第10話 フェチなら泣いて喜ぶこと間違いなし
「よろしく」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」
講師はなんとレイノーヤさん。驚いたことに彼女も妖精と魔法契約を結んだ、お一人だった。
そっか。世話係はついでだったか。本来の役目はこっちね。
ふふ、やった! ついに念願の魔法、その講習が受けられる。
てか、俺、地球人なんだけど、大丈夫かな?
──感情が
仕事で接してくれる方を除けば、交流に進展はなし。未だ冷たい視線に晒されていた。
でも、平気。なにもかも忘れて没頭できるあの料理さえあれば。今や、別の幸福感にも浸れるし。
次の予定が楽しみでならない。そう、レイノーヤさんが早速講義をしてくれるというので。
聖樹様直々の紹介だっただけに余計励みになってるみたい。クールながらも内に熱を秘めたる感じ。
「お待たせしました」
「いえ、とんでもない」
準備が整ったらしく、レイノーヤさんが呼びに来てくれた。
「では、こちらへどうぞ」
すぐ隣、レイノーヤさんの居室に案内される。
女性独特の甘い香り。レイノーヤさんのイメージどおり、調度品はシンプルなものばかり。
とはいえ、間近にレイノーヤさんが座っただけでそこは別世界となる。ウッドエルフなだけあって例に漏れず、非の打ち所のない外見なので。
ややスレンダーな点は好みが分かれるにしろ、百人に聞けば、百人が美人と答えるほどの容姿だ。
彼女が眼鏡を掛け、タイトなスーツを着て、ハイヒールでも履けば……いや、この際、指示棒も持ってもらうか。それこそ女教師フェチなら泣いて喜ぶこと間違いなし。
見目麗しい女教師風、そんな彼女が俺のために個人授業の準備をしてくれて。それも狭い部屋で彼女と二人きりともなれば、フェチでもない俺であっても、グッとくるものが。
「ちゃんと集中なさい。さあ、がんばるのよ。そう、いいわ」──そんな幻聴すらも聞こえてきそう。
普段からして真面目なタイプだが、講義を前にキリッと引き締まった表情のこれほど怜悧な美女がやる気に漲っている。俺もヤル気が……いや、授業の、だよ。
「では、妖精についてお話しましょう。エルフ様におかれましては──」
なぜか人差し指を立てて説明が始まった。やはり先の教師姿を幻視してしまう。
にしても、レイノーヤさんの言い回し、エルフへの敬愛が強すぎて……わかりにくい。頭の中で少し整理していこう。
妖精の中でも、エルフは特別な存在。エルフ以外の一般的な妖精はもっと不安定な者が多いらしい。
「不安定というのは物理的にも性格的にもです。突然現れ、ひどく気まぐれで日和見主義。快楽志向でもあります。森で出会ったら、まず間違いなく悪戯されると思ってください」
うっ、いかん。こんなきれいな人の口から、森で悪戯されるなんて耳にするのは……。いや、いくらレイノーヤさんに漏れなくても、変な妄想は。ここは真面目に。
「そういえば、妖精は、霊魂と精神体のみの存在だという話でしたが」
「ええ、肉体の制約に縛られないという性質上、その裏返しとして、自由奔放な性格をしている者が多いようです」
「なるほど」
と、神妙な顔つきをしつつも、縛られないよう抵抗したものの、裏返しにされちゃったレイノーヤさんを、つい想像してしまう駄目な俺。
「とはいえ、妖精は特定の性質を持つ物や土地に縛られているため、あまり遠くへ移動することができません」
もしや妖精の悪戯好きって、土地に縛られてどこにも行けないからこその退屈しのぎか?
「ただ、妖精も肉体を有する種族と魔法契約を結べば、遠くへ移動できるようになるのです。それが妖精自ら儀式魔法を行使してまで【契約妖精】になる理由と言えます」
なるほど。妖精は契約者の肉体との繋がりを礎として、土地の縛りから解放されるわけね。いや、縛られる物を者に乗り換えただけか。
「妖精名には、日常的に使用されている【通り名】の他に、【
真名を知ることで魔法的な拘束力が発生するため、たとえ妖精同士であっても容易に他者には明かせないという。
「真名の持つ拘束力を礎として、魔法契約が交わされるのです。同時に【魔法線】と呼ばれる魔力回路も開通。この魔法線を介して、契約者は妖精の魔力を、妖精は肉体の感覚を共有することができるのです」
今のところ、双方とも利益だけか。
「同調が強まると、あるとき突然、肉体を得ることがあるようで。この現象は【受肉】と呼ばれています」
ここまで来ると、妖精も普通に食事ができ、一人で好きな場所へ行けるそうだ。ただ、病気や怪我をするようにも。寿命も肉体に依存するらしい。
「受肉は、妖精が契約者を深く信頼している証しとなります。通常の契約と魔法学的な違いはないものの、妖精界では尊重され、とりわけ【同伴契約】と呼び、特別視しているようで」
同族との契りと同等、人間で言うところの、結婚にも相当するほど喜ばしいことのようだ。
なお、同伴契約に関して、驚くべきことが判明した。
なな、なんと! み、耳が!? 落ち着け、俺。
それでは発表します。
受肉した妖精さんは、人族と同じような見た目へと変化する。ただし、耳……そう、耳だけは個性に応じた独特の特徴が現れるらしい。
しかも、元の妖精の姿とは全く関係のない獣の……そう、ふっさふさのケモミミがっ!!
神のいたずらか?
受肉するケースは非常に珍しいとはいえ、伝説の獣人【耳族】として物語に登場することも多く、その人気は絶大なのだとか。当然と言えよう!
まさか、ものほんのケモミミが存在する世界にやってこれるとは!?
ああ、モフりたい。……ん、あれ!? これって、どこかで見かけたとしてもモフらせてくれないんじゃね? 自分で契約してないと。信頼してもらえないと。
「……」
あ、授業に戻らにゃ。
「えっと……」
「集中力が途切れてきたようですね。今日はここまでにしましょう」
「す、すみません」
「いえ、私が少し急ぎ足だったようです。魔法と魔術の違いについては明日にします」
「はい。ありがとうございます。とても勉強になりました」
「礼など不要です。最後の方はともかく、なかなか熱心な授業態度でしたね。感心しました。上への報告もあるので、私はこれで」
さっと立ち上がり、颯爽と去っていくレイノーヤさん。後ろ姿にしても、教師然として。
でも、人を見る目はなさそう。うん、俺って、結構えっちなことばっか考えてたよ?
てか、やばっ! すぐ出てかないと。留守にしてる女性の部屋に長居してたら、後でなに言われるか……。
隣の部屋にすぐ戻る。
それにしても、妖精と魔法の話って、秘密とか、拘束だとか、いやらしいワードばっかだな。いや、単に俺のせいか? でも、受肉にしろ、同伴契約やら開通やら、肉体感覚を共有するにしても。
異世界に来た解放感のせいか、どうにも箍が外れて困る。頭で思い描いているだけでも、妖精相手ではセクハラ確定。いずれはウッドエルフにも伝わるだろう。
つうか、聖樹様もレイノーヤさんにしても、俺をアホだと思ってるのか、随分とのんびり説明してくれるんだよな。だからこそ暇を持て余し、つい余計なことを妄想してしまうんだ。
それでも重要なことは洩らさず把握できた。基礎を押さえておかねば、何事も始まらんからね。
明日は魔法と魔術の違いについてか。ふふ、違いがあるんだな。楽しみ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます