最終話 告白

 しばらく無言で広瀬さんと歩いて公園からだいぶ離れた頃、広瀬さんに話しかけた。


「あ……早歩きさせちゃいましたけど、腹痛……大丈夫ですか?」


 あの場を穏便に済ませることに気を取られて、広瀬さんの体調に気遣えなかったことを反省してしまう。すると広瀬さんはバツが悪そうに答えた。


「……ごめんなさい。お腹痛いって言ったのは……その場しのぎの嘘でした」

「え? でも、顔色悪かったですよね?」

「実は……前日寝れなかっただけなの。……迷惑かけちゃってごめんなさい」


 広瀬さんは申し訳なさそうに答えた。


「……それだって眠れないほどの理由があったのでしょう? 浮かない顔してたし、いつもならあんなにミスしないですし。……何か、悩みでも?」


 言ってから、心配しすぎてキモイかと心配になった時。


「……じゃあ……聞いても、いいかな。吉沢君はどんなラインをもらったら、嬉しい……かな」


 広瀬さんはもじもじと恥ずかしそうな上目遣いで僕の顔を見つめていた。その表情が可愛くて、ドキッとしてしまう。


 こんなのまるで、僕に送るラインの文面に悩んで眠れなかったみたいじゃないか。けど、こんな都合のいい解釈、僕の独りよがり……だと、今までの僕なら思っていた。けれど。


 ――そろそろ僕だって、広瀬さんは僕の事を好きなんじゃないかと思ってしまう。


 もしもそうだとしたら、広瀬さんにばかり恥ずかしい思いをさせるのは申し訳ない。だったら、僕が恥ずかしい方がいい。だって、広瀬さんは僕の好きな人なのだから。


 そう思って、玉砕覚悟で話しかけた。


「……僕なら、広瀬さんからならどんなラインをもらったって嬉しいですよ」

「……え?」

「……僕も、昨日嘘ついたんです。好きな人はいないって。本人目の前に好きな人いるなんて言うのは、照れくさくて」


 僕の言葉に広瀬さんは目を丸くした。

 けれど広瀬さんが何かを言う前に、僕は続きの言葉を口にした。


「……広瀬愛月さん、好きです。……僕と、付き合ってもらえませんか?」


 すると広瀬さんは、一気に唇を震わせて泣き始めた。


「吉沢君、ずるい。……私の、片思いだと思ってたのに」

「すみません、僕だって、そう思ってたから……叶うはずがない気持ちだって」

「……なんで? 私はずーっと距離縮めようとしてたのに、吉沢君はずーっとちょっと拒否ってたじゃん」

「いや、だって、こんな可愛い人が、僕の事好きだなんて思わないじゃないですか」


 思わず漏らした本音に、広瀬さんはピタッと止まった。


「……可愛い?」

「はい」

「私が?」

「? ……はい。広瀬さんは可愛いと思いますよ?」


 そして、広瀬さんは泣きながら嬉しそうな顔をした。


「……私、他の男の人からの可愛いって言葉は、素直に喜べない時があったけど……吉沢君に言われるのは、すっごく嬉しい!」


 その言葉に、確かに男の下心の詰まった『可愛い』という言葉は、時として気持ち悪さを感じるかもしれないと思ってしまった。


「それは……よかったです」


 だから、僕の言った『可愛い』という言葉を喜んでもらえて少しほっとしてしまうのだけど……


「吉沢君も、……かっこいいよ」


 広瀬さんがボソッと言った言葉は、その時の僕にはとても本音だとは思えなかった。


 そしてそれが広瀬さんの本心からの言葉なのだと知るのは、まだまだ広瀬さんとのお付き合いが続いてからの話になるのだけれど。


 その日の夜遅く。


 僕のスマホに、広瀬さんからのはじめてのラインが届いた。


『ねぇ、吉沢君に初ライン何を送るか、ずーっと悩んでる』


 モテる広瀬さんからの初ラインはそんな文面で。


『僕だって何送ったらいいか分からないですけど、広瀬さんからならなんだって嬉しいですよ』


 それは恋愛初心者の僕と、大して変わらない内容で。


『あ、ほんとだ。吉沢君からなら、どんなラインだって嬉しい♡』



 こうしてその日から、僕達の『お付き合い』は、たどたどしく始まったのだった――。





(完)


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今回は、カクヨム公式さんの『お題で執筆!! 短編創作フェス』第4回目のお題、『帰る』を元に書いた1万文字以下作品となります。


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モテる広瀬さんからのアプローチを、非モテ男子な僕は、なかなか信じられない。 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711

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