、異世界で亡くなった俺は元の世界に転生した。

 俺が亡くなってから80年後の元世界。

 元世界の日本は戦争真っ只中でやばかった。

 赤ん坊からのスタートとなった俺はそんな日本でなんとか生き延びた。

 周りは「間引きされずに良かったね」とか「敵兵に手榴弾括り付けられなくて良かったね」とか言う。

 けれど、この日本で生き延びるのは大変だった。いっそ楽に死んだ方がましだというくらい。

 もう一回死んだら、また異世界転生?


  ◯


「少年! どこに行くんだい!」

 通り過ぎた大型トラックが停まり、運転席の窓から短髪の女性が頭を出して大声で尋ねてきた。

「◯◯です」

 そこはかつて前々世の俺が暮らしていた地。

「……やめな。あそこは敵軍がうろついていやがる」

「でも行きたいんです」

 敵軍がうろついている中を走る気はないだろう。このまま走り去るだろうと考えていたら、ドアを開けて運転席から作業着を着た女性が降りてきた。

 歳は30代前半くらいだろう。

 体つきはしっかりしていて、体の動かし方から察するに並の男性なら倒せるほど。

「やめなって言ってるだろ」

 女性は凄んで言い放ちます。

「どうしても行きたいんです」

「なぜだい?」

「家族がそこにいるかもしれないんです」

 間違いではない。

 が、ただし前々世の家族。

「いない、いない。市民は皆、避難したよ」

「残っているかもしれません」

 女性は息を吐き、

「もしくは拉致されているかもな」

「それでも確かめたいんです」

「やめなと言ってるだろ」

 俺は女性を無視して歩き出す。

「おい、待ちなって」

 後ろから声をかけられてもそれを無視して俺は歩く。

 女性が駆け足で俺を越える。そして俺の前に立ち止まり、

「あー、もう! わかったよ。近くまでなら乗せてやるよ」

「どこに行くんですか?」

「向こうの山を越えたとこに駐屯地があって、そこに物資を運ぶのさ。そこまでなら運んでやるよ」

「……いいんですか?」

「ああ」

「では、お言葉に甘えて」


  ◯


「私は茨城いばらぎ七瀬」

 助手席に座ると運転席に座った女性が名乗ってきた。

「いばらですか?」

「なんだい? 珍しいかい?」

「いえ、自分は松岡昌也です」

「高校生?」

「ええ。こんなご時世ではなければ高2です」

「どこから来た?」

「初めにいたのは神奈川です。そこから群馬で、次が栃木です」

「……歩いて?」

 女性はチラリと俺の体を見る。

「基本は」

「そりゃあ、リュック一つでここまでとは大変だったな」

「まあ、それなりに」

「茨城さんはどうしてこの仕事を? 危険では?」

「流れ……でね」

「前からトラックの運転手を?」

「ええ」

「物資と言ってましたが、何を積んでいるんです?」

「さあ? 軍から軍に渡す物ってことくらいしか。危険だから覗こうとはしないこと」

「はい」


  ◯


 山を一つ越えるだけ。それでも乗り捨てられた車や陥没した道路などでまともな道は少なく、かなり大回りして夜に越えることができた。

「今日はここでキャンプにしましょう」

 谷間にあるすさびれたファミレスの駐車場に大型トラックを停めて、俺と茨城さんは外に出た。

 長いこと座っていたため、腰と背が痛い。

「よーく伸びをしな。特に脚。血流をよくしないとエコノミークラス症候群になるよ」

「はい」

 軽く筋肉をほぐした頃に茨城さんから、「ちょっと手伝ってくれ」と頼まれた。

「何ですか?」

「ファミレスの四方にポールを立ててくれ」

 人の背丈ほどのポールを四つ渡される。

「これは?」

「ここにカメラがあるだろ? 270度カメラで人を感知したら私のスマホに通知がくるようになってるのさ」

「わかりました。でも、トラックは大丈夫なんですか?」

「これは特殊でね。私以外が無理に開けると爆発するようになってるのさ」


  ◯


 ファミレスの四隅にポールを立て終わると茨城さんから飯にしようと誘われた。

 ファミレス内は多少の汚れはあるが、それ以外は普通。

「ほれ、少年」

 カップ麺を投げ渡された。

「ありがとうございます」

「気にするな」

 カップ麺にお湯を入れて3分待つ。

「キムチ味なんですか?」

「嫌か?」

「いえ」

 3分が経ち、蓋を開けて俺と茨城さんはキムチラーメンを食べる。

「辛っ、これは水がいりますね」

 俺は水筒から水を出して飲む。

「これで辛いと言うなよ少年」

 茨城さんは平然としながら、キムチラーメンを食べる。

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