第13話

 面倒事は俺が思ってたよりも早くやって来た。


「ちょっと、佐藤司さとう つかさっていう男子いる?」


 教室の入口に見知らぬ女子に護られて、花城凪咲が来た。

 凪咲も合わせて5人か、取り巻きが案外少ないな。

 星沢が事前に忠告してくれたお陰で、動揺も無いし。


「おーい司、呼んでるぞ」

「そうか、じゃあまた明日」

「ち、ちょっと待ちなさいよ!」


 面倒くせえ、大体誰だよこの女。


「お前みたいな女知らん、俺は帰る」

「はぁ!?こっちは話があるのよ!」

「俺には無い、それじゃ」

「ま、待ちなさいよ!」


 うるせえなぁ、凪咲以外の女子4人がギャーギャー騒ぎ始めた。

 当の本人はその真中で、怯えた被害者面で大人しくしてやがる。

 この女はいつもこうだ、自分じゃ動かないで他人任せだ。


「あんた、花城さんに中学の頃つきまとってたんでしょ!」

「何回も言ってるけどやって無い」

「高校になってまたストーカーしてんでしょ!」

「知らん、俺はその女キライだから近づけんな」

「あやまんなさいよ!!」

「…話聞けよ」


 はぁ…。


 ムカつくなぁ。


 ぶん殴りてえなぁ。


 いっそ、そうして学校辞めた方が楽かもな。

 まあ、やらないけど。

 結局、それをやったら俺が悪い事になるし。


「俺はその女の親から接触禁止って言われてるし、昨日までそいつがこの学校にいるなんて知らなかったんだよ」

「嘘よ!花城さんを追ってこの学校に入学したんでしょ!」

「なんでそうなる、大体お前誰だ?本人に喋らせろ」

「ストーカー男と花城さんを直接話させる訳ないでしょ!」

「じゃあ連れてくんなよ」

「花城さんが来るって言ったんだから!いいからあなたが黙って謝ればいいのよ!」

「…はぁ」


 ダメだ、理性的な会話が出来ない。

 感情だけで口動かしてやがる。

 これだから女は嫌なんだ…。


「面倒くせ…ホントにこの学校辞めちまうか」

「それは、ダメ!」

「は、花城さん?」


 …やっと本人が喋ったか。


「なあ凪咲、お前は何がしたいんだ?」

「…仲直りしたいの」

「それで、俺に謝れと?」

「…うん、そう」

「…いや、本当に、なんでだよ」


 …正直、本当に意味が分からない。


「ほら!花城さんが許してくれるって言ってんだから、あんたは謝ればいいのよ!!」

「やってもいない事を謝る訳無いだろうが…頭おかしいんじゃないのか?」

「はぁ!?もういいわ!この事は先生にきちんと報告して退学にでもしてもらうから――」


 ――ガタン!!!


 凄まじい音が教室に鳴り響いた。


 星沢 瀬令奈ほしざわ せれながイスを蹴り倒した音だ。

 一瞬で辺りが静まり返った。


 トレードマークの長い黒髪を揺らしながら、5人組の前に星沢が立ちふさがる。


「あんたらさぁ、あたしらの教室で、なに調子にのっちゃってるわけ?」

「な、なによ!あなたには関係な――」

「当事者でもねーのに声だけデカくしてんなっつーの!!」

「ひぃ!そ、それは…花城さんが可哀想だから…」

「浅見だっけ?あんたの名前」

「な、なんで知ってるの…?」

「なにビビってんの?ちゃんとあたしの目を見ろよ、ほら浅見、あ?」

「ひっ…」


 何だこいつ星沢、速攻でこの場の主導権を握ったぞ。

 そして相手の女子5人が星沢一人を前に後ずさった、ギャル強すぎる。

 ちょっとカッコイイと思ってしまった。


 そして、もう一人…。


「ねえ、凪咲さん?」

「…え、あ、アナタは…」

「ウチ?芽衣ちゃんだよーよろしくね、っふふ」


 いつの間にか取り巻きの内側に入り込んだ芽衣が、凪咲の後ろから両肩に優しく手を置いていた。

 シュシュで纏めた明るい髪をゆらしつつ、背後からヤツの耳元に仮面の様な笑顔で話しかけてる。


「ねえ、司くんに付き纏われたのって、いつかなぁ?」

「…それは、放課後とか、休み時間とか、毎日…」

「ウチ、司くんの前の席なんだよねー」

「…っ」

「彼ね、休み時間は席から離れないし、放課後は誰より先に帰っちゃうんだよ?知ってた?」

「…うぅっ」

「ウチは知ってたけど?司くんとはよくお話しするからね、だから誰かに付き纏ってる時間なんて無かったんだよ?」

「そ、そんなこと…わたし…だって…」

「なんでそんな、すぐ分かるウソ付いちゃったの?ねえ、なんで?ねえ、教えて欲しいなぁ、ふふふ…」

「ああ、ああ…」


 凪咲の両肩に手を置いたまま、耳元で囁き続ける芽衣。

 …なんだ、凄え怖え。

 この女、星沢よりヤバいんじゃ。


「ちょっと!花城さんをいじめ――」

「お前らは黙ってろっつーの!!!」

「ひっ!」

「花城だっけ、待っててやるから早く言い訳したら?」

「…っ!」


 あ、逃げた。

 あいつ自分だけ逃亡したぞ。


「あーあ、どうしよう司くん、あの子逃げちゃったね」

「あんたらも、あいつ追いかけたら?」

「う、うるさいわね…言われなくても分かってるわよ…」


 おお、みんな引き上げていく。

 トボトボという表現がこれほど似合う事は無いな。


「…あれ、俺何もしてないのに終わったのか?」


 …何だったんだ今のは。


 やっぱ女はヤバイな。

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