ep.23 これって、計算合ってます?
魔防ギルドの中に入ると、エントランスホールには十人強くらいの屈強な男たちが既に集合していた。
こいつらが魔防士なのか? いや、形だけは俺もそうなんだけど……。
連中は俺に
まあ、仕事中みたいなもんだしね。冒険者ギルドあるあるは、魔防ギルドでは起こらんらしい。
『残念』
『いやいや、よかったの』
なに言ってんだよ? スプライトのやつ。おぉ、怖っ。喧嘩売っちゃ、だめだからね。
巻き込まれる前に、さっさと受付へ。
「あの〜、ちょっといいですか?」
「何でしょう? ああ、このあいだの。早速、呼び出しに応じてくれたんですね。ありがとうございます。では、こちらの番号札十三番をお持ちになって、あちらであの方たちと一緒に、もうしばらくお待ちください」
「いえ、そうではなくてですね。お尋ね者……えっと、なんて言ったらいいだろ? う〜ん……あのですね。門衛さんに教えてもらったんですけど。手配中の盗賊たちを捕まえたんで、連れてきました」
「そうですかぁ、捕まえたんですかぁ? えっ!? 今、なんて言ったの? あ、すみません。なんと仰ったんですか? よく聞き取れなくて……」
最初は上の空だった受付嬢。やっと聞く気になってくれた。
こちらもようやく話す内容がまとまったので、事の成り行きを説明していく──
彼女は聞き終わると、何も言わず、どこかに行っ……あっ、少し戻って……ふっ、まるで飼い犬に「待て」と指示するかのように、手で制止してきた。
「はいはい、わかってます。ここで待ってますから」
俺が頷いて、そう告げてやると、彼女は階段を二段飛ばしで勢いよく二階へと駆け上がっていった。
──う〜ん、なかなか戻ってこねえ。まだかなぁ。もうだいぶ経ったぞ。
それからしばらくして、座ってた連中が一斉に顔を上げた。しきりに上を気にしている。
なにかと思って見上げると、そこにはさっきの受付嬢……そして、その後に、艶やかに輝く黒肌を惜しげもなく晒した姿で、階段を降りてくる長身の美人さんが。
きれいな日焼け……いや、それにしては自然すぎるか。元々こういう肌なのかも。美しい。
健康的で、いかにもエネルギッシュな雰囲気を漂わせている。露出過多のせいもあってか、野郎共の目を一心に集めて「いてっ」
耳、引っ張らないで。スプライトさん?
おぉ、脚、なげーなぁ……いったい何頭身だ? いち、に、さん……あれっ、ちょっと近すぎ、って!?
「君が盗賊共を捕らえてきたという魔防士かい?」
「なりたての初級魔防士さんです」
「それは聞いた。いつも言ってるだろ? そういうデリケートなことは、当人の前で口にするなと」
「申し訳ありません! マスター」
マスター!? 酒場の? わけないよね。
「あぁ、すまんな。気を悪くしないでおくれ。当ギルド支部のマスターを務めるフィアナランツェだ。よろしくな、ホープ君」
やっぱりというかなんというか、ど定番のギルドマスターの登場でしたか。ところでホープって、俺のこと? 結構なおじさんなんだけど。
「えっと、マスター、間違っちゃってます。タカシさんです。ホープさんではなく」
小声だけど丸聞こえだぞ。この子、おもろいな。あくまでも傍目には、だけど。
「あなたは……ちょっと黙ってな」
うんうん、ギルマスの気持ち、よ〜くわかる。若い子の相手はね。ん、なに? じっと見つめてきて。
「……あ、すみません! ぼーっとしちゃってて。タカシと申します。以後お見知り置きを」
「ふふ、構わんよ。私の前では大抵の男がそうなる……って、こわっ、はは、冗談だ。ここは笑うところだよ」
ん!? こわっ、とな? あ、なんか背筋が異様に寒い!? いやまあ、実際そうなんだろうけどさ、これほどの美女だものな。
とはいえ、俺はこうやって普通にしてられるけど。なにせ、この世界に来てからというもの、絶世の美女まみれで、美女びじょ耐性ができてたからね。
それに加えて、一番の理由は、すぐそばにもっとずっと俺好みの女の子が居てくれるから。
「っ!!」
ほんと、もしこれが前の世界で出会ってたら、先走ってるよ……ナニかが。びしょびしょに。
「あたっ」
お尻蹴らないで……あれっ!? 今度はユタンちゃん?
あっと、そうだったね! 早く質問に答えろってことか。気が利くなぁ。ありがとね、教えてくれたんだ。
「あ、はい。盗賊は俺で……あっ、違っ。盗賊を捕まえてきたのは、はい、俺です」
「ふっ、おかしな子だねえ。その賊たちは、外かい?」
「ええ。縛りあげて、衛兵さんたちに見張ってもらってます。ご案内します」
ギルドマスターを外に停めてある大八車のところまで連れていった。
途中、スプライトがしきりに「負けてないってことでいいのよね?」と、ユタンちゃんに言ってたみたいだけど、君たちなんかの勝負してたの? ジャンケンでもしてたん?
あぁ、そっか、もう飽きちゃったのね。うん、終わったら、さっさと帰るから。もうちょっと待っててね。
「確かに。依頼書にあった連中みたいだねぇ。人数も……報告通りか。よし、いいだろう」
なにが?
「マニュア! 報酬、全部丸っと、この子に出しておやり。私はこの門衛たちと一緒に代官のところに行ってくる。後は任せたからね」
「はい。了解しましたぁ! ささ、それでは初級……いえ、タカシさん、受付の方へ」
「はあ」
んっ、報酬!? 依頼なんて受けてないんだけど、いいの?
「ほらっ、こっちですよぉ!」
「あ、はい。今、行っきまぁすぅ!」
ラッキー……ってか、大丈夫なの!? 俺一人の総取りなんかで? 先輩方、結構待たされてたみたいだけど。
おいおい、揉めるんじゃないだろうな。
戻ると、案の定、受付に詰め寄り、騒ぎ出した魔防士たちの姿が。
「……わっかりましたぁ。では、マスターの判断に異議を申し立てるというわけですね? 後でマスターに報告しておきまーす。まずは、中級魔防士の、えっと何さんでしたっけ?」
「え、いや、俺は何も文句なんて無いから。何も報告しなくてもいいから」
「俺だって」
「俺だって」
「「「「いやいや、俺たちだって」」」」
マニュアちゃんがそう言って、魔防士の名前を書き留めようとした瞬間、全員が全員、両手と首をぶんぶん横に振って、後ずさりながら、すごすごと去っていった。
ん!? この子、もしかして、わざと?
『そうみたいね』
急に静かになった室内──どうやら報酬計算を始めたみたい。さて、どのくらい掛かるかな?
とりあえず、誰も居なくなった椅子に腰掛ける。
ユタンちゃんを膝に乗せ、頭を撫でながら、幸せなひとときを過ごす。
ところで、なんでスプライトは俺の頭、撫でてるの?
「はいっは〜い、初級者さぁん、用意できましたよぉ。取りに来てくださ〜い」
受付嬢のもとに向かうと、カウンターの上に金貨が積み上がっていた。
「んっ!? これって、計算合ってます?」
結構な金額の報酬を前に、思わずそんな言葉が口を衝いて出ていた。
それを聞いたマニュアちゃんが、あざとく口を尖らせて、ちょっと不貞腐れた表情を浮かべてから、口を開いた。
「合ってますぅ。本来、魔防士チーム全員に支払われる予定だった報酬の内訳はですね。上級十万シェル、中級一人当たり八万シェルの四人分で三十二万シェル、初級六万シェルの合計四十八万シェルなんですぅ」
ほらっ、多すぎる。
「ま、まだ、ありますから! そんな目をしないでください。えっと……そうそう、追加報酬分があるんです。首領、副首領の首には、それぞれ報奨金が百万シェルと五十万シェル掛けられてましたから、合計で百九十八万で合ってる……ほら、やっぱり合ってるじゃないですかぁ。ほらっ、ほらぁ〜!」
「いや、でも、本人かどうか、きちんと確認取ってないでしょ? そういうのは確定後に出すものじゃないの?」
「大丈夫です。そこは先輩に三回も確認しましたから。えっと……勇者様のご報告によれば、二十一人を取り逃がしたとあります。ほら、残りの全員じゃないですか! だったら……あ、やばっ! いえ、すいません。ですから、計算間違いじゃないんです」
奥で、こちらの様子を窺っていた先輩さんらしき人が、額を押さえて呆れ顔。目が死んでる。お疲れさまです。
ははは、この子はやっぱ、新人さんなのね。日常業務はマニュアルでしっかり叩き込まれてるようだけど、こういうイレギュラーな対応は、素が出ちゃうのね。
「はい、ご苦労様。理解できました。疑ったみたいになって、どうもすみません。なにせ金額が金額だったもので」
「わかりますわかります。うんうん、あたしもこんな大金初めて触っちゃいましたから。あっ、申し訳ありません。またのお越しを」
ふふ、はいはい、帰りますよ。あと、がんばって。
「スプライト待たせたな、ユタンちゃんも。さあ、出よっか」
うっ、もらったばかりの報酬の重みが──リュックの紐を通じて、肩にズシリと。
だ、か、らぁ〜、アイテムボックス欲しいんだっての!
う、うちにだって、【歩いてくボックス】ちゃんが、あるんだからね! って……くぅ、あれはただの食料庫だった。
あっ! そうだよ。保冷庫を確認するつもりで、あそこに行ってたんだ。くそっ、盗賊のせいで、すっかり忘れてた。二度手間かよ。
まあ、金貨をドロップしてくれたから、今回だけは許してやろう。
つうか、こういった世界で捕まった盗賊なんて、どうせ末路は決まってる。もう会うこともないか。ほんと、悪いことはするもんじゃないよな。
さて、もう一度、町の外に出て……おっ、戻ってる、戻ってる。門の人の行き来も、すっかり元通りだ。いやあ、けっこう結構。
「平和が一番! 電話が二番〜、惨事の捕縛は郡刑法〜♪」
ってな感じやね。若い子は知らんわな。おやつの文明堂のコマーシャル。違うか? あはは、カステラ食いてえ。
そういや、爺ちゃんも、「さんじのおやつはうんめいぞう!」って、畑仕事のときによく歌ってたなぁ。
ってか、あのときのさんじって、三事──農業のことだったんだな。今頃、気付いたわ。午前中の休憩なのに、なんで三時なのかとは、ずっと思ってたけど……。
ガキの、しかも都会っ子の俺に、そんな農家用語みたいなダジャレ、わかるわけないやろが。う〜む、やっぱ俺って、爺ちゃん似だったりするんかな?
にしても、こんな場所にも、人が来るんか……いや、そんなの、今回みたいに悪事を働こうとする
ふふっ、まさかゴキブリが金に化けるだなんて、知らんかった。盗賊ホイホイ、いいかも。
さてと、やっと振り出しに戻ったぞ。
「さあ、中の氷は、どうなってるかな?」
「楽しみね」
「あれっ!? どこだ? 確か……この辺だったよな?」
「たぶん」
おお、今更だけど、隠蔽魔法って、凄いのな。一度目を離すと、これか。……あ、でも、魔力を感じる。おっと、いけね。魔法を解けばいいだけの話だった。
「きらきら」
「ほんとね」
ああ、こうして隠蔽を解いちゃうと、確かに人目を引く。新品だけに、地金がもろ光を反射してる。
どうにか地味めな迷彩色みたいなのにできないかな? 色なら、ユタンちゃんの得意分野か。
俺がとやかく言うより、ユタンちゃんに任せた方がいいのだろうけど……。素晴らしすぎて、異彩を放たれても、またそれはそれで目立つか?
「本末転倒ね」
まあ、隠蔽魔法を解いた際の、気休め程度なんだけどな。
「ユタンちゃん、この歩いてくボックスに色を塗ってほしいんだけど。えっと……下の方がこんな風な系統の色合いで、上の方はあんな感じの色で。できるだけ目立たない方向で、お願いできるかな?」
ユタンちゃんが首がもげそうな勢いで頷いてくれてる。
「あはは。うんうん。じゃっ、よろしくね」
さて、やっとですよ、保冷庫の確認。蓋を開け……。
「ん!? 開けるときに無音だと、なんか雰囲気でねえな。せっかくそれらしい球体の外蓋にしたってのに……」
「そうなの?」
「ああ、プッシューッとかいって圧縮空気が漏れ出る開閉音が雰囲気があっていいんだよ」
「へえ、そういうものなんだ」
やっぱ、エアコンプレッサーでも積んでみるか。いやいや、音を出すためだけに、そんなアホな。
「はいはい! あたしがやる。その役」
「いや、別にいいよ。そんなの」
「やりたいの」
「そう? なら、お願い」
まあ、そのうち飽きるだろ。
「飽きないもん」
ふっ、どうかな。
そんだば、保冷庫の中身は、っと……おっ! ほぼ昨日のまんまか。これなら十分使えそうだな。よしよし。
さて、運ぶ手立ても整えたし、懐も温かくなった。んだば、食料を買い揃えていくかね。
いよいよ、次の町へ向けての準備開始だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます