第20話

「俺様系、推せるわー」

「オスみがヤバいー」

「お前ら無敵か」


 何だこいつら強え。


「ねぇつっちーさ、何ならアタシらどっちかと付き合っちゃう?」

「断る」

「秒でフッてるし、ウケるー」

「そうやって浮かれた男を誘い出して、待ち合わせ場所で何時間待つかを女子内で賭けた挙げ句に、クラス内SNSで拡散する気だろう」

「い、いやぁ…やんないって」

「性格悪すぎだし、アタシらただちょっとお試しでって――」

「二人とも楽しそうだねっ」

「ひっ、ひなっち日向!?」

「い、いきなり後ろに立つのやめて!なんで肩に手を置くの!」


 なんで芽衣がここに?


「ね、ウチ司くんは、そういうのダメって言ったよね?何でナンパしてるのかなぁ?」

「あ、いやこれはそのぉ…」

「ち、ちょっとフザケただけでぇ…」

「ねえ、二人は友達だよねぇ?」

「うんうん!ととともだちっしょ!」

「ズッ友だよ!!」

「じゃあ、もう大丈夫かなぁ?」

「だだだ大丈夫!!」

「もうフザケないし!!」

「よかったぁ。じゃあウチ戻るけど、司くん何かあったら言ってね?」

「お、おう」


 …戻ってったな。

 あいつ、時々めっちゃ怖いな。


「ご、ごめんねつっちー」

「ち、ちょっとフザけ過ぎたし…ひなっちこわっ」

「別にいい、普通の男はああ言われて喜ぶもんだろ、俺が異常なのは理解してる」

「へー、何かつっちー思ったより話せるよね?」

「そうだねーもうちょっと嫌われてるとおもってた」

「俺もそう思う」


 もっとイラつくと思ったけど、案外女とも普通に話せるもんだな。

 芽衣とか星沢と話してて慣れたのかも知れない。


「しかし、カラオケって言っても別にみんな歌わないんだな」

「歌ってたら喋れないじゃん」

「そのうち誰か歌うんじゃない?あ、ほら」


 何か陽キャっぽい男子が歌うみたいだ。

 音楽とか聴かないから何の曲なのか全く知らないけどな。


 多分、そこそこ歌声に自信があるんだろうな、ああやって気になるメスの気を引いてアピールするわけか。

 あれが正しい男子高校生なんだろう、俺には関係ないが。


「だからお前らは何で両隣に座ってくるんだ…」

「音デカくて聞こえないっしょ」


 …なるほどな、こういう弊害も有るから誰も歌わなかった訳だ。

 意図せず社会勉強になってるな。



「…仕方ないな、あんまりくっつくなよ、あと触ったら怒る」

「はぁい」

「ひなっちに怒られたくないし」

「そうだな」


 まあ、芽衣も俺の為に気を使ってくれてるのは理解る。


「つっちー家で何してんのー?」

「勉強、たまにテレビみてスマホで時間つぶしたりだな」

「へぇー、頭良いんだ?」

「お前らよりは確実に上だな」

「おー、言うじゃん」

「やば、これマジいいかも…」

「ちょっと琴音ことね大丈夫?」

「ダメかも、でもひなっち怖いし…」

「駄目なら無理せず帰れよ」

「もー大丈夫だってば」

「ここで帰ったらもったいないじゃん」

「まあそうだな」


 割り勘払った後だしな。


「しかしお前ら、俺が言うのも何だけど、よくこんな態度の男と会話してるな」

「まあアタシら分かってるし?」

「そだねー最初だけびっくりだけどねー」

「そういう問題か?」

「なんかね、つっちーって下心無いじゃん?」

「あーわかる!話してていやらしく無いんだよねー!」

「まあ俺は女に興味ないしな」

「そういうクールな所だよね」

「うんうん、同級生の男子みんながっついてる感じじゃん」

「それが普通なんじゃないか?」

「まあモテちゃうのは仕方ないよねーアタシら可愛いし」

「そうだよねー、でもやっぱしつこいとねーうんざりすんの」

「ねー」


 まあ体格的にも女のほうが弱いしな、だから女子は集団で行動するのかもしれない。


「女も大変なんだな」

「ねえー女じゃないんだけどーあたしらの名前」

「悪いが名前知らん」

愛菜あいなとー」

琴音ことねだよー」

「漫才師みたいに息ぴったりだな」

「あははコンビじゃないし!」

「おもしろー!」

「お前ら本当に強いな…」

「ねえねえ、つっちーの連絡先教えてよ」

「グループ招待するからさー」

「嫌だ、断る」

「まだダメかー」

「ガード固いし」


 めげない奴らだな、また芽衣に怒られるぞ。


 そうやって暫く雑談してると時間になった。

 延長はしないが、2次会的な感じで数グループに分かれて遊びにいくらしい。

 当然俺は断ったけどな。

 星沢と芽衣も用事が有るらしい、軽く話したがそれぞれ帰ったみたいだ。


 しかし、女子とは思ったより普通に話せたけど、疲れたなこれは…。

 夕飯の準備どうしよう、いいや一回帰って休もう。

 暫く気力が沸かないなこりゃ。


「着いた…こういう時は二重ロックが面倒に感じるな」


 セキュリティ高い所を希望したのは俺なんだけどな。


「カラオケ行ったせいか…何か自分のじゃない匂いが付いてる気がする、シャワーでも浴びるか――あ?」


 ガチャリ、と玄関が閉まる音に、そっちを振り向く。

 玄関に誰か居た。

 一気にさっと血の気が引く。


「あはっ」

「…な、凪咲…?」


 は?


 何故こいつが此処にいやがる?

 跡をつけられてた?

 此処の玄関はオートロックだ、鍵は勝手にしまるから、俺は一々確認してなかった。

 だが、俺が開けた後から滑り込んでくれば入れる。


「あははっ」


 小柄な体型に、いつもの人懐こい笑顔を浮かべている。


 凪咲の手には、カッターナイフが握られていた。

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