第伍話 使者カラノ啓示ノ巻

森の夜、焚き火の暖かい光が揺れる中、エリオスたちは疲れを癒すため休息を取っていた。静寂を包む星明かりが、木々の間からこぼれ落ちている。




「今日はよく歩いたな……明日はこの森を抜けられるかもしれない」




エリオスが火を見つめながら呟く。しゅうは彼の足元で丸くなって眠り、コトネもその姿を見ながら笑顔を浮かべていた。




「しゅうも疲れてるね。でも、エリオスのそばで安心してるんだろうな」




「そうだな。いつも俺たちを守ってくれてるからな。……お前も今日はよく頑張ったよ」




コトネは少し照れながら微笑んだ。




「ありがと。でも……私ももっと強くならないとね。エリオスみたいに戦えなくても、せめて支えになりたいから」




彼女はそう言いながら、自分の手をじっと見つめる。その掌が一瞬だけ淡く光るのに気づき、思わず驚いた表情を浮かべた。




「……なんだろう、この感覚」




エリオスはその光に気づき、問いかける。




「何か感じるのか?」




「うん……時々こうして光るんだ。でも、どう使えばいいのか全然分からないの」




「コトネ、それってお前の力なんじゃないか?ちゃんと制御できれば、きっと役に立つ」




エリオスの言葉にコトネはうなずきながらも、まだどこか不安げな様子を見せていた。




そんな会話の最中、しゅうの体が突然淡い光に包まれ始めた。




「……な、なんだ!?」




エリオスが声を上げる。光が徐々に強くなり、しゅうの体が変化していく。




白い毛並みが薄れていき、代わりに人の肌が現れ、体の輪郭が明確に変わっていく。光が収まると、そこには一人の少女が立っていた。




「……えっ、しゅう……なの?」




コトネが呆然と呟く。エリオスも驚いた表情を浮かべたまま立ち尽くしている。




少女は柔らかなダークブラウンの髪を肩まで垂らし、金色の瞳で優しく微笑んでいた。その姿は神秘的で、どこか懐かしさを感じさせるものだった。




「……うん、私だよ。エリオス、コトネ。ずっと一緒にいた“しゅう”」




しゅうは焚き火のそばに腰を下ろし、静かに語り始めた。




「本当の私は神の使者。エリオスに大切な使命を伝えるために、この世界に遣わされたの」




「使命って……なんだ?」




エリオスが慎重に問いかけると、しゅうは真剣な表情で彼を見つめた。




「この世界には、滅びが近づいている。その“真の滅び”を防ぐためには、滅びの力を持つあなたが必要なの。そして、コトネ……あなたの中にある光も大きな鍵になる」




「私の光……?」




コトネが戸惑いながら呟くと、しゅうは優しく微笑んだ。




「そうだよ。あなたの光は、エリオスの滅びの力を支えるためのもの。二人が力を合わせれば、この世界を救うことができる」




「滅びを救う力に……か」




エリオスは右手の紋章を見つめながら考え込む。その表情には迷いと覚悟が混ざり合っていた。




ふと、エリオスはしゅうの服装に気づき、慌てたように目をそらした。




「えっと……その……お前、その格好はどうにかならないのか?」




しゅうは自分の薄い衣に目をやり、少し頬を赤らめた。




「あ……ごめんね。これしか着てなくて……」




エリオスは自分の外套を脱ぎ、しゅうに差し出した。




「これを着ろ。寒いだろうし、そっちの方が落ち着くだろ」




「ありがとう、エリオス!」




しゅうは外套を羽織り、その柔らかい布地に顔を埋めるようにした。その仕草にエリオスは少しだけ照れくさそうに目をそらす。




コトネはそのやり取りを見て、微笑ましいような、少し複雑そうな表情を浮かべた。




しゅうは真剣な表情で二人に向き直る。




「私はもう犬の姿に戻ることはない。このまま人間として、あなたたちと一緒に旅を続けたい」




「……本当にそれでいいのか?」




エリオスが問いかけると、しゅうはしっかりと頷いた。




「うん。神様にお願いしたの。“エリオスとコトネの力になりたい”って。そしたら……こうして人間のままでいられるようになったの」




「そっか……じゃあこれからも頼むよ、しゅう」




エリオスが優しく微笑むと、しゅうは嬉しそうに頷いた。




「もちろん!私、エリオスとコトネのために頑張るよ!」




コトネもその言葉に微笑み、手を差し出した。




「じゃあ、これからは三人で頑張ろうね」




しゅうがその手を握り返し、三人の絆が深まる。焚き火の光がその姿を優しく包み込み、森の夜が静かに更けていくのだった――。

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Kotone~最恐の精霊を手に入れたが使い方が下手すぎる~ ふらい @hurairu

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