ep.120 検閲反対! 自由恋愛を希望しま〜す
かわい子ちゃんたちとの強烈なハグを堪能し、朝から元気百倍だ。
そして、のりのりで食卓の準備をする俺の切れは、いまや最高潮。それはなぜか? 珍しくユタンちゃんが朝食の希望を出してくれたからだ。
それも、なな、なんと! 親子丼が食べたいと。ふふ、なにを隠そう、俺が作ったやつをだ。そう、俺の!!
デントンさんの料理からすると、一段も二段も、散弾銃で打ち砕かれた気分になるほど落ちる俺の料理をわざわざ食べたがるとは思いも寄らなかった……。
思わず、ほろりとさせられちゃいました。もう、かわいいったらありゃしない。ぎゅーっと、しちゃうぞ!
ちっちゃすぎて、ちょっと難易度高いけど、がんばって、繊細に優しく、ぎゅーっとね。
ユタンちゃんのお腹もぎゅーっと鳴ってきたところで、ご飯にしよう。すぐできるので。なにせフリーズドライだから。
「ささ、簡単な料理ですけど、皆様、お召し上がりください」
「本当に簡単にできるのですね。これなら私にもできそうです」
「あのねぇ、勘違いしちゃダメよ、違うからね。ここまで作っておくのが大変なの。このお湯を注ぐのは単なる仕上げに過ぎないのよ。ちゃんと感謝して食べなさい」
「へえ、そうだったんですね。了解しました」
あ、あのスプライトが食育してる……なんか嬉しくて涙出てきた。やべえ、涙が……涙が止まらねえ。
「な、なに泣いてんのよ!?」
「いや、なんでもない。ただの親心だと思うから……」
「またぁ、わけのわからないことを」
「ささ、いいから食べて」
「言われなくても食べるわよ。でもほんと、久しぶりね。うん、ユタンが食べたくなる気持ちもわかるわ。あたしだって食べたかったもの……って、なんで号泣!? どうしたのよ? いったい……。おかしいよ」
「いたい」
「ううん。大丈夫。別にどこも痛いわけじゃないから、ただただ嬉しいだけだから。うん、今日は人生最良の日かもしれない」
「そ、そんなにですかぁあ? 私が加わったのが、そんなにも!」
「ああ、そういや、そうでした。それもありましたね」
「えぇーーっ、それじゃまるっきり、私はついでみたいじゃないですかぁ〜。酷いですよぉぅ」
「当たり前でしょ! あたしたちとあんたじゃ、積み重ねてきたものが違うんだから。ねっ、ユタン」
「あたまえ」
「いやいや、そんなわけ……。【エルフの郷】を出発してから、まだほんのちょっとしか時間なんて経ってないじゃないですかぁ〜」
「そりゃ、私たち妖精としてはね。でも、この人にとってはどうかしらね。それに、ここまで凄く濃密だったわよ」
「……むむぅ、この短期間で、そんなにも……あっ、でもそれなら、これからのがんばり次第でいくらでも取り戻せるということじゃないですかぁ〜」
「まあ、そういうことになるわね。でも、こっちだって負けないから!」
「こちらこそです。いつか……きっと!」
「なんだかバトル編に突入しそうな感じで、背後がメラメラしてるけど……飯時だからね。集中して食べるように」
「「はーい」」
ふふ、園児みたいだな。なんだか食事のときだけは、ほのぼのとする。おっ、ユタンちゃんは黙々と食べてくれてるな。よしよし。
「いやあ、ほんと美味しいです。料理って、こんなにも感覚を満たしてくれるものだったんですね。知りませんでした」
「でしょ。この人の料理はなかなかなのよ。あなたはとても幸せな環境にいるのを忘れないでね。この前、一緒に旅をした人たちだって、相当驚いてたもの」
「そうなんですね。ふふふ、やはりタカシさんを選んで正解でした。ふふん、私にも見る目がありましたかぁ。やったぞ、私」
なんかさっきからスプライトが俺を誉めてくれている……うん、俺って、誉められて伸びるタイプだからね。いや、増長しやすいとも言うか。つうか、また俺を泣かす気か!?
はあ〜、でも、久しぶりに食べる和食、確かに口に合う。うん、懐かしい味だ。
まあ、自分の口に合うよう散々調節した料理だからな。当たり前っちゃ当たり前なんだけど……でも、なんだか今日は……殊更、おいしく感じる。
あぁ、こうして一緒に食べてくれるみんなのお陰か。ふふふ。
「ところで、そのぅ、聖樹様……」
「タカシさん、四人のときにはファトゥムで、とお約束したはずです。さん付けでも、ちゃん付けでも、そこはかまいませんので。あ、ファムの方が音の響きがいいですね。では、これからは是非、ファムちゃんで!」
俺の言葉を遮るように、なんか聖樹様がカットインしてきた!
確かに、「ファトゥムさん」というのはちょっと呼びにくいか。俺もあんまり滑舌がいい方じゃないからね。
ただ、聖樹様をちゃん付けで呼ぶなんて……あれ!? この中学生か、女子高生くらいの見た目なら、むしろ、自然か。なんか呼びやすいかも。
「で、話は戻りますが、聖……はいはい、わかりました。ところで、ファムちゃんのその服の話なんだけど。ちょっと目のやり場に困るんで」
『きゃーっ! やったぁ。ファムちゃんだって。やったあ。やりましたよ、私』
ははは、聖樹様も、なにげに念話、苦手なんじゃね? 思念丸々漏れてきてるよ。
いや、そんなにはしゃぐと……ほらっ、着てる服の胸元が……ああ、だから、はち切れそうなんだって。元々が胸がパツパツなんだから。そりゃあ、気になりますっての。
スプライトの服を借りたみたいだけど……きつきつ。いや、スプライトの名誉のために主張するが、別に彼女の胸が小さいってわけじゃない、決してない! 聖樹様のが殊更大きいの。
スプライトのだって、凄いから。俺の理想を具現化した大変なものをお持ちであらさらら……あらされられ……まあ、とにかくだ、良いものをお持ちなんだよ。
でもね、俺としては、だめなんすわ。なにがって? 端っこの方がちらりと顔を覗かせているのが……それ好き、超好き……いやいや、反則でしょう!
狡いんですわ。見ないなんて無理っしょ? そんな選択肢はないの。こうなると、好みのサイズとか形とか関係ないんすわぁ。
ちっちゃかろうが、大きかろうが、チラリズムの前には人類平等。皆兄弟。乳兄弟。だいぶ意味は違っちゃったけど、言いたいことはわかるだろう?
この瞬間だけは男たちは皆等しく、仲良く握手できる。そして、世界に平和が訪れる。
いやまあ、次の瞬間から泥沼の争奪戦に切り替わるのは必至なんだけどね。
いや、そうじゃない。なにが言いたいかと言うとだな。俺の目がファムちゃんの胸元に釘付けになると、結果として、スプライトに八つ裂きにされる未来しか想像できないってことだ。だから、その服、なんとかして! ほんと勘弁してね。
食事が済んだら、胸元へ大幅にマチを入れてもらわなきゃ。あとでユタンちゃんに服のお直し、お願いしよう。
「スプライト、悪いな。お気に入りの服だったのに」
「いいわよ、別に。この服が一番大きかったからね。服を気に入ってたというより……ううん、なんでもない」
それ、よく着てたもんな。笑顔にもなってたし……やっぱお気に入りだ。
「お詫び、いや、そのお礼として、次の街に着いたら、スプライトが気に入る服、なんでも買ってあげるから。一緒に服屋を回ろうな」
「ほんと!? うん、なら、いいよ。むしろ、そっちの方が断然いい!」
「狡いですよぅ。スプライトさんばっかり……」
「いやいや、聖……いえ、ファムちゃんの服も、ちゃんと買う予定ですから。着替えとかも必要ですしね。そこは当然きちんと買い揃えますから、ご安心を」
「そうよ。今のは買い物デートの約束をしてくれただけだからね、安心なさい。ふふん」
「なっ!? そういうことだったんですか? そっちの方が断然いいじゃないですかぁ」
「しょうがないじゃない。この人があたしのために初めて買ってくれた、愛がぎゅうぎゅうに詰まったその服を、あなたに提供したことに対するこの人なりの感謝の気持ちなんだから。受け取らない方が失礼に当たるじゃない」
「ほほぉう、感謝の気持ちでは仕方ないですね」
「そうよ」
「では、タカシさん! 私とは普通にデートしてください」
「なっ!? あなたはまだ何もしていないじゃない! ご褒美を要求するだなんて、いくらなんでも筋が通らないでしょ」
「えっ? 違いますよ。何もできないからこそ、デートで、その……お返しを……感謝の気持ちで……しようかと。てへへ」
「あんた! なにしでかそうとしてるの!?」
「いえ、別に。以前、読んだ恋愛小説のとおりにしようかと……」
「ちょっと待ちなさい。それって、まさか世界樹の記憶の保管庫のやつじゃないでしょうね?」
「そうですけど……?」
「『そうですけど』って!? あなた……後でその内容を教えなさい。適正かどうかはあたしがチェックします」
「えぇーーっ、検閲反対! 自由恋愛を希望しま〜す」
「却下」
「ふぇーん、横暴だ、横暴……暴君がここにも居ました」
スプライト管理官の検閲入りますぅっ!
聖樹様のことはスプライトに任せておけば、大丈夫そうだな。面倒見いいとこあるから。
「それにしても、あんたの胸、凄いわね。ちょっと触ってもいい?」
「なにするんですか? いきなり!? 返事を聞く前に触るどころか、揉むって……どういうことですか? 横暴ですよぅ」
「あっ、ごめんなさいね、つい……だって、なかなかお目に掛かれない状況だと思って。そらっ、あなたも自分で触れてごらんなさい、面白いから」
「なんですか!? 人の身体を面白いだなんて! 失礼にもほどが……おっ、面白〜いっ!! なにこれぇ? へんなのぉう。あはは、かわいぃ。ぷるんぷるんしてる。どうなってるんですか? これ」
お、俺にも見せて見せてぇーっ! って、だめっすよね?
「ほらっ、あんたもそばに来て、触ってごらんなさい」
「えぇぇーっ、いいのぉう? はい、今すぐ……あっ、ファムちゃんの承諾は?」
「えへへ、いいですよぅ。これ、ほんとに面白いですから。是非さわってみてください。ほらっほらっ」
うわっ、なんだ!? 水か! いや、スライムだ。えっ!? どうなってんの?
「ファトゥムが水の眷属だから……かしらね? おそらく、まだ完全には受肉していないせいなんじゃないかな。この状態もしばらくしたら治まるとは思うけど」
「水の眷属って、聖樹様がって、こと?」
「ええ、そうなんですよ、タカシさん。それに私を呼ぶときはファムで。えっと……なんでしたっけ? ああ、そうそう、世界樹に宿るエルフの一族には二種類あるんです。一つが私や先任様方が属する【ハマドリュアデス】。もう一つが【ドリュアデス】です。どちらも木に宿る水属性の妖精でして、だからこそ、木の中を自由に動き回れるのですよ」
ああ、なるほど! 根の中に浸透していったように見えたのって、そういうことね。
「私たちハマドリュアデスは宿った木と共に生き、共に逝きます。でも、ドリュアデスの方は植物であれば、どんな木や草にでも乗り移ることができるのです。それが一番の違いですね。だから一般的にはドリュアデスの方が長生きできると言われてますけど」
「そうか! 世界樹は、特別と」
「ええ、そうなのです。世界樹は滅多に朽ち果てることがないので。我々ハマドリュアデスの方が先に寿命が尽きちゃいます。世界樹って、元々は普通のトネリコの木のはずなのですけどね」
途方もない長命なエルフより更に長生きってことかよ。すっげぇ、さすがは世界樹。
「あれっ!? 滅多に朽ち果てないって……じゃあ、過去に朽ちたこともあるんですね?」
「ええ、過去に一度。もう一本あった世界樹が失われたそうです。まあ、私どころか、先々任様がお生まれになる前の話のようですけど」
『そうなのよ。その世界樹が朽ちたときに凄まじい爆音が響いたと伝えられてるの。ハマドリュアデスの絶叫と呼ばれて、畏れられてるわ。あんたも絶対にファトゥムを泣かしたりするんじゃないわよ。死ぬから、まじで』
内緒話のつもりなのか、スプライトがわざわざ魔法線で話しかけてきた。
『まじで?』
『まじなのよ、これが。ハマドリュアデスが宿る普通の木ですら、人族が不用意に斧を打ち込んだせいで、人はもちろん、森の動物や他の妖精なんかも、みんなまとめて気絶してたりするもの。それが世界樹のハマドリュアデスとならば……ね』
なんか妙に腑に落ちた。聖樹様の声には、確かに魅惑的な感じだけでなく、なにか神秘的な力のようなものをずっと感じてたから……。
あはは、でも、泣き声が超音波ってのは、まじガキんちょのイメージなんですけど。
「むぅ」
あっ、拗ねちゃわないでね、ファムちゃん。いい子だから、よしよし。泣かないで。
「泣きます!」
「こらこら」
「もう、言ってるそばから……今のはあんたが悪い!」
「すいやせん!」
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