Side:瀧野愛菜 変化


 Side:瀧野愛菜



 魔人を倒して手に入れた竜の鱗で拵えた新しい武具を身につけ、私は渋谷ダンジョンの深層階をみんなと探索していた。



 魔物の気配を探りながら歩いていると、急に背後から警告音が鳴り響く。



「瀧野、立華。探索者ギルドから、全探索者に帰還命令が出た。すぐ戻るぞ」



 ダンジョンの中は電波が届かないため、通常の通信機器は使えない。



 代わりに、魔物の素材を利用し、魔力を使って通信するアイテムが、探索者たちには与えられていた。


 

 私たちのパーティーで、その通信アイテムを持ってるのは、清水さんだけだ。



「帰還命令ですか?」



「全員なんて珍しいね?」



「どうやら、非常事態宣言が出されたらしい。詳しい情報は戻らないと分からないが……」



「何年振り? 宣言されたってことは、どっかで、相当ヤバいことが起きたってことだよね?」



「ああ、たぶんな。どこかのダンジョンから魔物が溢れ、被害が出たんだろう。考えられるのは……」



 清水さんの言葉を聞いて、ピンと来る場所が浮かんだ。



「所沢……」



「かもしれないな。すぐに戻ろう」



 清水さんが脱出ポータルを作り出し、地上へ帰還を果たすと、探索者ギルドの建物に駆け込む。



 すでに帰還した探索者たちでごった返していた。



「愛菜……アレ」



 立華が指差した先にあった巨大なテレビに映し出された光景に、私は言葉を失った。



 所沢の中心地が……まるごと消えていたのだ。



「街が……」



「これは、酷い…」



 ライブ中継から、録画に切り替わった映像には、所沢ダンジョンから現れた魔人が街を破壊していく様子が映っていた。



 女性の姿をした魔人。



 今まで出会った魔人のどれよりも凶悪な力を持っており、探索者たちが集まっていたであろう、ギルドの建物を吹き飛ばした映像が流れると、他の探索者たちからため息が漏れた。



 でも、それよりも私の心を凍らせたのは、その後現れた異形の存在。



 さっき流れたライブ映像で、収奪の魔王カイと名乗った者だ。



 そいつは、たった一撃で三十万都市の中心部を跡形もなく吹き飛ばした力は、魔人の中でもダンジョン主と言われるような上位存在を思わせる力だった。。



 映像のおかげで、数年ぶりに発令された日本政府からの非常事態宣言の意味を、私は嫌というほど理解した。



「あんなやつと、まともに戦えるのかよ……。相手は街一つ消す力をもってるんだぞ」



「でも、地上を自由に歩かせるわけにも」



「政府が非常事態宣言したとなれば、オレらは最前線で戦わされるんだ。若いやつらは覚悟決めとけ」



「ひぃ、か、覚悟とか無理っス」



 十数年前に起きた混淆ノ刻から魔物との戦い抜いてきたベテラン探索者たちは、映像を見ても動揺した様子を見せず、自分と同じくらいの歳の探索者たちは映像を受け入れられないのか、そわそわとした雰囲気を見せていた。



 現実感……ないって……。でも、自分が生まれてすぐには、こういうことが起きてたんだし。



「瀧野愛菜のパーティーは帰ってきているな! ギルドマスターがお呼びだ!」



「呼び出し?」



「ああ、たぶん、私らは派遣されるんだろう」



「なるほどね。調査隊にか」



 立華さんと清水さんは呼び出しの意味を察したらしく、お互いに頷き合っていた。



「派遣ですか?」



「ああ、所沢に戻ることになる。姿を消した収奪の魔王の追跡は、軍がまずはやるだろう。だから、我々はダンジョンの調査をすることになる。魔人ヴィネが、新たに生み出した魔人なのかも調べないといけないしな」



「所沢ダンジョンに……」



「ああ」



 ギルドマスターと面会すると、告げられたのは、予想通り所沢への派遣命令だった。



 話し終えると、休む暇もなく、清水さんと立華さんと一緒に、ヘリで所沢へ向かうことになった。



 ヘリでの移動中、眼下には巨大なクレーターができた所沢の中心部が見えており、軍や警察や消防による救助活動が行われているのが見えた。



 どれほどの人が被害に遭い、亡くなったんだろうか……。



 一般の人たちの魔人や魔物への恐怖は薄れていたけど……。



 今回の件で、魔物を狩るのが仕事である探索者たちへの風当たりが強くなったりするのかな……。



 そんなことを考えていたら、ヘリは郊外の中学校に作られた臨時ヘリポートに降りていく。



 学校は怪我人や避難民で溢れ、Sランクを始めとした探索者たちが集められた場所は野営のテントの中だった。



 中に入ると、軍服の人と一緒に探索者ギルドの職員の制服を着た人たちが集まっていた。



「よく来てくれた」



「君らが一番近いところにいたSランクのパーティーだったとはな。清水君」



 清水さんと立華さんは、軍服の人と知り合いらしく



「この様子だと、私らが先発隊ですか?」



「さすがベテランの清水君は話が早いな。悪いがそういうことだ。魔人ヴィネが活性化して封鎖していたダンジョンから出てきた2体の魔人が、想像を絶する強さを見せた。当然、日本政府としても、ダンジョンの中を調査せねば救助活動も続けられないとの判断をしている」



「第二、第三の魔人が出てくると思ってる?」



「君は橘立華君だったな。君が瀧野君と清水君のパーティーに入ったという話は聞いていたが、今回の調査隊には好都合だ。それがないかを調べて来て欲しいのだ」



「サポートは?」



「所沢の探索者ギルドは壊滅、外にいた数名が同行する予定だ。みんなBランク以上としてある」



「非常事態宣言下であるため、探索者の我々に拒否権は認められてませんし、早々に調査に入ります。瀧野、立華、装備の確認後、他の探索者たちを連れて、潜るぞ」



 清水さんの提案に、自分はただ頷くしかなかった。


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