Side:瀧野愛菜 決意
かつて因縁の場所となったダンジョンは、今は調査対象となっていた。
私は、心のどこかで戒斗が生きているんじゃないかって、僅かな希望を抱いて探索中だ。
一層、一層、詳しく隅々まで調査して戒斗の姿を探したが、彼の足跡は見つけることはできずにいる。
「それにしても、魔物が居ないなんてな……。どうなってるんだ?」
「これだけ詳しく探索してるのに、一度も遭遇しないのは、かなり変だねぇ」
「気配が一切しませんね」
所沢ダンジョンの中は、静まり返っていて、魔物の姿はどこにもなかった。
以前の喧騒が嘘みたいに、不気味な静寂が支配している。
「もうすぐ深層階に突入するが……」
「魔人ヴィネがどうなっているんですかね……」
「油断は禁物ね」
やがて、私たちはダンジョンの深層、かつて魔人ヴィネと激闘を繰り広げた場所に到達する。
やはり魔物の姿は見かけられない。
探索を進めていくと、闘技場のような場所にたどり着いた。
かなり広い空間みたい。ここで何をしていたんだろうか。魔物同士を戦わせたとか?
壁にはひび割れがいくつもあり、格子が付いた部屋のような物がいくつも闘技場内に見受けられた。
「地下にこんな場所があったなんて……。未調査地域ではあるが……」
「止まって! アレ」
立華さんの言葉で足を止めた。
指差された先を見ると、見覚えのある物が地面に転がっていた。
「魔人ヴィネの首!?」
「瀧野、立華、罠かもしれん! 慎重に! 武器を構えろ!」
「いえ、大丈夫。死んでます。生きてる気配は感じられません。誰かに倒されたとしか……。って!? あれ!?」
魔人ヴィネの首の隣には、見覚えのある図柄がチラリと見えた。
あれは……私と戒斗だけが知ってる秘密の合図!
思わず、身体が勝手にその場所へ駆け出していた。
「瀧野! うかつに動くな! 立華、サポート頼む」
「はいよ! 愛菜! 止まりなさい! ここは何が起きるか分からない場所だって忘れたの!」
「戎斗の合図が!」
「はぁ!? 合図って何? 愛菜!」
戒斗が残したと思われる合図の場所に近寄る。
「途中で途切れてる……。戎斗……。嘘だよね。戎斗……」
その合図は、途中で途切れていて、戒斗がここで力尽きたことを物語っていた。
あの後、戒斗はやっぱり生きてたんだ……。
でも、ここで魔人ヴィネによって再び襲われ、力尽きた……。
だって、これは別れの合図……。
孤児院を一人で去ることにした戎斗が、書き残したやつだし……。サヨナラの意味で使った合図だから……。
心の片隅に抱いていた僅かな希望が潰えた事実を突きつけられて、私の目から大粒の涙が溢れた。
「戎斗ぉおおっ! 戒斗ぉおおっ!!!」
幼馴染がもうこの世界に存在しないことへの怒り、悲しみ、そして自分の無力感。
色んな感情が私の胸の中で渦巻き、その場に倒れ込むと、子供のように泣きじゃくった。
私の涙が枯れ果てた頃、所沢ダンジョンの調査は終了し、魔人ヴィネが討伐されたことが正式に確認された。
地上に戻って臨時で設営された探索者ギルド事務所に帰還の報告をした後、私は呆然と空を見上げた。
一度は前を向いたはずの心が、あの別れの合図を見たことで、戒斗を完全に失った喪失感が私を支配していた。
幼い頃、二人で一緒に遊んだこと。
ケンカしても、すぐにお互いが謝って仲直りしたこと。
施設の大人の目から隠れて、将来の夢を語り合ったこと。
それらの思い出が、走馬灯のように私の脳裏を駆け巡った。
空を見て佇んでいた私の背後に人の気配がした。
「瀧野……」
「愛菜……」
清水さんと立華さんだった。
きっと、私のことを心配して様子を見に来てくれたのだろう。
ダンジョンでは取り乱したところを見られたわけで、2人が私を心配していることは声だけで分かった。
「分かってる。もう、大丈夫だから。大丈夫。うん、大丈夫」
私は、深呼吸をした。そして、前を向いて歩き出した。
死んでしまった戒斗の分まで、強く生きなければならない。
私の心には、いつも戒斗がいる。
彼の笑顔、彼の言葉、そして、彼との思い出。
それらは全て、私の心の支えとなり、私を前へと進ませる力になる。
そして、いつの日か、この悲しみを乗り越えて、戒斗との思い出を笑顔で語れる日が来ることを、私は信じている。
それができるようになるには、やるべきことが一つあった。
そう、それは、私の復讐相手である魔人ヴィネを殺し、所沢の街を壊滅させた収奪の魔王カイの討伐だ。
もしかしたら、戒斗を殺したのは、収奪の魔王を名乗ったあいつの方かもしれない。
いや、絶対にそうだ。そうに違いない。
戒斗の供養のためにも、あの収奪の魔王を倒す。
私の目標は定まった。
泣いて、しょぼくれている時間などない。
収奪の魔王 ~俺だけレベルアップする最強スキルを手に入れたので、クソッタレな世界を滅ぼすことにした~ 第一部完
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第一部完結までお読みいただきありがとうございます。真主人公瀧野愛菜の決意をもちまして、一旦、ここで筆をおき、既存作の更新や確定申告作業に入らせてもらいます。
本作はカクヨムコン10に参加しておりますので、☆やフォロー等で応援して頂けると幸いです。
本作はバトルシーン多めであるため、できれば、CW賞を頂き、漫画原作になればいいなと思っております。
シンギョウ ガク
収奪の魔王 ~俺だけレベルアップする最強スキルを手に入れたので、クソッタレな世界を滅ぼすことにした~ シンギョウ ガク @koura1979
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