ep.64 ほわほわ
満腹になってまったりとした時間を過ごしていると、やっておかねばならないことが、まだあるのを思い出した。
シェルタードームのことじゃない。そんな物は先ほど一瞬で造ってしまった。今は、こうして中で寛いでいるわけだし。
では、それはなにか? うん、寝床のことだ。
これまではよく考えもせず、今までの流れのまま、野外と同様、シェルター内であっても葉っぱと枝葉のクッションを使用していた。うん、あほだった。
シェルタードームも使い捨てにしてたくらいだからね。そのせいもあって中が多少汚れたところで、あまり気にならなかったんだ……うん、わかってる。アホすぎた。
つうか、虫がついてることもあるから、もう嫌なんじゃーーっ! しっかりと作り込んだ貸し切り風呂仕様のシェルタードームで過ごして以来、ギャップが半端ないんだよ。
そこでちょっと改善しようと考えたわけ。
でも、一晩使うだけで、翌朝廃棄してしまうのに、あまり凝ったものを作るのもなんだ。ここは一つ単一素材でできる簡単なものにしようと思っている。
実のところ、最近ずっと土魔法を多用してきたせいか、いざ使おうとする際、その近辺の地中に埋蔵されているものが、どういうわけか頭の中で勝手にイメージとして浮かんでくるようになっていた。
なんじゃこりゃあ、と最初は違和感を覚えつつも、今ではもうすっかり受け入れてしまっている……慣れとは恐ろしい。ほんと、人ってすぐ慣れるから怖い。
そんな感情はともかくとして、先ほどアルミニウムを抽出した際にも利用していたとおり、実用的になんら問題ない。いや、便利としか言いようがない。
その際、この辺の地下に原油が埋蔵されていることを再確認できたというのもあるんだ。
それをエア○ィーヴ的なクッション性の高いマットレス材に使用しようと考えたわけさ。本家のあちらも材質的には単一の素材。確かポリエチレンだけで作られた物のはずだから。
ポリエチレンなら、原油から比較的簡単に生成できる。なので、試しにやってみることにした。
まずは原油を加熱処理し、蒸留分離するイメージで、ナフサを抽出する。
更に、この液体状のナフサを熱分解するイメージで、エチレンガスを生成した。
あれっ!? ちょっと待てよ……これなら風魔法で大気から直接エチレンを集めてもよかったんじゃ……う〜ん、どうなんだろう? 今度やってみっか。
おっと、続きだ。これに対し、触媒として、塩化チタンと有機アルミニウム化合物……いや、ここは酸化クロムの方にしておこうか……これを混ぜ合わせて、っと……高温高圧で重合させるイメージで、ポリエチレンを作っていく。
ポリエチレンみたいな見慣れたものだと、イメージも容易だ。原料も完成形もわかってるだけにすごく作りやすい。
あはは、これも会社で取ってた工業新聞に目を通していたお陰でもあるか。よもや異世界科学無双用に蓄えた知識がこんな形で役立つとはね。うん、平和利用、いいんじゃない。
よし。これで材料が手に入った。
さあ、ここからがマットレス作りになる。
さて、マットレスの内部構造をどのように成形するかだが……。
う〜ん、クッション性を考えると、正多面体構造にでもするのがいいかな? 辺の部分をポリエチレンで格子にしてやれば。そうすりゃ、体圧をいろんな方向に分散してくれそうだもんな。
となると、正二十面体とか、正十二面体くらいとかか? ……いや、違うな。面が多すぎると、かえって内部構造がスカスカになっちまう。
ある程度の強度も必要だし……効率よく力を分散させるのには……角度的には六十度くらいが妥当な線か……うん、正三角形あたりが無難かな。
正三角形を四つ組み合わせれば、正四面体だ。これなら一点を三辺に分散できて、かつ支持もできる。正四面体の格子を複数結合させてやれば、寝たときの体圧を分散させるのに問題はなさそう。
それではと……正四面体を無数に組み合わせた構造を思い描く。立体スプリング仕様マットレスのイメージを頭の中で練り上げていく。
全体の成形イメージが固まったのを見計らって、精製!
ふぅ、できた。
おぉっ、なかなかいい感じのクッションでねえの? 試作品にしては、上出来だろう。
これと同じ物をもう一つ、それとユタンちゃん用の小さな物を一つ成形しないとな。
ユタンちゃんの身体のサイズからして、俺たちのと一緒だとさすがに柔らかすぎるかもしれない。正四面体のサイズを小さくして、密にしてみた。
あれ!? ユタンちゃん用の方が、手で押した感触は良いかも。
俺たち用は、気持ち柔らかすぎたか? こっちの方ももうちょい正四面体を小さくして、密にした方が……いや、寝心地となると、また別か。
まあ、好みもあるだろうからな、今日のところはこのままで。後でスプライトにも感想を聞いて、微調整していこう。
このマットレスにマントを被せてやれば、簡易的なベッドになってくれるはずだ。
「またおかしなもの作ったわね。なにそれ?」
「こうして……こうして……こうします」
「へえ〜、それがさっき言ってた葉っぱの代わりになるわけね」
「うん。今までよりは、ずっと寝心地がいいはずなんだけど」
「そうね……確かに安眠できた方がいいみたいだしね」
「ほらほら、スプライトもユタンちゃんも試しに寝てみて」
スプライトは俺を真似て、同じようにマットレスの上にマントを被せ、ユタンちゃんはいつもと違ってマットレスの上にタオルを一枚だけ敷いて、寝床を作っていく。
「ああ、背中にごつごつ当たる感触が無くて、いいかも。身体を柔らかく風が支えてくれてるみたいよ、いい感じ。なんか風妖精の頃を思い出すわ。うん、いいんじゃない」
「ほわほわ」
どれどれ、俺も寝っ転がって……おおっ! これは!? やばっ……手で試したのとも違う……思ってた以上だ。これは、なかなか……。
……あれっ!? 随分と静かだ。もしかして、もうみんな寝ちゃった?
「……はっ! ほんと寝ちゃいそう。ふふふ、これって気持ち良すぎるわ。横になると、すぐ眠くなっちゃう」
「ねむねむ」
「はは、眠いの我慢しててもしょうがないよな。このまま寝ちゃうか?」
「そうね……うん、もう寝ましょ。おやすみ」
「おやすみ」
「じゃあ、もう明かり消すぞ……おやすみ」
こうして思いの外、早い就寝となった……これなら少しは眠れるかな?
──翌朝はいつもどおり……いや、今回は寝れた気がする。
俺的には満足だ。これを我が家の標準仕様としたいところなんだけど、二人はどうだろ?
「おはよう……あっ! ふふふ、よかったぁ。なんか寝られたみたいね。これ気持ち良かったもんね。うんうん、いいわ」
はは、スプライトも顔色いいぞ。気に入ってくれたみたいだな。後は……。
「おっはー」
あはは、ユタンちゃんも気持ちよく寝れたみたいだね。ガバッと起きて、爽快って感じだもんな。
これなら毎回作って……いや、いざ石油製品だと思うと、なんか罪悪感が湧いてくる。作って翌朝の廃棄だと、どうにも気が咎める。なんでじゃろ? 今までとなんら変わらんはずなのに。単に気分的な問題のはずだよな? ……でも、なんかやだ。
そうだ! これなら潰してもすぐ復元しそうじゃん。軽いし、圧縮すれば、【歩いてくボックス】にもきっと入る。
「ということで、先生、お願いします」
「うむ」
ふふふ、運送屋さんの了承も得られた。
「あーなんか、すっきりした。よっしゃーっ! 今日もがんばんべぇーっ!!」
「「おーう!」」
気分爽快。みんなもお腹が減ってる様子だったので、朝からカツ丼にしてみた。
日本にいた頃だったら、朝からカツ丼なんて、とてもじゃないが胃が受け付けそうにない。けど、こうやって自分の脚で旅をしていると、全くもって平気も平気。それどころか、何杯もお代わりする始末だ。
まあ、みんなと仲良く一緒に食事してるせいもあるよな。ふふふ。
野菜スープで食物繊維もビタミンも補給できたし。やっぱ、朝はフリーズドライが楽でいいやな。
さて、少し食休みして腹も落ち着いた。北へ向けて旅を再開しよう。
これまでずっと川沿いだった街道が、ここへきて川を横切り、橋から先、少し東寄りに進んでいた。
いや、違うな……ここまでの川の流れが、少しずつ北西方向にズレてたみたい。その川に沿っていた道も北西側に向かっていた感じか? 久々に腕時計で確認してみると、当初思っていた方角と違っていた。
まあ、きちんと区画整理された道や川なんかとは違うものな。こういうこともある。多少の遠回りは仕方ない。
これまでそれらしい分岐もなかったことだし、道は間違ってないと思う。このまま街道を道なりに進むことにした。
とはいえ、まだ陽が低く、朝靄のせいもあって陽の位置を確認しづらい。もう少し陽が高くなったら、再度、方角を確認しておこう。
この辺の街道沿いの樹木は、そこそこ疎らだ。ただ少し離れたところには林なんかも点在している。
農地として利用されているような雰囲気もない。自然が豊かと言えなくもないが、ごくごくありふれた景色とも言える。
靄がかかって少し幻想的ではあるものの、特に見るものもなく、すぐに見飽きてしまった。
……かれこれ、もうずーっと、ぼーっとしながら歩き続けている。
あっと、忘れてた。もう昼前か。
腕時計で方角を再度確認してみると、川を渡った後の街道は、概ね北東方向を向いているようだ。
先ほどの川は、やはり北西方向から流れてきていた。一時はだいぶ西へズレてたみたいだな。
とはいえ、ちょっと前に【水反鏡】で精霊を確認することができた。ちゃんと想定してた方角に戻ってきてはいるようだ。
どこかで道を間違ってたわけじゃなかったよ。ほっと一安心。このまま、道なりで大丈夫そうだ。
しばらくすると、街道の周りが徐々に迫り上がってきた。
歩くに従い、それがどんどん高さを増し……きれいな地層の浮かび上がる壁に。しかも、随分と地層が傾いているみたい。断層でもあるのか、結構曲がりくねっているところも。
「きれい」
歩いてくボックスからひょっこり出てきたユタンちゃんが呟いた。
確かに見事なマーブル模様なのだ。
あれっ!? 中からでも見えるはずなんだけど……投影に不具合でもあったか? いや、違うか。ユタンちゃんほどの眼力だ。もしかすると、直接見た方がもっときれいに見えるとかか。
あ、そういや、ジャバさま岩のときにも興味示してたな!? なにげに地質学好きだったりして……。わざわざ外に出てきたということは触ってみたいのかも。
まあ、いい機会だ。みんなで化石でも探してみよう。
──残念ながら恐竜の化石みたいな大物は見つからなかった。それでもそれぞれが見つけた物を見せ合うのは存外に楽しい。
「なにかしら?」
「う〜ん、なんだろ? 貝っぽいな」
「ぎざぎざ」
「あぁ、その葉っぱの化石、きれいだね。たぶんシダ植物の葉だとは思うよ」
ふふ、ユタンちゃんも満足してくれたみたい。
道の先に目をやると、山脈が遠くの方まで連なっている。
【水反鏡】で覗いた遠くの山肌にも、くっきりとした地層面が確認できた。全体としてやや傾いているようだ。
この地層もあの山脈まで繋がっていると思うと、なんとも感慨深いものがある。大自然の真っ只中にいるみたいだ。
凄いよなぁ、自然は……。人の営みにしても、確かに長い年月をかけて凄いことをやりとげることはある。けど、こうした自然の途方もないスケールとは比べようもない。ほんと、物が違う。時の流れも。
ふふふ、見るものが多い旅だ。
あはは、さっきまでごくありふれた自然に飽きたなんてほざいていた奴は、どこのどいつだ、って感じだな。
異世界観光、存分に満喫してます。
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