第28話 封印の真実
「動きが違う……」
宮廷の地下書庫で、アイリスは呟いた。
前回の暴走事件から数日。結界の異常は一時的に収まったはずだった。しかし、今朝から再び魔力の乱れが広がり始めている。
先日は古い結界に対する、無秩序な干渉の痕跡があった。それ自体が異常なことだったが、今回はさらに深刻だ。
術式に浮かび上がる魔力の流れが、規則的な歪みを見せている。アイリスは手帳に新たな記録を書き加えていく。
「前回とは違う……より組織的な、計画的な……」
魔力探知の術式を重ねるたび、新たな異常が浮かび上がってくる。まるで誰かが結界の構造そのものを解きほぐすかのような動き。
アイリスは額に汗を浮かべながら、術式の展開図を描き続けた。
「……新しい発見がある」
暗がりから、レイヴンの声。その手には、一冊の古い魔術書が握られていた。
アイリスは差し出された本を開く。瞳が見開かれた。
「これは先代の研究記録……!」
ページをめくるごとに、事態の深刻さが明らかになっていく。そこには、宮廷の結界に関する詳細な記述があった。
「……他にも」
レイヴンは複数の資料を取り出す。王立図書館の記録、王宮の建造時の図面、そして魔術省の報告書。
それらを並べていくうちに、アイリスの表情が強張っていく。
「この結界は、単なる防御のためではなかった」
レイヴンが無言で促すのを受けて、アイリスは続ける。
「王都に張り巡らされた結界は、封印としての役割を持っていた。王家に代々伝わる古い魔術。その力があまりに強大すぎたために、先代は結界という形で封じ込めようとしたようね」
アイリスは新たな展開図を描き始める。魔力の流れを示す線が、まるで蜘蛛の巣のように広がっていく。
「複雑な術式の痕跡。これは前回の暴走とは違う」
「……詳しい説明を」
「前回は単なる結界への干渉だったわ。でも今回は、もっと巧妙な手口」
魔力探知の術式が青白い光を放つ。
「この歪みは、私たちが行った安定化の術式そのものを利用している。結界の構造を内側から解きほぐそうとしているのね」
暗い書庫に、緊迫した空気が流れる。
「……犯人は」
「これだけだと、まだ断定はできないわ」
「でも、これほど複雑な術式を理解し、操れる者」アイリスは書架の奥を見つめる。
「王家の文献に自由に触れることができ、なおかつ魔術に関する高度な知識を持つ者」
その時、遠くで鐘の音が響いた。
「リリアにも伝えて。状況は、私たちが考えていた以上に深刻かもしれない」
レイヴンの姿が闇に溶けていく。アイリスは再び魔術書に目を落とす。
術式の展開図に浮かび上がる不吉な予兆。王家に伝わる魔術。先代の封印。そして、前回の暴走事件。全ては繋がっていた。
しかし、その真相は、誰もが予想だにしなかった方向へと向かっていくことになる――。
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