ep.42 まんまド△になっちまう
ずっと気を失っていたとはいえ、昨日の朝食後から何も口にしていない。さすがに腹が減ったような気もする。
いや、そもそもが意識を無くすほど、魔素を使い果たしたわけだしな。エネルギー的な消費は馬鹿にならないはずだ。
これが異世界転生もののラノベなら、一挙に魔力倍増、ってな感じになるのだろうけど、まあ、現実は……つうか、俺の場合、転移だから関係ねえのか。
目下の目的は、精霊の調査なわけだし、戦力なんてのは、二の次三の次だ。
そもそも、今のところ、魔力に不満なんて感じたこと無いもの。
いや、まあ……昨日のは特別だ。スプライトの胸、いや、ハートを鷲掴みにしたくて、無理しちゃっただけだから。細部にまで、とことんこだわりすぎた結果であってだなぁ。一度っきりの使い捨て、にもかかわら……ずっ!? つ、使い捨て??
ま、まじか! あんなにも苦労したってのに、使い捨てだなんて!! そんな殺生なぁ。
はあ、これを移設するにしたって、めっちゃ大変そうじゃん。そもそも、次は大きな街みたいだし、これを置ける空きスペースが周辺にあるかどうか……。
あ、でも、あれか! なんなら地中に埋めちまえばいいんじゃね!? 採光や換気なんて魔法でどうとでもなるわけだし、全くもって問題ない。
決定かな……うん、決定だな。よしっ、決めた! スプライトの裸を拝むためなら、どんなに困難であろうと、持っていってやろうじゃねえの。
そうと決まれば、スプライトにも相談だ。風呂を気に入ってくれてるみたいだし。軽量化の専門家にお知恵を拝借して、手伝ってもらおう。
「なあ、スプライト、この風呂な……たぶん、もう二度と造れない……かもしれない」
「え、そうなの? うん、作るのに苦労してたもんね。そっか、もうお風呂入れないんだね……。でも、仕方ないよ。また、倒れられても心配だもん」
あれっ!? あきらめちゃうの? 駄々こねられるかと思ったのに……いや、思ってた以上に、心配かけてたってことか? いかんなぁ、保護者として失格だ。ちゃんとせんと。
「そこで、ものは相談なんだが、これを浮かして運ぶことって、できないかな? 俺とおまえの力を合わせて、あの街まで……」
「えっ!? どこ?」
「あっと、そっか。これでどう?」
スプライトの前に【水反鏡】を精製して、まだ遠方にある街の様子を見せてやった。
「あ、ほんとだ。へえ、こんなにもすぐ近くだったんだ」
「いや、これは望遠だから、すぐ近くでもないんだけど……まあ、それほど遠くはないかな。普段のペースで三時間くらいだと思う。二人で協力して、そこまで運べないかな?」
「これって、土の下にも埋まってるのよね。どのくらいの深さ?」
「地上に見えてる部分と同じくらい。でも、地下部分はぎっちり中身が詰まってるから、ちいとばかし重くって……ちょっと待っててな。体積で……えっと、地上部分の2倍半くらいの重さになるみたいだな」
へえ、こんなもんか。計算してみねえとわからんもんだ。
「まあ、そのくらいなら、できなくはないんじゃない。二人でなら。一緒になら、なんとか」
そうかぁ、できなくはないか……でも、楽勝とはいかないんだな。
「いや、そこじゃないから!」
「ん!? じゃ、なに?」
「……知らない」
なんだ!? ……まあ、今はこっちか。うん、なにもいっぺんに運べなくてもいいか。進めるだけ進んで、その都度、地中に埋めておけば。どうせ、あの街にはしばらくは滞在することになるだろうし、何度か戻って……いや、それも面倒か。
できれば一気に運んじまいたい。なんとか少しでも楽な方法を見つけないと。
【歩いてくボックス】みたいに転がしちゃうと、せっかくの内装やら調度品がめちゃくちゃになっちゃう……それは、ちゃうな。
ジンバル機構を追加しても、あの重量は支えきれないだろうし……う〜ん。
そうだ! 圧縮空気で浮かせて運ぶってのは、どうだろ? ホバークラフトみたいに。
下部にスカートを取り付けて、中で風を噴射したエアクッションだ。シェルターを少しだけ浮かび上がらせながら運ぶ。うん、ありかな。
でも、ボディーカラーは、紫地に赤とか黒を入れちゃ、あかんな。まんまド△になっちまう。あはは、ほぼ丸いものしか造ってないのに。
そもそも、歩いてくボックスなんて、カラーリングを一歩間違えてたら、それこそハ■になるとこだったじゃん。
つうか、半分まんまやん。今頃気がついたぁ……やっべ。次にこの世界へ迷い込んだやつから、「あいつ、パクった」って、バカにされるとこだった。
今度のは色付けしないようにしよ……どうせ、埋めて使う予定だし。
でも、球体にスカートってのも、それはそれでオ△QのP子さんみたいになっちゃうな。大丈夫なんじゃろか?
いやいや、基本的な形を組み合わせただけに過ぎない。これは仕方ないでしょ? この程度の類似性は、とやかく言われたりはすまい。仕方ないよね? うん、仕方ない。
それじゃあ、まずはスカートだ。最低でもこの風呂型シェルターを支えられる程度には強度が必要か。
真下に噴射した圧縮空気は、地面に反射し、横方向にも相当な風圧を掛ける。そもそもが、そうした向きの変わった無駄な力を下方向へ変換して、揚力を得るためのスカートだしな。それなりの強度が必要なのは当たり前か。
ただ、事前に準備しておけば、あとは俺とスプライトの風魔法だけで運用できる点はいい。
ド△と違って、熱核ジェットエンジンを搭載しなくて済むのは助かる。なにせ、熱に強い金属を用意する必要がないのだから。軽くて丈夫な金属という条件だけで済む。
軽い金属と言ったら、チタン、マグネシウム、アルミニウム……。
あ、赤土……この辺って、亜熱帯だ! そういや、来る途中もよく見かけた。あれって、熱帯土壌のラトソルじゃん。
うんうん、見た見た! 経済ニュースで。確か、ああいった赤褐色土には、ボーキサイトが形成されるって。なら、ここはアルミニウム一択か。
電気の缶詰と揶揄されるくらい作るのに大量の電気を必要とするアルミニウム。
だけど、そんなの、今の俺には関係ない。なんせ魔法があるから。電気だって、スプライトに協力してもらえば、風魔法で作り放題だもんね。
「任せて!」
「うんうん。頼むな」
でも、純粋なアルミだと、さすがに強度不足か。やっぱ、ここはアルミ合金のジュラルミンでしょ!
それも超々ジュラルミンの方──強度と軽さの条件を満たすなら、アルミニウムにマグネシウムと亜鉛、銅を添加したこの合金がいい。
よっしゃっ! そうと決まれば、早速、抽出……からのぉ、スカートの形をイメージして……精製っと!!
ふぅ、あっという間に出来上がりだ。
「あ……あたしの出番は!?」
「あ、ごめん。要らなかった……みたい」
「えぇぇ、なんでよ?! そんなぁ〜」
「な、なんかごめん」
はは、やばっ。
ささ、早くしないと。次は、この金属スカートの上へ、地面に埋まったシェルターを持ち上げ……って、ありゃっ!? めっちゃ難しい。
おっとっと? 球体って、厄介だなぁ。風魔法で下から持ち上げようとすると、その場でくるっと回転しちまいそう。中の調度品が危うくひっちゃかめっちゃかになるとこだったよ。あっぶねぇ。
あ、そうだ。こういうときこそ、専門家か。
「悪い、スプライト。この風呂を持ち上げたいんだけど、なんか回転しちゃいそうなんだよ。なんとかならないか?」
「やっと出番ね。任せなさい。さあ、行くわよ。それっ! これでどう?」
「おぉ、サンキュ、ばっちりだよ。さすがはシルフ」
「ふふふ、最初からあたしに任せとけばいいのよ。えへへ」
お、機嫌直った。
あれ!? なんか土魔法でも簡単に浮きそうな気が……試しに……あ、浮いた。
おぉぉっ、これでメテオが……メテオができるっ! トュルル、トゥットゥルゥーッ! タカシは隕石魔法を手に入れた。
でも、隕石なんか落としたら、大災害の罪を問われて魔防士を引責辞任させられそう……。
あははの、は……って、ああっ、なんてこったい! せっかく、金属スカート作ってまで上に乗せたというのに……無駄になっちまった。
いやいや、それよか、またスプライトの協力が不要になっただなんて口が裂けても言えねえ。言うのが恐ろヒィっ!
……な、なんだよっ!? お、驚かせやがって。風かよぅ。び、びっくりさせやがって。
くぅ、仕方ない。今回は当初の計画通り、ホバークラフト仕様でいくとしよう。いくしかない。いきますよ? いきますからね。
エネルギー効率がどうとか、もう問題じゃない。でないと、俺が高率で酷い目に遭うのは、目に見えてるから……。やばっ、ダジャレもひどくなってきとる!?
なにより、上機嫌になってくれたスプライトを怒らせちまうのは、どうにもまずい。せっかく風呂まで一緒に入ってくれるようになったのに。
うん、この程度の無駄は目を瞑ろう。そもそも、遊びには無駄がつきものだし。遊んじゃおう。
そうと決まれば、仕上げだ。本体とスカートの間から空気が抜けないように隙間を密着接合、っと。
後は妖精さんと精霊さんとの風魔法コラボで安定して浮くかどうかだが……。
いや、軽量化の魔法自体、全面スラスターのホバークラフトみたいなもんだ。スプライトの
「スプライトお待たせ。準備できたぞ。お願いできるか? テストで少しだけ持ち上がるか試してみたいんだけど」
「うん、いつでもいいよ」
「じゃあ、あのスカート内に空気を送り込んで浮かすのは俺がやる。スプライトは一番難しい姿勢制御を頼むな。それじゃ、『せいの』の、『の』のタイミングで……せいのっ!」
おっ、やった! さすがはシルフ。風を使ったバランスコントロール、絶妙だな。
「よしっ! テスト終了。ゆっくり降ろすぞ」
「どう? うまくいきそう?」
「ああ、ほとんど浮かせずに地面スレスレならいけそうだ。念のため、隠蔽魔法も掛けるつもりなんだけど。見えなくなっても、平気かな?」
「うん、たぶん平気よ。なんか二人で魔法を使った状態になると、感覚共有もできるみたいだから。たとえ隠蔽してても、位置はわかると思う」
「そっか。姿勢制御はおまえが頼りだからな。押して移動させる役は俺がやる。ここから先、たぶん人の往来も増える。人とすれ違うときは街道から外れるように移動させることもあるから、そのつもりで」
「うん、わかった。がんばろうね」
確認事項は、大体こんなもんかな? とっさの緊急回避用に土魔法もあるしな。後は……。
「今回の隠蔽魔法は、とりあえず【光学迷彩】だけにしとく。よし! 持ち上げよう」
「うん」
「いい感じだ! このままいくぞ。ユタンちゃんも今回はあんまり先行しすぎないでね。みんなと一緒に行こう。もうすぐ街だから」
「らじゃー」
よし。いい子だ。歩いてくボックスの方は、【ステルス】のままでいいな。
「それじゃあ、最初はゆっくりスタートするぞ」
お、想像してたよりもスカートの効果が高い!? これなら魔素の消費も少なくて済みそうだ。いつものペースでいけそう。
やったね! これでまたスプライトと一緒に……ムフフッ……って、いかんいかん。あぶねぇ、魔素を込めすぎたぁぁ。冷静に、冷静に。
──あはは、思ってたより順調順調。うん、いいんじゃないですかぁ。
さすがに、大きな馬車とすれ違ったときには避けるのに苦労したけど。それに、傍を通るとき、猛烈な風の吹き出しが気になるからか、視線を向ける人もいたけど……。
まあ、なんとかここまで事故もなく、無事にやってこれた。あとは、街の門からそれほど遠くないこの辺りで、なんとか良さげな場所を見つけないと。
遮蔽物があって、できるだけ目立たないところで、この風呂型シェルターを埋められそうなスペースは……どこか……。
おっ、ここなら、いけそうか。うん、いいんじゃない。
よし、やるぞ。
おっほぉぅ! 土魔法、きょわ〜い。なんか底なし沼みた〜い。ズブズブと、土の中にシェルターが沈んでいく。
あはは、わざわざ穴を掘らなくていいから、楽ちんな。
今日はいろいろと発見もあったし、無理して運んできた甲斐があったかも。
この上に、歩いてくボックスを置いとけば、目印にもなる。ただし、こっちも盗まれちゃかなわん。隠蔽魔法は掛けたまま、追加で防犯の【スタンフィールド】も上掛けして、っと。
やっとこれで、次の街【エピスコ】へ入れる。
ふぅ、がんばった。がんばりましたよ。
「スプライトも、ユタンちゃんもお疲れ様」
「ふふっ、楽しかったね。いよいよ、次の街ね」
「わくわく」
さあ、次、行ってみよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます