第3話

「あなたは、私のお友達、よね?」高木が言った。

 

「私はあなたのことをよく知らないのですが……友達になれたらとは思っています」みちるの本心だった。

 

ずっと友達という存在がいなかったみちるにとってという言葉は、甘い響きに聞こえた。

 

「それでいいわ。そうしたら……みちるはずっと私と一緒にいてくれるのよね?」確かめるような口調で高木が問いかけてきた。

 

「ええ。ずっと一緒にいたいと思うわ」うなづきながら、みちるは答えた。

 

「ありがとう。その言葉を待っていたの。私とあなたは、これから、ずっと一緒よ」

 

高木の顔がみちるにせまってきた。

 

「な……」みちるは本能的にと思った。

 

だが、身体も足も意思に反して一向に動いてくれなかった。


手も握られたままだった。

 

ズズ──。

 

身体が下降していく感覚にみちるは足元を見て驚いた。

 

「あ、足が……なんで?」

 

みちるの足は、ズブズブと地中にのまれていた。

 

「い、や。なんで?どうして?」半ば泣きながらみちるは高木の顔を見た。

 

高木はみちるの手を握ったまま、みちると同じスピードで地面に沈みつつあった。

 

「だめよ。約束したでしょう?私とあなたはこれからずっと一緒よ……同士、ね」

 

******

 

「みちるー?いないの?」

 

真っ暗になった校庭でみちるを探す叔母の声が響いた。

 

「こんな時間になっても帰ってこないなんて……特に友達はいないはずだから、いるなら学校だろうと思って来てみたんだけれど。あ、そういえば」

 

叔母は、昨日自身が教えた七不思議のひとつ、お地蔵様へと歩を進めた。

 

「昨日教えたばっかりだけど、もしかして試してみたのかしら……あっ!」

 

周囲を照らすスマホライトが一体のお地蔵様の姿をとらえた。

 

そして、そのそばには学生カバンがひとつ落ちていた。

 

叔母は近づいてカバンを持ち上げ、中を確かめた。

 

「これは……みちるのカバンだわ。じゃあ、みちるは、やっぱり」

 

叔母はカバンを一旦地面に置き、スマホを操作した。

 

プルルルル……

 

「はい、もしもし」女性の声が聞こえた。

 

「あ、姉さん?私、結衣だけど」叔母は自身の姉──みちるの継母となった麻衣に電話をかけたのだ。

 

「ああ、結衣。電話くれたってことは……」麻衣が意味ありげに言葉を切る。

 

「ええ。うまくいったわ」結衣はにんまりと笑いながら麻衣に告げた。

 

「そう、それはよかったわ。ありがとう。これで厄介払いができたわ」麻衣の声も清々しそうだ。

 

「どういたしまして。それにしてもだったのね」結衣が驚いたような口調で言った。

 

「言ったでしょう?に憑かれていた私が、ことを条件に開放してもらったって」麻衣が答える。

 

「そうだったわね。ねえ、いまさら聞くのもなんだけど、どうして姉さんはに憑かれちゃったの?」結衣が疑問を口にする。

 

「ほんとにいまさらね。……むかし、ついうっかりお地蔵様を転がしてしまったのよ。壊してはいないわよ?ただ友達と遊んでてぶつかっただけ」麻衣がなんでもなさそうに言った。

 

「とり憑かれはしたけれど、私は友達が多かったからは私を連れていくことはできなかったのよね」

 

「ねえ、はいったい何だったの?」結衣は麻衣へさらに疑問をぶつけた。

 

信じていないわけではなかったけれど、本当にそうなるとは確信してなかったからだ。

 

「知らないわ」あっさりと麻衣は答えた。

 

「私もおばあちゃんから言い伝えを聞いていただけだから。『その昔、仲間ハズレを苦に自死した少女がいた。死してなお仲間を欲しがった少女は、目をつけた者に対して魅力的な提案をする。その者が提案を受け入れ、ある言葉を口にすると連れていかれてしまう』という話だったわ」麻衣は厳かとも聞こえる口調でそう言った。

 

「ある言葉って?」結衣は聞かずにはいられなかった。

 

「それは内緒。結衣はまだにいるのでしょう?万一、あなたがその言葉をつぶやいたら、連れていかれかねないわ」麻衣が慌てたように言う。

 

そんなことになったらイヤだものと麻衣はつづけた。

 

「じゃあ、お地蔵様はその少女を供養するためのものなのね」結衣が納得したように言った。

 

「そういうこと。それにしても、連れてってくれてよかったわ。まさか財産目当てでオトした相手がコブつきだなんて思わなかったから。あの子の学校に吹きこんでハブらせて……ずいぶん時間かかっちゃったけど、これであの人の財産は私だけのものね」麻衣が笑いを含んだ声で言った。

 

「姉さんってば……私も協力したの、忘れないでね」結衣がずるそうな声音で言った。

 

「わかってるわよ。そうそう、そのお地蔵様ね、誰かを連れて行くと不思議と新しいものになっちゃうのよ。まるで輪廻ね……憑いてた時、が教えてくれたんだけどね。呪文とか諸々コミで」麻衣が思い出したように言った。

 

「あぁ。だから姉さんは『は苗字はその時々で違うけど、名前は必ず『りんね』よって教えてくれてたのね」結衣はお地蔵様をしげしげとながめながらつぶやいた。

 

「あ、ここにお地蔵様の名前が彫ってあるみたい。ん~暗くってよく見えないなぁ。姉さん、とりあえずそういうことだから。またね」電話を切った結衣はスマホのライトをつけ、お地蔵様の名前が彫ってあるあたりを照らした。

 

(人を連れていきたがるのか……人恋しい寂しがり屋さんかな)

 

ライトが文字を照らす。

 

結衣の目が文字をとらえる。

 

そこにあった文字は──

 

 

人乞ひひとこい地蔵』

 


 


 



 

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いないもの 奈那美 @mike7691

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