第24話 強敵、連戦


 翌日、闘技場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのを感じた。



 初日の、どこか緊張感の薄い、言ってみれば「余興」のような雰囲気は微塵も残っていない。



 代わりに、研ぎ澄まされた刃のような、殺気とでも言うべきものが充満していた。



 周囲を見渡せば、明らかに初日とは格が違う、強者のオーラを放つ魔物たちがずらりと居並んでいる。



 心臓の鼓動が僅かに早まるのを感じたが、恐怖はなかった。



 危機察知スキルの表示に触れ、対戦相手たちを鑑定していく。



【魔物名】ミノタウロス


【系統】獣人系


【スキル名】大地の怒り(大地を揺るがし、地割れを起こす一撃を放ち、敵全体に物理ダメージを与える。まれに敵をスタンさせる効果がある) 猛牛の突進(一直線上に向かって猛烈な勢いで突進し、対象物全てに物理大ダメージを与える)鉄壁の構え(DEFを一時的に大幅に上昇させる)


【能力】ATK:A DEF:B SPD:D INT:F DEX:D LUK:D


【属性耐性】火: B 水: B 風: B 土: B 光: B 闇: B 毒:D 麻痺:D


【素質ランク】C




【魔物名】オーガ


【系統】亜人系


【スキル名】雄叫び(咆哮で周囲の敵を威嚇し、一時的にATKとDEFを低下させる) 自己再生(中)(自らの身体を自己再生させる。再生量が増えるため再生速度アップ。欠損部位の再生も同じく速度アップ) 拳強化(素手による攻撃の物理ダメージを増加させる)


【能力】ATK:A DEF:A SPD:B INT:F DEX:C LUK:D


【属性耐性】火: A 水: D 風: C 土: SS 光: F 闇: B 毒:G 麻痺:E


【素質ランク】B




【魔物名】レッサードラゴン


【系統】飛竜系


【スキル名】火炎の息吹(範囲内の敵に対し、火属性ダメージを与える) 翼の羽ばたき(状態が飛行に変化して、地面から浮き上がる) 竜の咆哮(聞いたものを委縮させ、恐慌に陥らせる可能性がある)


【能力】ATK:A DEF:B SPD:A INT:D DEX:B LUK:C


【属性耐性】火: B 水: D 風: F 土: B 光: D 闇: C 毒:C 麻痺:B


【素質ランク】C




【魔物名】レッサーデーモン


【系統】悪魔系


【スキル名】火球(着弾地点を中心に範囲内の敵への火属性ダメージを与える範囲攻撃) 暗黒の波動(敵単体に闇属性ダメージを与える) 闇の霧(範囲内の者の視力を奪う)


【能力】ATK:C DEF:D SPD:B INT:B DEX:C LUK:F


【属性耐性】火: B 水: D 風: D 土: B 光: D 闇: C 毒:C 麻痺:B


【素質ランク】A




【魔物名】ゴブリンチャンピオン


【系統】亜人系


【スキル名】狂乱の一撃(自身のATKを一時的に大幅に上昇させ、強力な一撃を繰り出し、物理大ダメージを与える。使用後、一時的にDEFが低下する) 汚い手(地面の土や砂をかけ目つぶしして、相手に奇襲をかける。対象者の回避率ダウン) 弱体化の雄叫び(周囲の敵のDEFとSPDを一時的に低下させる雄叫びを上げる)


【能力】ATK:S DEF:B SPD:A INT:C DEX:B LUK:D


【属性耐性】火: C 水: D 風: B 土: B 光: D 闇: A 毒:C 麻痺:D


【素質ランク】C




【魔物名】ネクロマンサー


【系統】アンデッド系


【スキル名】隷属(対象者を自分の支配下に置くことができる。隷属した者を自由に使役できる。永続効果) 死霊召喚(ゾンビを召喚し、一定時間共に戦う。召喚されたゾンビは敵の注意を引きつけ、ネクロマンサーを守る盾となる) 生命吸収(敵単体に闇属性の魔法ダメージを与え、与えたダメージの一部を自身の傷の治癒に利用する)


【能力】ATK:C DEF:B SPD:D INT:SS DEX:E LUK:D


【属性耐性】火: D 水: C 風: B 土: A 光: F 闇: SS 毒:S 麻痺:B


【素質ランク】E




 なるほど、今日から本番ってわけか。



 確かに強い。今まで戦ってきた魔物とは比較にならないほど強い連中だ。



 素質ランクの強いやつもチラホラ混じってる。



 でも、勝てねぇ相手じゃない。



 弱点があるし、スキルを駆使すれば、勝機はある。対多数にならなければだが。



 魔物たちは既に臨戦態勢に入っており、今にも飛びかかってきそうな気配を放っている。ならば、こちらも遠慮はいらない。



 俺は静かに呼吸を整え終えると、開始の合図を待つまでもなく、最初の獲物に向け、斬りかかった。



 最初に目をつけたのは、巨体から凄まじい威圧感を放つミノタウロスだ。



 巨大な斧で俺の大剣を受け止め、荒々しい息遣いを漏らしている。



「卑怯だぞ! 人間! まだ合図がっ!」



「ああ? 卑怯なものか! 俺とお前らで殺し合いするんだろ! 合図なんて不要だろうが!」



「ふざけた野郎だ! ヴィネ様の神聖な闘技場を汚しおって! ぶった切ってやる!」



 その巨体に見合わぬ俊敏さで、ミノタウロスが斧を振り下ろしてきた。



 風を切る音が唸りとなって耳に届く。



 早いけど、かわせないやつじゃない。



 タイミングを見計らい、紙一重でそれを躱し、体勢を崩したミノタウロスの足に蹴りを入れる。



「ぐぅ! 小癪なやつめ!」



 巨体が僅かにぐらついた隙を見逃さず、大剣を振るう。



 ミノタウロスの分厚い皮膚に大剣が食い込む感触が手に伝わったが、深手には至らない。



「我が皮膚を切り裂けると思うたか!」



「チッ! 簡単にはやらせてくれないか」



 やはり、並の攻撃ではこの巨体には通用しない。だったら――。



 毒爪を発動させると、赤く淡い光をまとって伸びた爪で、ミノタウロスの皮膚を貫こうと突き出した。



 爪による攻撃強化の恩恵で、固いミノタウロスの皮膚を何とか貫いた。



「ブモォオオオ!」



 毒が効いた! 次はこれだ!



 ミノタウロスに向け、腐蝕麻痺毒を発動させ、霧状の毒を口から吐き出す。



 霧を浴びた固い皮膚から白い煙が上がり、俊敏な動きを見せていたミノタウロスの動きが、ぎこちなくなった。



「卑怯な……。卑怯だぞ! ゴフッ! ゴフッ!」



「うるせえよ。餌の分際で喋るな」



「卑怯者めがっ!」



 怒り狂ったミノタウロスがぎこちなくなったまま再び斧を振り上げる。



「死ね、卑怯者!」



 今度は横薙ぎだ。遅い、遅い。避けるのは余裕だ。



 ひらりとかわすと、白い煙をあげるミノタウロスの腕に大剣を振り下ろした。



 大剣は固い皮膚を貫き、斧を持っていたミノタウロスの腕を切断する。



「人間めぇ! 我が腕を斬り落とすとは!」



「うるせぇ、ちゃんと両腕落としてやるから待ってろ」



 わめくミノタウロスに対し、大剣を斬り上げると、反対の腕も断ち切った。



「ブモォオオオ!」



 切断された両腕から大量の血が地面に滴り落ちていく。



 回帰の短剣を取り出し、ミノタウロスの目玉に向けて投擲する。



 短剣は俊敏さを失ったミノタウロスの目玉に容易に突き立ち、俺の手元に戻ってくる。



 もう一度、ミノタウロスの目玉に向け回帰の短剣を投擲し、命中させて視力を完全に奪った。



 これで、唯一ミノタウロスに残された攻撃手段の突進も怖くなくなった。



 あとはトドメを刺すだけだ!



「馬鹿者が! 人間に油断しおって!」



 ミノタウロスにとどめを刺そうとすると、今度は別の魔物が襲いかかってくる。



 屈強な肉体と醜悪な顔を持つオーガだ。その怪力から繰り出される拳は、ミノタウロスの斧に匹敵するほどの破壊力を持つ。



 オーガの拳を、大剣を盾のように構え、受け流そうと衝撃に備える。



 凄まじい衝撃が大剣を通して腕に響き、体勢を崩された。



「雷光」



 追撃をしようしたオーガの目の前に眩い光が拡がると、雷が落ちた。



「グギャアア!」



 効いてる。効いてる。光属性の雷光で大ダメージだろ。



 しかし、焼け爛れたオーガの皮膚が即座に再生されていく。



 再生持ちはめんどくせぇ。



 オーガが雄たけびを上げると、身体が委縮したように動きが鈍くなる気がした。



 やっべえ、雄たけびの効果かよ。隠れるしかねぇ。



 昨日倒した魔物の戦利品にあった黒闇の指輪の力を解放する。



 夜目でしか視界が取れない真っ黒な闇の霧が、俺の周囲を包んでいった。



「隠れおって! 卑怯な! 戦士としての誇りはないのか!」



 あるわけがない。俺は戦士ではないしな。



 ただ、生き残り、勝って相手の力を奪い取ればいいとだけ思ってるんだよ。



 オーガの拳が黒い闇の霧を振り払うかのように、繰り出され続ける。



 視界は取れてないようだが、気配を感じてるっぽいな。だったら――。



 俺はさっき両腕と視界を奪って戦闘不能になったミノタウロスの背後にそっと隠れる。



 闘技場に広がった闇の霧は、ミノタウロスと俺の姿をすでに隠しきっていた。



「そこか! 人間!」



 オーガの拳が、固いものに当たり鈍い打撃音が響く。



「防ぎおったか! 小癪な! だが、捉えたぞ! オラオラオラァ!」



 オーガが再び拳を繰り出す。今度は連打だ。



 鈍い打撃音が何度も響き渡り、血が大量に地面に落ちる音がした。



 地面に落ちているのは、俺の血ではなく、ミノタウロスの血だ。



 協力感謝、ありがとな。トドメは任せろ。



「ブモォオオオ!」



 隠れていたミノタウロスの背中から思いっきり大剣を突き入れ、心臓を貫いて絶命させた。



 絶命したミノタウロスから奪ったスキルが、俺の身体に取り込まれる。




【スキル名】大地の怒り LV1


【効果】大地を揺るがし、地割れを起こす一撃を放ち、敵全体に物理ダメージを与える。まれに敵をスタンさせる効果がある。レベルアップで物理ダメージとスタン確率がアップ。




【スキル名】猛牛の突進 LV1


【効果】一直線上に向かって猛烈な勢いで突進し、対象物全てに物理大ダメージを与える。レベルアップで、物理ダメージアップ。




【スキル名】鉄壁の構え LV1


【効果】DEFを一時的に大幅に上昇させる。LVアップで持続時間延長。




 戦闘スキルの充実は攻撃手段の充実なので助かる。



 指輪から放出されていた闇の霧が晴れていく。



 効果時間切れのようだ。再使用まではしばらくかかる。



 霧が晴れると、ボコボコに顔を腫らしたミノタウロスの死骸がゆっくりと地面に倒れた。

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