ep.101 見てるこっちが冷や冷やするよ

 とりあえず、模擬戦は終了したものの、魔防士の訓練としては、得るものが少なかったように思う。


 こちらの前衛がユタンちゃんということもあって、的が小さすぎたのが一番の問題だ。なにしろ、魔物ってのはどれも、どでかいわけで。


 いや、もしかすると、小さな虫なんかが魔物化した場合の訓練にはなったかもしれんけど……う〜ん、そこんとこ、どうなんだろ?


 ただ、今回の目的である魔術師の訓練という点で言えば、それでもスプライトが意図を汲んで立ち回ってくれたお陰もあって、そこそこ有効だったか。


 アルメントが「魔物は詠唱の邪魔なんてしてこないっ!」なんて駄々こねて騒いでいたが、レクサンドリちゃんとクライネさんに「それは三位階の魔物だけだよ!」と、きつ〜く諭されていた。


 どうやら二位階の魔物は、魔術師のような防御に難のある者を真っ先に標的にしてくるらしい。それに相手は魔物。魔法だって詠唱なしで放ってくるからな。魔術師の詠唱を遠隔から邪魔をしつつ、前衛の隙を突いて突っ込んでくることもあったそうだよ。


 ここまで言われると、アルメントもさすがに大人しくなった。いやほんと、俺もいい勉強になったよ。ありがとさん。


「安心をし。ここらじゃ、二位階の魔物相手に初級が駆り出されることはないから」


 クライネさんのこのコメントで、アルメントの表情が安堵に変わったものの、今度はフーベルちゃんが顔面蒼白になっちまった。


 う〜ん、確かに、この二人をなんとかせんと危険だよな。レクサンドリちゃんの懸念もわかる気がする。


 もう少し対魔物に即した模擬戦闘をやらしてあげたいところだ。


 ふふふ、となると、ここはやはり、俺の出番か? かつて勇者アリエルに魔王と勘違いされ攻撃されたが、ものともしなかったこの俺の力が!


 いや、よくよく思い出してみたら……あんときは、ただただ、ぼろくそにやられて、ひぃひぃ悲鳴上げてただけだ。それこそ、討伐の憂き目にあってただけじゃん!


 でも、うん、そこは、ほれっ、あれだ。今までの旅で俺も少しは成長しているはずだからね。魔法を駆使すれば、なんとかなるはず。


 やはり魔物を想定した訓練となると、対戦相手が大型でないのは、どうにもな。


 とはいえ、俺の見た目は、ほそマッチョ。身長も平均より少し高い程度でしかない。仮想魔物としては、如何せん物足りない。


 まあ、どんなにごつい野郎でも、人では魔物の代わりなんて土台務まるわけがない。


 そこでだ。土魔法で、ゴーレムみたいな物を造って、動かしてみるのはどうだろう? ……う〜ん、でも、なんか緩慢な動きにしかならない気もするなぁ。


「やる」


「えっ!? なにを?」


「うごかす」


 う〜ん、でも、ユタンちゃんが攻撃対象になるのは嫌だなぁ。ゴーレムの中に入っていたとしても、剣とかで斬りつけられれば、切り裂かれることだってあり得るわけだし。


 でも、機動性のことを考慮すると、ユタンちゃんの脚力を利用するのもありか。


 おっ、そうか! いい手があった。ユタンちゃんには今までどおり、球体を転がす感じでゴーレムの脚代わりになってもらおう。そこを攻撃されないような保護構造にしてやればいい。


 攻撃は全て、頑丈な胴体で受け止める設計にする。ユタンちゃんが乗り込む球体部分に攻撃が当たらないように、フェンダー部分も戦車のキャタピラをガードするようなサイドスカート構造にすればいい。


 その上で、磁力のN極とS極の反発を利用して、リニアモーターカーのように胴体を宙に浮かせる仕様にしよう──駆動部となる球体の上に、胴体のフェンダー部分を被せ、それぞれを相反する磁性体にして。


 ただ、俺とユタンちゃんの二人で動かすとなると、さすがにスプライトが拗ねるのは必至か。なにかスプライトにも役割を振ってやらないと……。どないしよ?


 ああ、腕でも取り付けて動かしてもらうか──昔のおもちゃみたいに、圧縮空気で関節付きの腕を伸縮可動させる構造にすればいい。風妖精さんに管理してもらうのに丁度いい。


 魔物の狡くて嫌らしい部分は、俺が担当だ。俺はどちらかといえば、抜けが多いから、そういう意味では、馬鹿で単純だけどな。まあ、えっちという意味合いでのイヤらしさならある。あはは、ここではなんの役にも立たんな。


 それはともかくだ。安全のため、できるだけ頑丈になるよう、ゴーレムの駆体は単純構造にしないとな。


 となると、模擬演習としての魔物に対するダメージ判定をどうするかだが……。そうだ! 想定した魔物の部位に応じて、魔物の肉体強度相当の金属バルーンでも取り付けてやるか。それを攻撃させて、その結果で判定すればいい。


 よしっ、大体のイメージは固まった。そりゃ!


 腕の部分が少しだけ複雑なだけで大したことはない。パーツ作製は、このとおり一瞬で終了だ。


 まあ、パーツと言っても、元々が胴体部分と球体に分かれているだけだから、後はユタンちゃんが球体に乗り込んだ後、胴体をその上に載せてやるだけ。


 ふふふ、模擬戦専用、疑似魔物ゴーレムの完成だ。


 さあ、みんなの反応は?


「す、すっげぇーっ、かっくいーーっ! なになに!? あれって、なに? 欲しい、すんっごく欲し〜い」


「「「「「……!?」」」」」


 あれっ、子どもにしかウケてない!? まあ、女の子にはワカランか。つうか、こんなのが子どもウケすんの?


 こんな見た目、再生兵器のザクタ▽ク並に、だっさいフォルムだってぇのに……意外だ。


 ううむぅ、腕の可動部に惹かれたのか? もっとカッコいいの作ってやればよかったか……。いやいや、まずは訓練だがや。


「ほんじゃま、次はこいつと模擬戦やってみようか? これくらいの大型機体となら、魔物との模擬戦としては十分だろ。戦いの中での問題点なんかも見えてくるんでねえの?」


「こ、これと戦うんですか? そもそも、これって動くんですか?」


「ああ、たぶんな。そこそこイケると思うぞ。一応、先に説明しとくな。胴体にいくつか取り付けてある、この小さめの球体を攻撃して潰せたら、有効打として認定する感じで考えてるんだけど、どうだろ?」


「「「「「なんか面白そうっ!」」」」」


 おっ、みんな乗ってきた。


 ありゃ、フーベルちゃんだけは、まだ乗り気じゃないのね。まあ、でかいからな。正体がわからないと、怖がるのは当然かも。


「フーベルちゃん、怖くないから、痛くしないから。おじさんにその辺のところは、まるっと全部任せとけば、大丈夫だからね。悪いようにはしないから」


「……」


 うん、今の言い方は非常に胡散臭かったね。認めます。


「大丈夫よ。これは魔物じゃないから。あたしたちが中に入って動かすみたいなの。だから、当然、手加減だってしてあげられるわ。荒れ狂う魔物と戦うのと、どっちが怖いと感じるかしら?」


「……わ、わかりました……がんばって……みます」


「「「「「よっしゃーっ!」」」」」


「そうと決まれば、早速やろうよ。僕、あっちに乗りたい、乗りたーい!」


 駄目でーす。乗せません。小僧を乗せるスペースは、これっぽっちもありませーん! これは伊藤家専用モビルアーマーで〜す。


 名付けて、雑魚タンク(?)……いや、ゴーレムタンク(?)……【ザコーレムタン】! う〜ん、なんか違うな。まあ、別に名前なんてどうでもいいや。


 さて、まずはユタンちゃんに乗り込んでもらわんとな。


「ユタンちゃん、そのハッチから乗り込んでね。そう、そこ。動かし方は歩いてくボックスと一緒だから、今までどおり、進みたい方向へ内壁を歩くだけ。スプライトの指示に従ってね」


「らじゃー」


 ゴーレムの胴体が変な方向に弾かれないように押さえつつ、球体の真上からゆっくり下ろして、っと。


「よし、じゃあ、俺たちも搭乗しよう。装甲を頑丈にしといたから、中はちょっと狭いぞ。スプライトは全体の指揮と攻撃腕の操作をお願い」


「えっと、どうすればいいの?」


「あ、とりあえず、中に入って説明するな」


「ふふ、なんかわくわくするね」


「そうだな。俺もだ」


「ほんと、中は狭いのね。ここに座ればいいの?」


「うん。ここの箇所に風魔法を注ぐ感じで空気圧をかけてやると腕が伸びるから」


「こう?」


「そう、そんな感じ」


「ふふ、面白いね」


 こんな狭い空間にスプライトと一緒だと思うと、なんかドキドキする。一応、歩いてくボックスと同じように、光魔法で外の映像を内壁に投影してるから、視界だってクリア……あれっ、なんか閉鎖空間に二人っきり感が無くなっちまってる!?


 くぅ、もうちょこっと、ラッキーすけべ的に密着感を味わえるかと思って期待してたのに……設計ミスった。


 んだば、気を取り直して、っと。


「スプライト、ちょっとお願い。風魔法で俺の声をあちらさんに届けて」


「うん、いつでもいいよ」


「それじゃ、そろそろいくぞっ! 今回は、山羊が二位階の魔物になった想定で、その動きを模して動かすからな。そのつもりで戦ってくれ」


「了解です。どうぞ! こちらはいつでもいいですよ」


 スプライトが気を利かせて、あちらさんの声も拾ってくれていた。どうやら向こうも作戦会議を終え、準備が整っていたようだ。


 さて、俺の頭の中のイメージをいつも以上に開放状態にして、スプライトの考えをユタンちゃんに伝達する感じでいいのかな? 一方通行になるけど、そこは仕方ないか。


 基本的にはそれぞれ独自に動かし、要所要所ではスプライトの指示に従う感じで。


『それじゃあ、行くわよ。ユタン、前進っ!』


「らじゃー」


 あ、そっか! そうだよね。球体の中とはいえ、採光と換気用に小さな穴が空いてるんだから、風魔法でユタンちゃんの声を拾ってやればいいだけか。うっかりしてた。


 おぉっ、スピードが乗って、なかなかいい感じじゃね? あの魔物と遜色ないぞ。


 山羊に腕はなかったけど、その代わりにブンブン角を振り回してたからな。スプライトには腕の操作でその辺を疑似的に再現してもらおう。


 俺としても、あの山羊を真似て、接近したら火魔法を周りにぶっ放す感じでいいな。


 よし、そろそろ、俺の出番だ。それっ! かなり弱めの火魔法を、ブワーっと。


 おいおい!? ちゃんと避けろって! じゃなきゃ、せめて水魔術でレジストするなりしろっての……あぁーっ、びっくりこいたぁ。見てるこっちが冷や冷やするよぅ。


 おっ、なーんて思ってるうちに、バルーンがやられた! 左前脚に相当する箇所が弾けてる。


『ユタンちゃん、左前脚を怪我した想定で、動きを制限してあげてね』


「らじゃー」


 おっ! 右腕の突きをまともに受けたレクサンドリちゃんが跳ね飛ばされやがった。


「レクサンドリ、アウト! 離脱なさい」


 はは、スプライトは審判役もしてくれるのね。


 しかし、こうなると、クライネさんだけじゃ突進を抑え切れない……当然、突進を許しちゃうと、こうなるわけだ。後衛陣へ向けて、弱めの火魔法をブワーっと。


 おおっ、今度は水魔術でレジストが間に合った! あれっ!? でも、フーベルちゃんじゃないみたい。


 おぉ、アルメントが胸張って、どや顔してる……でも、そんなことしてっと。ほらな! 腕でぶっ飛ばされてやんの。


「アルメント、アウト! 離脱。馬鹿、阿呆、間抜け、ちゃんと反省なさい!!」


 おっ! こっちもやられた。ほほう、またプラッテちゃんか。なかなかやりおる。槍使いだけに……。うん、背後から巧く左後脚相当のバルーンを正確に突いてきやがった。


『ユタンちゃん、左後脚も被弾ね。右足側だけの旋回みたいな感じで、動きを制限してね』


「らじゃー」


 この後は手負いの魔物風に演じればいいかな。


 とはいえ、魔法が使える魔物は固定砲台として機能するからね。俺は相手の隙を見て、火魔法をブワーっと。


 おっ、やっとフーベルちゃんも落ち着いて、水魔術でレジストできるようになったか。さすがに攻撃呪文を唱える余裕はないようだけど。


 こうやって見てると、魔法と魔術との差は歴然だな。魔法相手に魔術で対処するのは、やはり並大抵のことじゃない。二位階の魔物が恐れられるわけだよ。


 おっ! 今頃になって、シーニゲの目潰し弾か。確かに見た目がゴーレムだから、対生物戦だってことが抜けていたのかもな。その辺は減点だけど、これは有効打だ。なにせ、こちらが火を放つタイミングを見計らって、軽い粉塵爆発も引き起こしてたからね。


『スプライト、これって、どうするよ? 魔物なら目潰しが効いてると思うけど』


『そうね。でも、外の映像を消しちゃうとダメージ判定ができなくなっちゃうし』


『だよなぁ。じゃあ、映像はこのままで。攻撃だけランダムに変更する感じかな?』


『そうね。それで行きましょう』


 ──その後は、クライネさんが物理的に守り、フーベルちゃんが魔術的に守って、なんとかプラッテちゃんがとどめを刺す形で戦闘が終了した。


 ただ、その間に、シーニゲがプラッテちゃんへの攻撃をかばって被弾退場していたが。


 おいおい! もし、実戦だったら、大変な結果になってたぞ。


 弱めの火魔法しか放っていなかったとはいえ、少なからず火傷を負っている者も。なので、再戦はなし。


 これにて、模擬戦は終了となった。

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