第11話 あたたかいね

「……はぁ」

 小さくため息をついたサルサに対してウィルは彼の顔を覗き込んだ。

「…………どうかいたしましたか?」

「え、あ、その……」

 サルサは若干目を泳がせながら言った。

「………………寒いなぁ……と」

「……寒い、ですか」

 外の気温は二十度近く。とてもじゃないが寒いという気温では無い。しかし、なんとなく寒気がするのは確かであり、事実、今日はサルサの隣の隣の部屋である第十二会議室にて、氷系の『魔法のようなもの』の開発会議みたいなことをしていた。その冷気が周辺の部屋にまで届いてしまってたのである。

「…………そうですかね……?」

 しかし、ウィルは全く気づかなかった。氷系の『魔法のようなもの』の冷気は基本的にそこまで強くなく、またその会議はわりとしょっちゅうやっていることから、完全に慣れてしまっていたのだ。

「…………ウィルさんは寒くないんですか……。すごいですね…………」

 カタカタと小さく震えながらへにゃっとした笑顔を見せたサルサの顔を見つめたウィルは小さくため息をついてから立ち上がった。

「少々お待ちください。それから……少しだけ洗面所を借ります」

「…………? はい、どうぞ…………」

 首を傾げ困惑した様子のサルサに対して一礼をしてから洗面所に消えていったウィルはしばらくして赤いコップを二つ持って帰ってきた。

「あれ、それって……」

 洗面所にあるうがいの時に使っているコップと酷似していたことから困惑した声を上げたが、ウィルはテーブルの上に置きながら小さく微笑んだ。

「ご心配なく。使っていたものではなく増やしたものです」

「ああ……!」

「中に入ってるのは暖かいミルクティーです。水をお湯に変えたものに粉末を混ぜました。つまり…………あ、貴方にはまだできません」

「まだ……?」

「いずれできるようになります。我々が使っているのは魔法ではなく『魔法のようなもの』なので」

 ウィルは小さく微笑んでコップに口をつける。

「ありがとうございます……」

 サルサも小さく呟いてからミルクティーをすすった。

 暖かい湯気が上がっているミルクティーは、すごい熱いわけでもぬるいわけでもなく、ちょうどいい温度をしていた。

「あったかいですね」

 サルサはそう呟いた。

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いずれその身もそこに染まる シオン @saki_hikage

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