第8話 ヒロインに善人バレしたモブ

――――【麗目線】


 子宮は嘘をつかない……。


 お母さまから口酸っぱく聞かされた水谷家の女子に伝わる格言が響いてくる。


 危ないところでした。


 見た目に騙され、大人しそうな悠一くんとワルっぽい影山隼人の評価を見誤るなんて。


 悠一くんにはまったく反応などしなかったのに、影山隼人の近くにいるだけで身体が芯から疼いてきてしまう。これは運命とか、前世で結ばれなかった恋人同士といったレベルの出逢い……。


 ――――理事長室。


「お爺さま、いえ水谷理事長は?」

「生憎と理事長は席を外されています」

「そうですか……では稲村さんにこちらをお預けいたしますので、必ず理事長へ渡してください」

「麗お嬢さま……こちらは?」


「重要な証拠物件ですので無くさないようお願いいたします」


 秘書の稲村さんに疑惑の小型カメラとメモリーカードを箱に入れて預けた。まだいくつか気になる点はあったけど、すでにコピーを取ってあるので彼女に任せておけば大丈夫だろう。


 教師たちに預けるという手もありましたが、もし学園長派の教師の手に渡ろうものなら、学園の体面を気にする彼らに握り潰される可能性がある。


 特に桶川朋子……あの女教師だけの手にだけは渡ってはいけない!


 教職員名簿にある桶川朋子の名と写真をくしゃっと丸め、破るとゴミ箱へ捨てた。男性教師、男子生徒を誑かす淫魔サキュバスのような女だけに油断ならない。



 悠一くん……いいえ、盗撮魔から私を守ろうとしてくれた影山隼人だったけど、私の扱いが雑なのが気に食わない。


 妹想いで、なつみに寄せる眼差しは柔らかいのに、私には死んだ魚みたいに濁った目しか向けてこない。


「影山隼人! 覚悟なさい。徹底的にあなたのことを暴いてやるんだから」


 雨音とウィーン、ウィーンとワイパーの音が響く車内で窓に向かって独り言を呟いてしまっていた。


 窓枠に肘をついて、雨の景色を眺めていると驚きの光景に出くわした。


 あれは影山隼人!


「稲村、車を停めて」

「畏まりました」


 窓から雨が入らない程度に僅かに窓を開け、彼の様子を窺う。


 それにしても、こんな土砂降りの中で何を?


 子猫っ!?


 まさか私が塩対応したから、ムシャクシャしてあんなかわいい猫をいじめるなんて、最低の男じゃない!


 あのときは失礼にも私の身体こそ求めてこなかったけど、絶対に私を落とそうと企んでるに違いないわ。


 あれ?


 彼は子猫をいじめるどころか、自分が濡れることも厭わずに雨の公園を駆けて、屋根付きベンチで濡れた子猫の身体を愛おしそうに拭いている。

  

 子猫に向ける眼差しは彼の妹やなつみに向ける物と同じように険が取れ、とにかく優しい。


 私を見る目は、まるで汚物浮気女を見るかのような蔑んだ目なのに……。


 一度でいいから、子猫を優しく介抱する眼差しで見て欲しい。


 どうすれば……。


 はっ!


 子猫をあやす彼を見ていると名案が浮かんだ。


 かわいそうな子猫を出汁ダシに動画を撮って儲けようとしているとか言い掛かりをつければ、彼を大腕を振って監視ストーキングできる!


 ずっと合法的に影山隼人の姿を追えると考えるだけで私は舌で上唇の端を舐めてしまっていた。


 それに彼が猫を飼えば、猫好きの私とも会話が合うはず……私のお気に入りの猫に彼の拾った猫が種付けをしようものなら、その責任を彼に取らせる。


 かわいいかわいい私(の飼い猫)に中出しするなんて! ちゃんと私(の飼い猫)と結婚して責任取ってよ!


 完璧な作戦ですの!



――――【隼人目線】 


 ううっ! なんだ? さっきまでまったく寒くなかったのに急に寒気が襲ってきたぞ。


―――――――――あとがき――――――――――

アホの子、麗の作戦ははたして上手くいくのか? 馬鹿だけど悠一とえっちしない世界線の麗は綺麗なまま、それで話を進めろ~という読者さまはフォロー、ご評価お願い申し上げます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る