第3話 ヒロインを脅すモブ

 姫カットがいかにもお嬢さまといった雰囲気をかもし出し、お尻にまで届こうかと思うほどの長い黒髪をなびかせながら、水谷麗みずたにうららが歩いていた。


「あー麗先輩、ホント美しいよ」

「悠くん! 悠くん、たら!」


 悠一は麗に目を奪われ、なつみが話し掛けても上の空だ。


 学校では生徒会長を務め、容姿端麗、才色兼備、文武両道……麗の表の顔は非の打ち所がない美少女だ。


 だが、なつみの葬儀で到底ゆるされるべき行為ではないことをやらかしている。


 なつみが命を絶ってしまった遠因であるにも拘わらず、葬儀へ参加することも、謝罪することもなく悠一とベッドを共にし、享楽にふけっていたのだから……。


 正直、俺はなつみ以外の『ピュアキス』のヒロインを誰一人として好きになれなかった。アイドル顔負けな優れた容姿やかわいい仕草にベッドでのエロくて乱れた姿だけが取り柄……。


 負けヒロインになった場合はちゃんと反省したりしているので、もしかしたら悠一に洗脳されていたのかもしれないが、少なくとも『ピュアキス』内ではお嬢さま然とした性格ブスが目立っていた。


 悠一に近寄る悪い虫は排除してやらなきゃな……。


 幸い俺には麗を脅すネタはある。


 優雅に振る舞っていられるのも今の間だけだ。覚悟しておけ!



――――教室。


「んじゃ、輝美。また後でな」

「う、うん……」


 俺と輝美はクラスが隣同士だったみたいなんだが、分かれ際に彼女は泣き出しそうになっていた。


 目元が見えないのに何でそんなことが分かるのか?


 俺にも良く分からないがセンサーのようなもので、それが隼人の義兄としての能力っぽい。


「そう落ち込むなって」

「うん!」


 子どもをあやすように輝美の頭を撫でてやると彼女は落ち着いたようで俺に手を振りながら隣の教室へ入っていった。


 俺も教室に入り、席につく。


 輝美は義妹だから頭を撫でることができるが、いくらエロゲ内のヒロインとはいえ、他の女の子の頭に気安く触れられるほど、俺は……。


 そうこう思っている内に教師が教室へやってきて、授業を始める。


 ――――y=2xの二乗は……。


 一時間目の授業はどうやら二次関数のようで中年数学教師の糸川が唾を飛ばしながら熱弁を振るっていた。


 授業中に小休憩と悠一となつみの動向を探っていたが、特段おかしなことはなく二人は普通に話していた。


「こらっ、影山っ! 何、よそ見しとる! これだからおまえという奴は! 罰としてこの数式のグラフを書いてみろ!」


 俺に向かって、いきなり怒号が飛んできていた。どうやら二人を見ていたことで、糸川は俺がちゃんと授業を聞いていないと誤解してしまったらしい。


「はいはい、分かりました~」


 俺はちゃんと返事したつもりだが影山モードなのか糸川に対して、怠そうに返事してしまっていた。糸川の顔が引きつっていたがこればっかりは仕方ない。


 ん?


 クスクスと漏れる笑い声が聞こえてくる。


 ――――影山の奴、ご愁傷様。

 ――――影山には難し過ぎるんじゃねーの?

 ――――授業受けないのに高校来る意味ある?


 席から立ち、黒板まで歩くだけで俺は陰口を叩かれていた。そういえばゲーム内で悠一も糸井に指名されてたっけ?


 俺は黒板に書かれたx軸とy軸を一瞥すると、さっとチョークを掴むと放物線のグラフを書いて席へと戻ろうとしていた。すると糸井が俺を呼び止めた。


「ま、待て! 影山!」


 ――――安定の影山、間違いやがったよ。

 ――――不良だけにおつむも不良ってか?


 糸井に俺が呼び止められたことでクラスメートたちが俺を嘲笑うが、テストでもない授業で一つや二つの間違いを犯しただけで人を笑うのはただの馬鹿だろうと思う。


 学校の勉強なんてもんは間違うためにあるだから。


「先生、間違ってんなら間違ってるって言ってくれよ。直すからさ」


 そんな些細なことより俺は人間関係で過ちを犯したくないのだ。


「いや……正解だ。しかしおまえは本当に影山なのか!?」

「は? 先生、何言ってんだよ、俺が影山隼人以外、何に見えんだよ」


「す、すまん……あの影山がちゃんと答えられるなんて思ってなかった……」


 しまった……。


 隼人はそんなに頭が悪かったのかよ。こんな簡単な問題くらいできんだろ……。


 授業が終わると糸川は笑顔で教室を後にする。ああ見えて、出来の悪い生徒が成長すると喜ぶタイプなのかもしれない。


 問題には正解したが、まるで引っ掛け問題に掛かったような気分だった……。モブである隼人のステータスが良く分からない以上、普通だと思える行動でも控える必要があるかもしれない。


 だがそう思ったときには手遅れだった。


「影山くんって、実は頭も良かったんだね。びっくりしちゃった」

「なつ……星川か。たまたま正解しただけだって」


 なつみが俺の席の傍へ寄り、話し掛けてきたのだ。思わずなつみと名前で呼びそうになるがこらえる。


 そういえば、悠一は糸井に当てられ問題を間違え、叱られていたな。失意の悠一になつみが慰めに来たが奴はあろうことか、なつみに「ボクを馬鹿にしにきたのか!」って八つ当たりしてた。


 しかしまたなんで俺の下に来ちまったんだ?


 俺が正解したことでクラスメートたちは苦虫をすり潰したような顔をしていたが、なつみが俺のことを誉めていた。


「なつみ! 行くよっ!」

「えっ? 悠くんっ!?」


 そこにやってきたのが悠一で、奴はなつみの手を取ると二人で自分たちの席へと戻っていった。


 いいぞ! 


 悠一が俺に嫉妬してなつみのことを思う。


 そうだ、この流れのまま進んでくれ。



――――文芸部前。


 昼休みに俺はどうしてもハーコメが読みたかったので、挨拶がてら文芸部に凸していた。文芸部の部室であった準備室のプレートはすでに恋愛研究会へとすげ替えられている。


「すんません、こちらにラノベがたくさんあるって聞いたもので……できたらお貸ししてもらえるとありがたいかなって」


 部室のドアを開けると中央に長机にパイプ椅子、奥には窓があり、両隣の壁は本棚で埋まっていた。


 流石に図書室の蔵書に比べると少ないが、そこは腐っても元文芸部で先輩たちから引き継いだ秘蔵の図書があり、ゲーム内ではかなり趣味に偏っていたことを覚えている。


 もちろん俺の記憶の中では、学生らしく『は○ない』などのハーコメは網羅されていたはずなんだが……。


 悠一の奴はどこから拾ってきたのか分からないソファにふんぞり返って座っていた。


「入会希望? ウチ、募集してないよ」

「悠くん! せっかく来てくれたのに……」

「なつみは黙ってろって。ボクが会長なんだし、会長のボクが決めたことなんだよ!」


 悠一の傍らにはなつみと麗がおり、その奥には文芸部からの住人でありヒロインの一人、赤城冬乃あかぎふゆのが我関せずといった風に座って本を読んでいた。


 ギャルヒロインであるひいらぎセイラの姿ことがないということは、まだフラグは彼女の立ってないらしい。


 凸する前から分かっていたことだが俺は悠一から邪険にされていた。


「俺は本を貸してもらえるか訊ねただけで……」

「あーごめん、そういうのうちやってないから」


 悠一は野犬でも追い払うかのような仕草であしらうが、生憎と俺は恋愛研究会の秘密を知っており、暴露してやった。


「女子には本を貸してるって聞いたけどな。文芸部は性別で差別すんの?」

「もう文芸部じゃないよ。恋愛研究会だから」

「なにそれ? じゃあ、俺も恋愛研究会に入部すればラノベ貸してくれるんだろ?」


「キミが入部できればね」


 悠一は鼻でせせら笑うが、麗が申し訳なさそうに答えた。


「うちはうちの部員の推薦がないと入部できないの。ごめんね」


 なるほど部外者お断りってことか。


「そうか、邪魔したな」

「ああ、キミみたいな不良にこの会は相応しくない。二度と来ないでもらいたいものだ」


 別に入会したかったわけじゃなく、本を借りにきただけなのに、あの態度……。


 なつみはおろおろして、俺と悠一を交互に見ていたが、俺はつまらない争いをしにきたわけじゃないので、悠一たちの部室から去っていた。



――――放課後。


 俺は元文芸部へ行った際に麗のポケットに封筒を忍ばせておいたのだが……。


 封筒の中身をちゃんと確認したのだろう、のこのこやってくるなんて流石エロゲのヒロインだ。才色兼備と言われていようが、その実お股が緩いお花畑脳である。


「えーなんでしょうか? 私に告白ですか? あなた……鏡をご覧になったことはありますか?」


 分かっていたことだが麗の奴は男に対して塩対応で、悠一も童貞のときに麗に告って、こっぴどく振られている。


「何を勘違いしている。俺はおまえに告りに来たんじゃない」

「じゃあ、早くわざわざ私を呼び出した理由を言ってくださいませんか?」


「そうくな。おまえは俺に逆らえなくなるんだからな」

「何をバカなことを。この私があなたのような不良にびるわけが……」


 俺がスマホの画面を麗に向けると、さっきまで俺をさげすむ口の減らない麗が口を開いたまま塞がらなくなった。


「これ、おまえだよな?」


 目を手で覆っていこそすれ、真っ裸になり乳首はかにのハサミで、股間は本物のあわびで隠すという実に頭の悪い変態ショットで微笑みを浮かべている。


 特徴的な姫カットに加え抜群のプロポーションと左胸にある黒子から麗であることは隠しようがなかった。


 処女ビッチ。


 それが学校一の美少女と称される水谷麗の正体だ。


 麗は男子たちからモテにモテたが、男女の距離感が掴めず告白されても塩対応しか出来ないポンコツで、その苛立ちと性欲を慰めるために裏垢SNSにあられもないどすけべ自撮り画像をこっそりアップすることを趣味としていた。


 ただのどすけべ自撮り画像ならまだ救いがあったかもしれないが、こんなアホな姿の自撮り画像をアップしてることがバレたら、人生が十代で完全サ終確定だろう。


「私の身体が目的なのっ!?」


 麗は俺の言葉に嫌悪感と警戒心を抱いたのだろうか、胸元を腕で守り、引き気味で俺を見ていた。


 だが俺は正直麗みたいに金持ちお嬢さまで勉強も容姿も優れていかにも幸せそうな女の子に興味はなかったのではっきりと答えた。


「いや、ただ悠一に近づかないでいてくれるだけでいい」

「え?」


 麗はそう一言発したまま固まっているようだった。俺は輝美を待たせていることもあり、目的を達したことで校舎裏を後にする。


―――――――――あとがき――――――――――

今日はGQuuuuuuXジークアクスの公開日&発売日じゃん! 読者の皆さまは鑑賞や購入に行ったりされますか? 作者はとりあえず購入だけしてみようかと。


ちょっと本題から逸れたので、戻してお訊ねします。やっぱり悠一からヒロインたちを無自覚に奪い、惚れられる展開が良いですか? その展開をご希望の読者さまはフォローとご評価を是非ともお願い申し上げます。

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